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メイズフォース

4th 迷宮攻略者が迷宮主になる。

作者: 赤石火飛

願いは?


元の世界への帰還だ。


あなたがいた世界、【オリジン】へ転移しますか?


ああ。


【オリジン】には魔素が殆ど存在しません。よって魔法の効果、威力は一割まで下がりますがよろしいですか?


構わない。


それでは、【オリジン】へ転移します。





いじめを受けていた。


高校二年目、クラスの中心的な立ち位置にいた奴らはリーダー格の彼女が俺の幼馴染である事が気に触るらしく毎日、他の人から見えない所でカツアゲされた。


クラスメイトは関わりたくないので察してるけど放置。幼馴染は侮蔑した態度で見てくるだけだった。


俺には別の高校に通う1歳下の弟と中学三年生の妹がいるが二人とも俺のことが情けないらしく基本的に無視だ。

親は離婚していて滅多に帰って来ない父親がいるだけだ。母親にはもう何年も会ってない。



一年ぶりに色々と思い出すといい思い出が浮かばなかった。

俺は学校の帰りに異世界に飛ばされた。召喚でもなんでもない。ただの災害だと異世界の賢者が言っていた。剣と魔法の世界と言えばワクワクするかもしれないが毎日生きるために死と隣合わせなダンジョンに潜り、生きて地球に帰るために狂いそうなぐらい己を鍛えた。そして遂にダンジョンを攻略しなんでも一つだけ願いが叶うと言うダンジョンコアに故郷への帰還を願ったのだ。



周囲を見渡すと暗い。空に月が見える。南中にあるので深夜のようだ。足を動かすと何かを蹴った。それは三年ぶりに見る俺のスクールバッグだった。中身を開けて見ると俺の生徒手帳とバイト代で買った電波時計の腕時計と教科書とノートが数冊。

時計で日付を確認すると俺が異世界に飛ばされた日の夜だった。時間が戻ったのかと思ったが鍛えた筋肉はくっきりと残っていたので飛ばされた日に戻っただけだと分かった。

異世界でずっと保管していた高校の制服に着替えた。


急いで家に帰ると自然と足が家の方向に進んだ。体は意外と覚えているものだ。

家は真っ暗で玄関には鍵が掛かっていた。鞄に入っていた鍵で玄関扉を開けて中に入る。

久しぶりの家の香りで目が潤まなかった。

弟と妹の靴を見るが何も感じなかった。


リビングに入り電気を点けると俺の帰宅に気付いたらしい弟と妹が二階から起きて降りてきた。

悪態と罵倒が向けられた。


懐かしい肉親の顔だが何も感じなかった。

罵倒にもムカつきもしなかった。


謝ってみると弟妹たちは蔑んだ目をしながら鼻を鳴らして自室に戻って行った。

何も思わなかった。


どうやら俺は狂いそうどころか既に狂っていたらしい。今まで殺伐としていたので気が付かなかった。

いじめられてた事、幼馴染の事、家族の事などどうでもよくなっていた。


その日は、台所にあった栄養バーを齧って自室のベッドで寝た。




翌朝、六時に起きると弟たちの弁当を作り朝食を作った。これは前々からの日課だった。弟たちは何も言わずに食べるとそのまま学校へ行った。


俺も学校に行き、教室に入ると一瞬視線が集まったがすぐ大多数に逸らされた。見てくるのはニヤニヤしているクラスの中心人物たちだけだ。


椅子に座ると机が彫刻刀で削られたように傷だらけだった。どうやら奴らは学校の備品ということを忘れているらしい。もっとも、これで教師から怒られるのは俺の方なのだろう。担任教師は自分が担当をするクラスでいじめがあるとは認めたくないので自作自演だと処理されてしまうのだ。



