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本性

 デパートのトラック搬入口に人影が3つ。


 何やら話をしている声が辺りに響いている。


「なぁ、さとちゃんさぁ。」


「なに?」


「栗田だけど、これから先どうするの? あいつ本当に使い物にならないよ?」


 持っているいるバットをリズムよく、カーンカーンカーンと地面を叩いてダルそうに喋っているモジャモジャ髪の男。


「あぁ······それは俺も考えているよ。 ただ、今は信用させるだけさせて手駒の1つには使えるし、こんなおっさん達だけだと女の子が警戒するけど、ああいう小僧がいるだけで女ってバカだから警戒心なくすだろ?」 


 先ほどまで人の良さそうな緩い顔が一変、口角が上がりニタニタと下卑た笑顔が姿を現す。


「本当にさとちゃんが一番の悪者だよなぁ。 この間のJK集団を─···堪らんかったよなぁ。」


「女は金にもなるし、性欲処理にも使えるし、一番便利な存在だよなぁ。」


 男がそう言いながら、モジャモジャ髪の男に向けた顔は笑ってはいるものの目は笑っておらず、にゅるっと上唇を舐めずった。


「ぎゃははははは!! 言うね~! さとちゃんも。」 


「こんな世界になる前は、クソ女どもが力もないし、頭もねぇ癖に生意気でずっと腹立ってたからな。 女なんか黙って男様の為に腰振ってりゃ良いんだよ。」



「違いねぇ。 この世界は神がくれたご褒美だよなぁ~金持ち連中が命乞いしてくるのを、目の前で嫁と子供を······にしししし。 その後絶望と怒りに満ちたままの旦那の頭をかち割ってやるの楽しいからなぁ、また金持ち連中いねぇかなぁ?」



「とにかく······だ、この世界を満喫しようや。」





 ─────────────




 夢中になってて、時間の事を忘れてた。


 服は······元々血まみれだから良かったな。


 出口が見えて来て急いで駆け寄ると、さとちゃんもとしさんもニコニコさんも待ってくれていた。


 やっぱり良い人達だな。


「すいませ~ん、遅くなって!」


「あ、栗田くん戻ってきたか、遅いよ! 30分は待ったよ?」


 さすがに優しいさとちゃんでもイラつかせてしまったみたいだ。反省。


 としさんは······相変わらずこちらを見てくれない。


 ニコニコさんは、ニコニコさんだ。


「あ、聞いてください! 名前を思い出したんです!」


「本当かい? それで名前は何て言うのかな?」


「五十嵐義光って言います!」


「なんかカッコいい名前じゃん!?」


 ちなみに食料品売り場での収穫は、ニコニコさん頼みだ。


 さとちゃん曰く、与えられた仕事だけを各々がやり例え手が空いていようと自分が与えられた仕事以外やってはいけないんだそうだ。


 仕事の途中で武器になりそうな物、役立ちそうな物を見つけた場合に限りイレギュラーを認めるんだそうだ。


 だからニコニコさんが、あの食料品売り場で何を見つけ何を手に入れたかはわからないんだよなぁ。


「んじゃ、日が暮れてきたし拠点に戻るから五十嵐はぐれるなよ!?」


「あ、はい!」


「なんか覇気が足りねぇんだよなぁ···ちっ!」


 僕の方を睨み付けてから唾をぺっと吐き出すと、何かぶつぶつ言いながら歩き始めてしまい、それに続くようにニコニコさんも付いて行ってしまった。


「もうちょっと、彼の事もわかってあげなきゃ? わからないわからないじゃ世の中通らないし、いつかそれが仇になるから気をつけなよ。」


 ひゃっ!?


 ふふふ。と突然さとちゃんが僕に顔を近付けて、普段より低いトーンで話かけてきて去り際にベロンと僕の頬を舐めてからみんなの後を追った。


 なんなんだ!?


 凄く気持ち悪い。


 いくら若いからって男の頬を舐めるか?


 それよりも、僕はこのままこの人達に付いて行って大丈夫なんだろうか?


 つい数時間前に出会ったばかりで、僕達を拠点に招き入れてもてなしてくれるなんて少し変な話じゃないか。


 数週間前からこの国はこんな感じになってしまい、警察や自衛隊も救助に来てくれないなんて終わりが見えないサバイバルで、食べ物や飲料を分けてくれるなんて···いや、僕の考えすぎか。


 こんな非常時に優しくしてくれる人に悪い人なんているわけないじゃないか。


「おーい! 五十嵐くん何してる? 置いて行くぞー!」


「待ってください!」


 "良い人"と思うしかない···今は。



 生き残る為に。



 ───────


 しばらく進んで行くと鼻がもげそうな刺激臭、商店やデパートの割れたショーウィンドウ、不快指数は上げるどこからか聞こえる呻き声、食い荒らされた死屍累々。


 たまに見かけるゾンビらしき者。


 拠点に向かう道中で、としさんが珍しく説明してくれた"ゾンビらしき者は歩きが遅く力が弱い"という事らしいので1~2体程度なら敵じゃないそうだ。


 問題は、数で来られたら逃げるの一手らしい。


 まず勝てない···と。


 としさん達は、元々5人いてさとちゃん以外は武闘派であり本来いたはずの2人──吉澤秀明さん、森山としきさんという名前だったらしい──は特に凶暴で人間だろうとゾンビらしき者だろうと片っ端から皆殺しにしていったそうだ。


 そんなある日に、いつも通り物品収集に出向いた住宅街でいつものように狩りも楽しんでいて、みんな特に2人を何も心配していなかったが、その日は何か様子がおかしかったらしい。


 突然吉澤さんの叫び声が聞こえてきて、その声がする方に向かって行っても家の中で叫んだのか辺りを探し回っても見当たらず、だんだんと叫び声も聞こえなくなり流石の武闘派集団にも不安が襲ってきたらしい。


 その時物凄い怒声が聞こえ「こっちだ!」と言う森山さんの声を頼りに、としさん達もようやく見つけた時···床に転がる4つの死体、満身創痍の森山さんと対峙した包丁やナイフ、銛を持ったゾンビらしき者達が3体、食い荒らされ絶命していた吉澤さん。


 さとちゃん、ニコニコさん、としさんはこの異様な武器を持ったゾンビらしき者達に恐怖し、一目散に逃げたが、森山さんは逃げずそのまま戦ったのかとしさん達の元に帰ってくる事はなかったらしい。


 だから!と強い口調で「狭い所で戦うな、2体以上を相手にするな」がこのチームのルールだと教えられた。


 ただ、不思議に思ったのはデパートを出てから10分くらいは歩いたはずなのに、ここまでゾンビらしき者に会ってない。


 一応地方都市といえども繁華街なんだから、多少覚悟していたのに名にか拍子抜けだ。


「着いたぞ!」


 目の前にはシャッターが下ろされ馴染みのあるコンビニのロゴ。


 出入り口には、どこかで拝借してきただろう防火扉を器用に取り付けてある。


 案内されるままに拠点内に入ると──


 そこはとてもまともな人間がやる事と思えない惨状が広がっていて、僕の弱い心にも正義感が芽生えた瞬間だった。

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