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藤崎義人という男

 口の中に広がる鉄と錆びが混ざったような味。


 歯に挟まってる皮。


 戻ってくる人間視点の景色。


 ──気持ち悪い。


 でも、僕が理性を保つ···取り戻すには仕方ない事なんだ。


 とりあえず意識は戻った。


 バリケードに武装した二人の男か···さしずめ衛兵か。


 その衛兵を食い殺したんだから騒ぐよなぁ。


 先ほど食い殺した二人の衛兵がのそのそと起きだし、よだれを垂らして呻き声をあげ、目が虚ろというゾンビらしき者の症状が出ている。


 やっぱり僕もゾンビらしき者なんだろうか? 人を食べたりするもんなぁ。




「おい! お前ら! 何をして──!? 大谷!? 大谷達を食い殺しやがった! 山村! すぐに町の男達を集めてこの3体···いや、食われた大谷達もすぐゾンビになるから5体だ、5体倒す為に10人集めて来い!」


 ──交代か!


 面倒だな。


 増援が来る前に···いや、逃げてどうする?


 逃げても追われる事になるかもしれない。


 ならこのまま攻めるか? こちらの戦力はジンと新入りのゾンビらしき者の2体の計4体。


 ジンに限っては負傷をしているが、痛みを感じているかわからない。


 相手は今1人、増援を呼びに走る男。


 よし、"ジンは目の前の衛兵を! 新入りの2体は増援を呼びに行った男を攻撃! 全力で走れ!"


 さっき意識を取り戻して気づいたけど、僕の頭の中にある考えを意識して他のゾンビらしき者に伝える事が出来るってわかった。


「ふぃがりゃふぃふぁん(五十嵐さん)!! にふぇふぁいふぉ(逃げないの)!?」


 しずくか···さすがに女の子じゃ戦えないだろうし、そもそも17歳の女子高生に殺しなんかさせられない。


 このコミュニティに入れ歯かなんかあったりしないかな? しずくが不憫すぎる。若いのに総入れ歯なんて。


 僕は親指でさっき来た道を差し、逃げろと指示を出した。


「あ、逃がさねぇ──って、なんであの女ゾンビ走れるんだ!? とにかく逃がさねぇ! 仲間をやりやがった奴を逃がすかよ!」


 お前の相手は僕だ。


 しずくは追わせない。


 さぁ! 狩りの始まりだ!


 応援を呼びに行った男に新入り2体がすぐに追いついたからひとまずは安心。


 問題は──


「おらぁ! ゾンビども来いやぁ!! 山村だって鍛えられた男だ、すぐにはやられねぇし、もし殺されても俺がお前らを全員倒せば問題なしだ! 俺は強ぇぞ?」


 自分で自分を強いとか言っちゃうの本当にいるのか。


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ー!!」


 まずは、ジンが仕掛けて行ったけどやっぱり動きが鈍い。


 難なく避けられてる、さっき背中に攻撃を受けてスピードも落ちているジンには厳しいか。


 だけどジン1体だけなら···ね。と!


 避けてすぐに次の動きを考えられない素人なら余裕だよ。


 避けた時に隙が生まれて、予想外の攻撃に対応できないのが素人は気づけない。


「がっ!? くそが! お前らゾンビじゃねぇのか!? 動きが人と変わらねぇし、チームプレイまでかましてきやがる!」


 ちょっと浅かったかな? 蹴りを入れた時に手応えはあったけど······違うな。僕自身の力不足で致命傷にならなかったか。


「おじさん、僕は人間なんだよ。ゾンビらしき者から人間に戻ったけど、その代償に人間の肉や血が必要になったんだよ。」


「!? お前喋れるゾンビかよ!?」


「話がわかんないのおじさん? 僕は人間!! それとゾンビじゃなくて『ゾンビらしき者』だ······よ!!」


 くっ! この蹴りまで避けるの? ジンも一緒に攻撃しているのに避けるし。


 このおじさん喧嘩慣れしてる?


 ──楽しい! いいよ! いい! こういうやり取り!


