7話 魔剣士、元奴隷故に疑心暗鬼。
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仕方なく街に来たわけだが──
「買い物の仕方が分からねぇ……」
いくら金があろうと、買い物の仕方が分からなければ買いようがない。
幸い、文字はジジイに死ぬ程叩き込まれて少しは分かるようにはなったからな。
何がどの位の価値かは分かる。
ただ銅貨だろうが紙幣だろうが、金に金額が書いてないのはどうかしている。
どの金がどれだけの価値を持ってるのか分からん。
今すぐにでも書くべきだ。
「……お?」
ガキが果物を買っていくようだ。
見てれば買い方が分かるかもしれないな。
「おじちゃん、リンゴ5個ちょーだい!」
「あいよ! 銀貨5枚、持ってるかい?」
「うん、ほい!」
「ありがとな! 一個オマケ入れとくぜ、齧り付いてみな!」
「ワーイ!」
なるほど、ああするのか。
早速試してみる。
「おいジジイ、このオレンジとか言う奴を5個よこせ!」
「おい随分と生意気な奴だな! ま、取り敢えず銀貨2枚だ!」
「ああ……どうだ、これで足りるか?」
俺は店のジジイの手に、紙幣とかいう金を乗せる。
「いやまあ、足りるには足りるが……」
「問題があるのか? 済まない、俺は買い物に不慣れなんだ」
「小僧、お前こいつをどこで貰ったんだ? 盗んだんじゃねぇだろうな」
「盗む? そんな事をしたら殺されるだろう。する訳がない」
奴隷時代の知り合いに奴隷商から鍵を盗んで逃げようとした奴がいたが、そいつはすぐにあの世に行くことになった。
盗みをやる位なら、真っ当に金を稼ぐほうが何倍もマシだ。
「いや殺されはしないだろ……ったく、子供にこんな大金を持たせる親がいるかよ……」
「なんだ、これは大金なのか」
エアリス……あいつは俺に大金を持たせて何をさせるつもりなんだ!?
『給料』とか言っていたが、そもそも給料が何か分からん。
今度こそ殺す気か!?
「まあ良いか。ほらよ! 釣りは金貨9枚と銀貨8枚だ、無くすんじゃねぇぞ?」
「ああ……」
よし、買い物も済ませたし早急に屋敷に帰ろう。
俺に大金を渡したり、突然休みを言い渡されたりと、今日は不自然な事が多い。
このまま油を売っていたらエアリスに殺されるかもしれないからな。
考えていると──
「そうだ、おい小僧!」
果物屋のジジイにリンゴを投げられる。
「何だこれは!?」
「そいつはタダだ。初めて買ってもらったお客さんにはタダでプレゼントしてんのさ。親じゃなく、お前さんが食ってくれよ?」
「食べても良いのか?」
頷くジジイ。
どうやら俺が食べても殺されないらしい。
だが急がないとエアリスに殺されるかもしれない。
だから──
「悪いが急いでいる! だがこのリンゴ? は頂く!」
「おう、気を付けて帰れよ!」
俺は帰りながら、リンゴとか言う果物を食う。
食べないと殺されるかもしれないからな。
「あぐ…………美味っ!?」
走りながらだから落ち着いて食えはしないが、それでも美味かった。
サッパリとした味、シャキシャキとした食感。
屋敷で食ったものも相当美味かったが、俺的にはこちらの方が好みだ。
俺は屋敷に戻るまでに、ヘタや種も全て食い切った。
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屋敷の門を開くと、ジジイとエアリスが談笑していた。
エアリスは俺を見かけると──
「随分と早かったけど、楽しめた?」
「楽しむ? なんの事だ?」
「あー…………」
頭を抱えるエアリス。
……何かやらかしたか?
「ねぇクロト、街で何して来たの?」
「果物屋のジジイからオレンジとか言う果物を買ってきた」
「うん、あとは?」
「後? …………!?」
大金を俺に渡した。つまり、それだけ大量の食料を買ってこいという事だったのか……
「クロトが何を考えているのかは分からないけど、多分違うね」
「俺を殺すのか?」
「殺す殺さないの話なんてどこから出てきたの!?」
それから、何故かエアリスと街に行く事になった。
エアリスは街のあらゆる施設を俺に案内し、休日の楽しみ方とやらを教えてもらった。
どうやら今日は、本当にただの休みだったらしい。
ただの休みをくれるなど……エアリスは素晴らしい女だな。
それをエアリスに言ったら──
「普通だよ!? 奴隷ってみんなこういう感性なのかな……? 奴隷制、早く無くさないと」
と逆に驚かれ、何故か奴隷制撤廃へのやる気を出していた。
今日は不思議な事が多いな。
常識から違います。