9話 魔剣士、初実戦がA級の魔物。
エアリス専属のお付きになって一年が経った。
自分で言うのも何だが、お付きとしては様になってきたと思う。
ところ構わずジジイ、ババアと呼ぶのもやめた。
人前でそう呼ぶとエアリスが怒るからな。
ただ執ジジイ とクソババア に関しては別だ。
あいつらはこれでいい。
同時に、この一年でエアリスへの理解も深めたつもりだ。
エアリスは奴隷制撤廃の他、領地開発にも順次に取り組んでいるらしい。
どうやらエアリスの親は本物のクソらしく、エアリスが生まれるまで、領地もひどい有様だったらしい。
街は汚れ、人の死体がそこら中に広がり、一部の金持ちと奴隷だけの領地だったとか。
だが、そのクソ共から生まれたとは思えないほどにエアリスは聡明だった。
五歳で親に代わって……というか、これまた聡明な兄、そして領民と協力して両親を殺し、領民と連携して領地改革を遂行。
凄まじい勢いで領地を繁栄させたとか。
俺がエアリスに助けられた七歳の時から領内の環境は良かったし、エアリスは最長二年で領地の開発に成功した事になる。
とんだ天才だ。
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そして、九歳の今に至る。
「ねぇクロト、私ピクニック行きたい! 行こう!」
「分かった、手配する」
最近のエアリスは領地改革の山場を超えたらしく、年齢らしい言動が多くなってきた。
元奴隷の俺から見ても気張り過ぎに見えたし、寧ろこういう言動が増えてきて安心だ。
疲弊していた反動だろうしな。
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数日後──
俺達はアーデンベルク領の最南に位置する花畑に、ピクニックに来ていた。
「このサンドイッチ美味っ! パンに具を挟むだけなのに……クロトって料理の天才?」
「あの執ジジイの教え方が上手かっただけだ」
「またジジイなんて言って……でもセバスが作ったサンドイッチと食感が違うような……?」
「胡瓜を入れてみた。パンのふわふわ感と胡瓜 のシャキシャキ感を両立させたら面白いかと思ってな」
「やっぱり料理の天才だ!」
「それを言うならエアリスは天才領主だ。このパンがふわふわなのも、この土地で取れた小麦が良質だから。胡瓜がみずみずしいのも、資源が豊富だからだろ?」
他愛ない話をしながら食事をする俺達。
本来、お付きの者が領主と食事をするなどあってはならない事だが──
「一緒に食べよう! 命令っ!」
と言われてしまったはどうしようもない。
執ジジイの言う通り、こいつは友達が欲しいのだろう。
だからこそ、俺も出来る限り友達として接する。
……俺に友達がいた訳でもないし、勝手はよくわからんがな。
すると──
「あはは……!」
「どうした?」
「なんか楽しくて!」
「そうか」
すぐさま『俺も楽しい』と言えれば良かったんだろうがな。
とてもじゃないが、恥ずかしくて言えん。
──そんな時だった。
「……!?」
「……? クロト、どうしたの? きゃっ!?」
腰に携えた剣を抜き、即座に【風刃】を付与。
「エアリス、振り向け」
「……? ……!?」
エアリスの振り向いた先には、五メートルを超える一つ目の巨人──サイクロプスの姿がある。
魔物は強さによって7つのランクに分けられている。
指定災害級──世界規模での被害を出し、未だに撃破されず、姿を隠している魔物。個体別に名前がある。討伐した者に、国から多額の報奨金が与えられる。現在確認されているのは10体。
S級──甚大な被害を出すレベルの強さを持った魔物。人里に降りてくることは無い。数は少ない。
A級──街規模で被害を出すレベルの強さを持った魔物。人里に降りてくることはほとんど無い。数は少なめ。
B級──村規模で被害を出すレベルの強さを持った魔物。人里に降りてくることがある。数は普通。
C級──鍛えた兵士がなんとか倒せるレベルの魔物。時々人里に降りてくる。数は時々見かける程度には多い。
D級──一般人でも頑張れば倒せるレベルの魔物。割と人里に降りてくる。人の手が入ってない所には沢山いる。
E級──子供でも倒せるため、驚異には全くならない。
このランク分けによると、サイクロプスはA級相当の魔物だ。
街レベルで被害を及ぼす魔物がどうしてこんな所にいるのかは知らないが、そんな事を考えている場合でない事は分かる。
「やばいなこりゃ……」
A級……というかB級の魔物でさえ現実世界に湧いたら相当ヤバイです。
指定災害級なんて湧いたら世界滅びかねません。