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殲滅

 埃臭い空気と吐き気を催す生臭い匂いが、その空間に足を踏み入れた途端に僕にまとわりついてきた。


 あまりの臭気に吐き気を催し、咳き込んでいたら「ガキはまだこの大人の匂いがわからねぇか?」と声高らかに叫ぶモジャモジャ頭。


 口からはよだれを垂らし、歯が何もないように見える。


 僕とそんなに変わらない女の子が、鎖に繋がられ肌を隠す物は何一つ纏っておらずその目には光がない。


「さとちゃんこの子···」


「そうか、五十嵐君はまだ高校生だったね。女ってさ~力弱くて男の慰み物として生かされてんのに生意気だと思った事ない? 俺はずっと思ってたんだよ~」


 そう言うさとちゃんの顔が醜く歪んだ笑いになり、女の子の方に向かって行くのを黙って見てるしかなかった。


 怒りがこみ上げてくる。


 くるんだけど、恐怖が上回ってて体が動かない。


 僕に力があれば──


 力があったら僕は本当にこの人達をぶん殴る事が出来たのか? 何をするにもまず、自分を正当化する事ばかりを考えてきた僕に。


 僕は変わるんだ。


「あの···その子を自由にしてあげましょ─」


 後頭部に激しい痛みを感じた時には、地面に体がくっついていた。


 "綺麗事言ってんじゃねぇよガキが"


 薄れていく意識の中で、最後に聞いた声と言葉···人ってこんなに残酷になれるのか。


 それが気を失う前に最後に思った僕の考えだ。


 ────────



「結局こうなっちまったじゃねーか。だから俺は言ったはずだぜ? "こいつは役立たずだから処分しちまおう"って。」


「んー。何かの役に立つと思ったんだけど、ダメだったなぁ。戦力が二人も抜けたから補充しておきたかったんだけど、やはり現実も知らず、見ようともしない擁護されて生きているだけの口だけは一丁前な10代若者は使えないな。」


 さて、処分をどうするか?


 ニコニコもとしも多分五十嵐君を殺さなきゃ納得しないし、そもそも殺しちゃうだろうしなぁ。


 五十嵐君は可愛い顔してるから食べちゃいたいんだけどなぁ。


 どうしたものか······。


「おい! さとちゃん! こいつ殺しちゃうぜ?」


「おい! ちょっと待て!」


 くそ! これだから脳筋は!


 え?


 それは突然起きた。


 五十嵐君の頭めがけて、としが振り下ろしたバットを避けてすぐに立ち上がり──


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ー!!」


「なっ!? なんだよこいつ、そんな声を上げたところでお前に勝ち目なんかねーんだよ! 某アニメみたいにスーパーなんとかになるわけでもあるめぇ。早く死んじまい──」


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」


「ブルゥ"ア"ア"ア"ア"!!」


 くそ! ドア開けっ放しだったのか!


「嘘だろ!? この辺一帯のゾンビどもは片付けてあるはずなのに!? まぁ、いい。 ゾンビが二体増えた所でなんだってんだ!」


 こういう時こいつら頼りになる。


 戦闘要員として連れてた甲斐があるってもんだ。


 あのゾンビ二体を彼らが相手している間に──


 カーン!!!!


「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 バットを空振りして地面を叩く音、叫ぶニコニコの声。


 五十嵐君から彼らに目線を移し驚愕した。


 ニコニコの頭を片手で鷲掴みにし、90kgはありそうな体が宙に浮かされ足をバタつかせて余程痛いのかいつも持っていた鉈を地面に放り投げ、ゾンビの腕を掴み抵抗するも叫び声をあげなくなった後に抵抗していた腕もだらんと体の横に戻ってしまった。


 ニコニコが意識を無くしたとわかったのか、細身のゾンビはそのまま食事を開始。


 としが相手していた小柄な丸坊主ゾンビは人間の動き─それも武術か格闘技─をするかのようにすばしっこくとしの攻撃を避けている。


 こんな奴ら見たが事ない。


 あの時のゾンビどもは武器を使うだけで動きはノロノロと遅かった。


「くそ! くそ! くそ! なんなんだよ! テメーは!? 」


 ──!?