 僕は元々弱かった。


 喧嘩だってした事ないし、いつも逃げてばかりの17年だった。


 でも紅林達を倒した時から、突然知識が入ってきた。


 誰の知識かはわからないけど格闘技の知識が。


 知識があれば戦えるわけじゃないけど、僕にも使えそうな知識を試しながら今攻撃しているが、わくわくが止まらない。


 止まらなくなった。


 人を傷つけるのが楽しい。


 争いが楽しい。


 人は力を手に入れると飲み込まれるって、アニメだか映画のセリフがあった気がするけど今はわかる。


「次はこっちの番だぞ、ゾンビ野郎!」


 ジンの腹に蹴りをかまして間合いを作り、持っていたバットをおもいっきり振りかぶった。


「まずい! ジンさらに後ろに逃げろ! 向かうな!」


 ぐるぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!


 ダメだ、興奮しているせいか真っ向勝負にいってしまった。


「上等。」


 振りかぶったバットは、ジンの頭を粉々に飛び散らさせた。


 ビクンッと体は痙攣しながら膝から崩れ落ちた。


「さて、残すはお前と逃げた女ゾンビとゾンビ化した大谷達···と思ってたら山村の奴根性見せたじゃねぇか? 大谷ゾンビ達を道連れにちゃんとして相討ちとは。」


 このおっさんと勝負か。


 勝てるのか? いや、勝たなきゃならない。


「おっさん名前は?」


「敵に名前を聞くなら、まずはお前からが道理だろうが···まぁガキだし、いいか。俺は藤崎義人(ふじさきよしと)。」


「僕は五十嵐義光。」


「本当にお前ゾンビじゃねぇのか?」


「だから、ずっと違うって言ってるじゃないですか。」


「···お前うちのコミュニティに入らねぇか?」


 ちょっと待って。


 藤崎は、仲間になれって言ってるのか? さっきまで殺し合いしてたのに?


 罠······なのかな? あえて乗ってみるか? だけど、しずくは? しずくはどうする? 藤崎のいうコミュニティが安全か確認できるまでは無視しておこうか?


「ねぇ、さっきまで殺し合いしてたのに突然仲間にならないか? なんて信用が······」


「細かい事は良いんだよ! こっちは貴重な戦力が3人もなくなったんだ。戦えるのが俺ら30代しかいねぇ。それも8人だけだ! 残りは女と年寄りだけ! 今はガキだろうが何だろうが戦力を補充しねぇと次またあいつらから襲撃があったら守りきれねぇんだ!」


 こいつらを襲撃している集団までいるなんて。


 隣町まで行く予定だったけど、行った所で······の可能性が高いか。


 それに女もいるって言ってたから、しずくを連れてきても大丈夫そうだし、やたら動き回るより今は仲間を作った方が安全かもしれない。


 この誘いにのってみるか。


「わかった。 なら、僕達は仲間になる。僕達もやたら動き回るより仲間を作って固まってた方が安全かもしれないし。」


「僕達? さっきの女ゾンビの事言ってんのか? ダメだダメだ! さすがにゾンビは──」


「しずくも人間だよ、捕まってたのを助けた。」


「そうなのか? ゾンビじゃねぇなら文句はねぇよ。」


「しずくー!!!! 戦いは終わった! 今日からこの人······藤崎さんのコミュニティで仲間にしてもらう事になった!」


 聞こえるかな?


 結構時間経っちゃったから、声が届かない所まで行っちゃったかな?


「······」


「······」


「出てこねぇな。」


「出てこないね。」


「待ってても仕方ないから一度俺らのコミュニティまで行かないか? 面通しもしてぇし。」


「いや、ちょっと待ってよ! 仲間の死はどう説明する気なんだ!?」


「ゾンビに突然襲われてどうしょうない所にお前が来たとでも言っときゃ良いんだよ。」


 呆れた。


 平気で嘘をつくのか。


 仲間って呼んでいる人達に。


 藤崎の事も信用しすぎないようにしよう。


「わかった。だけど、平気で嘘をつくんだね?」


「何でもかんでも真実を言えば良いってもんじゃねぇんだよ。じゃ、一旦向かうぞ? 明日の朝にでも山に入って探しに行ってやれ、本当に人間の女の子なら不安で仕方ねぇはずだから。」


 そういうと藤崎はバリケードの方に向かって歩きだした。


 とりあえず僕は、ここで強くなろう。


 今のままじゃダメだ──。

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