案の定、担任に怒られた俺は謝った。


どうせ言い訳しても取り合ってくれないのでこれが一番楽なのだ。



…………。


俺をいじめてた奴らが不満げに見てくる。



…………。




いや、少しだけクるものがあった。


どうやら、こいつらにやられた事は1年経って精神が狂っていても許せない程だったらしい。まあ、俺も学生で若いからな。そういう事もあるのだろう。



気がついた時にはそこにいた。


上も下も右も左も前も後ろも石の壁。


足元には見覚えのある水晶玉。いや、これはコア。

ダンジョンコアだ。


頭の中に声が響いた。

神様かららしい。


曰く、俺は地球でスキルを使い物理法則を捻じ曲げたせいでそのより戻しを受けたらしい。その結果、俺とその周辺の空間ごと異世界に飛ばされたと言う。


たったの一日も持たなかったか。


どうやらクラスメイトたちも来ているらしい。だが、俺のように石壁の部屋ではなく外に放り出されたみたいだ。まあ、この神様が本当のことを言っているかは定かではないが。



他にやることもないので神様に付き合う事にした。ダンジョンコアを拾い…激痛と共に意識がなくなった。


後から聞いた話だが、神に選ばれたダンジョンマスター候補が最初に受ける生存率一割未満の試練らしい。運良く生き残った俺は神へ悪態をついてダンジョンを作り始めた。


神から巫山戯た贈り物を貰い、それを地球の知識で活用しながらダンジョンを作った。

一体の力は弱いがすぐに自主的に増える虫系、特に蜂型のモンスターを中心に召喚した。

何故がモンスター以外にも植物の種子も召喚出来たので、それで花園を作り蜂型モンスターは爆発的に増えた。


巫山戯た贈り物の中にドーピング剤と言っても過言ではない物があったのもあるだろう。


最下位モンスターに上位アイテムを大量に使えば強くなるに決まってる。


モンスターは蜂型を中心にしたがダンジョンは監獄の形にした。

監獄は監視がしやすくなっていることが多いからだ。

これは大正解だった。侵入者はすぐにモンスターたちの包囲網に掛かった。ある程度のリターンを与えつつモンスターたちの戦闘経験値を増やしていった。


ダンジョンを開放して一ヶ月経った頃、服の形が違う人間が入ってきた。

どうやら近くの町の領主らしい。彼はダンジョン探索者の話から俺のダンジョンが監獄の形をしていると報告を受けて視察に来たようだった。


なんだか様子がおかしかった。


領主が来てから半月が経った頃、首輪と手枷を着けた人達が国の兵士に連れられて入って来た。

どうやら囚人らしく俺のダンジョンは処刑場のような扱いになったらしい。

兵士は囚人たちをダンジョンの中層まで先導するとそこで囚人たちを残して帰ってしまった。


まあ、出口寸前で糧になってもらったけど。


囚人たちは老若男女、人種、種族、身分も様々で単純な犯罪者ではないようだ。ダンジョンマスター権限である程度のステータスは分かるので全員のステータスを覗くと冤罪や戦犯、復讐者など訳ありばかりだった。


もし生きてこのダンジョンから出られても行く宛てのない彼らを見てこのまま糧になってもらうのもいいと思ったが、意外とレベルが高い者も多かったので俺は囚人たちとコンタクトを取った。


ダンジョンの戦力増強に使えると思ったからだ。


囚人たちにダンジョンの庇護下で戦力になってもらう代わりに衣食住を補償を約束すると全員と契約が出来た。



--一年後--



私たちはある国に存在するダンジョン、【磁界と蜂球の監獄】に来ていた。

理由はここのダンジョンマスターがクラスメイトで幼馴染みのケントと似ていると聞いたからだ。


突然クラスメイト全員と共に異世界に飛ばされて唯一、同じ場所に飛ばされていなかったケントはもう死んでいるかと思われていた。でも、このダンジョンの噂が流れてきて私はダンジョンマスターはケントでないかと思った。ダンジョンの出現時期やダンジョンマスターの髪と瞳の色がケントに似ていたからだ。



道中、ダンジョンモンスターとは思えないほど人によく似た蜂虫人というモンスターやダンジョンに庇護下に入って人から進化した魔人種とも戦いながら私たちはダンジョンを進んだ。それはまるでケントに会うための試練のように感じた。



ダンジョンに潜って一週間。

階層を降りる階段を出た所には広大な花園があった。

決して同じ時期に咲くことのない花が一堂に咲き誇る果てが見えない花園。

所々に楠木のような大木がありそこには蜂型モンスターの巣のような物が見える。上の階層で見た蜂虫人もここから生まれたのだろう。


一種の感動を覚えていると視界の中に一軒の立派な屋敷が見えた。芝桜に似た花に囲まれた屋敷は色は分からないが、形は歴史の教科書に出てくる鹿鳴館に似ていた。


花園の中には屋敷へ続く道しかなかったので私たちは屋敷に向かった。

玄関に着くと今まで見た蜂虫人とは服装が違う蜂虫人が二人、門番として立っていて淡々としていたが丁寧に接客された。

屋敷に入ることが許されて通された部屋は屋敷の奥にある大部屋だった。


扉から入ってきた人物を見るようにソファとテーブルが置かれていてその後ろには巨大な蜂の巣。


そして正面のソファに私が探していた人物、ケントが数人の男女を侍らせて座っていた。


ケントたちは学校の制服でもこの世界の一般服でもない。軍服のようなデザインの服に身を包み、こちら観察してくる。


ケントは無表情。

周囲の者は同じように無表情であったり嘲笑を浮かべていたり不満気の見てくる者、路傍の石を見る目をする者。


良い感情を見せる者は一人としていなかった。



----



目障りだが知り合いだったので屋敷に招待した。だが、それは失敗だった。

厚顔無恥とはこのことだろう。

俺に助けを求められても了承などするはずがない。

お前らと俺の関係は?

被害者と加害者だ。攻略する側とされる側だ。

敵同士。


俺に同情や躊躇する考えはない。


やることはただ一つ。


「命令だ。

排除しろ。」


----



何年が経っただろう?

十年か。五十年か。

部下に聞くと百年を超えていた。

思い返せばダンジョンの仲間も階層も増え、ダンジョンマスター内でも古参のダンジョンとして認知されるようになった。

近くの同期のマスター達と同盟を組んだりした。

ダンジョンを開放した国は40年前に滅び、新国家の興国にも同盟マスターと共に手を貸した。


だが、何十年経とうと、これから何百年経とうとやることは変わらない。


信頼できる仲間や部下達と一緒にこのダンジョンを運営していくだけだ。



これが俺達、【磁界と蜂球の監獄】の最初期譚だ。


「ところでマスター、嫁は取らないのか?」


「なんだいきなり?」


「いや、マスターはこの国でも数人しかいない迷宮攻略者だろ?皇帝からも信頼が厚いし。」


「それ以前にダンジョンマスターなんだが。」


「ダンジョンマスターでも結婚願望はあるだろう?

実際に同盟マスターのアインス様に求婚されてるし、帝室のヴァレーリア様や将校のフィアンマからも好意が寄せられてると噂だぞ。」


「ダンジョンマスターと結婚したら不老不死だからな。世の人間はみんな目が眩むだろ。」


(アインス様は既にマスターだから不老不死だし、他二人は幼い頃からマスターと知り合ってたから大人のお兄さんへの憧れがそのまま好意に成長したんだと思うけど!?)



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