 としが叫んだ後に一気に間合いを詰め、腹に一撃を与えた。


 その前にあのゾンビ絶対笑った···人間のように。


 なんなんだこいつら···。


 としの体が"く"の字に曲がった所を首に噛みつき、食いちぎりそのまま食わずすぐにこっちに突進してきた!


 ······と、思ったら俺を無視してその向かった先には女。


 ふっ。ゾンビといえど女が好きなのか。


 ならばこれからは、女を囮にする方法もあるな。


 俺は必ず生き延びれ──


 女に向かうゾンビに五十嵐君が行く手を阻んだ。


 それに素直に従うゾンビ。


 なんだ? これはどういう事だ?


 五十嵐君の言う事を聞いた?と見ていいのか?


「ぐわっ!」


 突然後ろからさっきのゾンビが乗り掛かり、ゾンビ化したとしとニコニコも続いて飛びかかってきた。


 くそ! これはまずい!


 俺は生き延びるんだ! 生き延びなきゃならん!


「そぉいふをこふぉしゅて!(そいつを殺して!)」


 あのバカクソ女~。


「ぐぎゃあ! 痛い痛い! ふざけるな! なんで俺が殺されなきゃならねーんだ!」


 五十嵐の野郎は突っ立ているだけでさっきの小柄なゾンビもずっとあいつのそばから離れねーし、あの女を襲わない。


 どうなってやがるんだ?


「みんな待って。」


 その五十嵐の一声で俺を食うのをゾンビどもがやめた?


 こいつゾンビを操れるのか? 仲間なのか?


 しかし、今さら食うのをやめさせても俺がゾンビ化するのは止まらないが、ゾンビになっちまえば苦しみも何もないだろう。


「みんな、こいつの手足を先に食いつくして内臓は食べちゃダメ。」


「あぎゃぁぁぁ!! やめろ! 五十嵐やめさせろ! おい!」


 あぁ~どんどん食われていく···いてぇ、いてぇよ。


 早く死なせろ。


 ゾンビにしてくれ。


「そうそう、あなたを普通のゾンビ化はさせないよ? 一生死ねない体で自我と痛覚を残してあげる。」


 ゾンビどもが突然どいて、俺の腕がなくなってるのがわかる、足も多分ないだろう。


 ゾンビどもがどいて、入れ替わりに五十嵐が俺の所に来た。


 五十嵐は突然俺の頭に噛みついたが、不思議と痛みはない。


「さぁ、これで終わりです。 あなたはゾンビでも人間でもない中途半端な存在。ここで永遠に生きて。」


 3···


「何を言ってやがる! 痛みはもう感じてないし、このままゾンビ化しちまえば俺は苦しむ事を感じない!」


 2···


「······」


 1···


「おい! 五十嵐! てめぇ何黙ってんだ!?」


 ゼ~ロ···


「バイバイさとちゃん、そしてようこそ。激痛を伴い苦しみしかない世界へ───」


 いってぇ!? なんだ!? 突然体中が!?


 ずっと体をヤスリかなんかで削られているみたいな激痛が襲ってきやがったし、全然意識がなくならねぇ!?


「ガッ···ギィギギ···ア"ア"ア"」


 ──!?


 声が出せない···!


 嫌だ! 苦しいのは嫌だ! 痛いのは嫌だ!


 死なせてくれ!


 死なせろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!



「ざまーみろ」


 五十嵐の奴はそう言った後に倒れこみ気を失ったみてぇだが、俺のこの痛みはなんだ? ちゃんと説明してから気を失うなり、死ぬなりしろや!


 頭に何かが入ってくる!


 焼ける焼ける焼ける焼ける焼ける焼ける焼ける焼ける!!


 体が熱い!! 血! 喉が! 体が!


 渇く! 渇いちまうよ!


 もう助けてくれ。 安らかな死をく──

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