ゾンビの世界にようこそ
──いつも通りに狩りを楽しんで、女を見つけたらペットに、男を見つけたらなぶり殺しに。
ずっとそうして来た、楽しんできた、この3週間天国だった!
なのに今の状況はなんだ?
あいつら吉澤を刻んで"食ってやがる"
人間······じゃないよな? 明らかに。
首が食いちぎられている奴、顔を齧られている奴、人間なら生きていられるわけがない。
そもそもあいつら道具が使えるのか? 今まで何百とゾンビ狩りして来たが道具を使う奴らなんて初めてみたし、第一あの俺でも手がつけられない···世界がこんなんになる前から暴れまわっていた吉澤を声一つあげさせず殺したのが信じられん。
雄叫びなり、助けなりを呼べたはず。
くそっ。
とにかくこれはヤバい。何か違う。
一旦紅林達と合りゅ──っ!?
攻撃されたのは確かだ、とりあえず手にしてたバットを振り回すも手応えが全くない?
まるで間合いを取られ···。
ちくしょう! 割れたみたいに頭がいてぇ!
ちっ!
本当に割れやがったか!
血が目に入ってきて左目が開けらんねぇ。
さっきまで吉澤を刻んで食っていたゾンビ連中が、物音と声に気付いてヨロヨロと立ち上がりこちらに向かってきた。
「上等だ!」
まずは胸を突きぶっ飛ばし、よろけた所をこんな世界になる前から携帯していた特殊警棒でこめかみを横からフルスイングでぶったたき弾けさせる。
1体一撃で倒せる!
いける! こいつら武器を持っていても動きは鈍いのは変わらんから勝てる!
勝てるぞ!
2···3···4!!
とりあえず吉澤に群がってたゾンビどもは蹴散らせた。
だけど、何でこんな奴らに吉澤は遅れを取ったん─!?
一瞬何が起こったかわからなかったが、事態をすぐに飲み込めた。
腹部が熱い。
火でもつけられたように熱い、次に鈍痛。
「くそが!」
落ち着け、戦況を整理しろ。
ジリジリと後ろに後退してはいるが、リビングでやりあってるせいで逃げ場はこの窓だけ、目の前には迫ってくる3体のゾンビども。
万事休すか。
と、その時誰かがこの戦場に入ってくる足音が玄関の方から聞こえた。
「おい! 助けろ! ピンチなんだよ!」
「森山!?」
その声と同時にバタバタとリビングに数人入ってきた。
ありがてぇ、これで助かる。
ゾンビどもも今は紅林達に気を取られている、今がチャンスだ!
───あれ? 体が動かねぇ?
突然視界が下に下がっていき、体が床に叩きつけられたのに痛みが全くねぇ。
手が、足が、首すらも動かせねぇしどうなってやがる? 息まで苦しくなってきた。
頭がボォーっとする。
耳だけはぼんやり聞こえる。
ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ。
肉を食う音、俺のふくらはぎに噛みつき美味そうに食ってやがる。
紅林達に気を取られていたゾンビ達も覆い被さってきた。
──あいつら逃げたのか。
仲間ってより、お互い利害が一致してたから一緒にいただけだもんな。
仕方ねぇか。
ただ···なぜか知らんが痛みもなく死ねるなら悪くねぇ死に方だな。
「おい!」
不意に声をかけられた。それも外から。
紅林達とは明らかに違う声。
その声の主はさっきまでは、絶対に誰もいなかった···。
もうどうでもいい。 こいつが誰だろうと。
視界が突然上がったと思ったら、その声の主なのか俺を見てやがる。
どうせ死ぬんだ。
どうにでもしやがれ。
「お前の戦い方を見させてもらってたぞ? なかなか強いって思ったからお前を駒にさせてもらう。 ちゃんと自我は残してやる。 ただ、俺には逆らえないがな。 安心してゾンビになれ。」
自我は残す?
何を言ってるんだ。
もうこのまま静かに──。