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5話 魔剣士、魔物を嵌める。


「あら、おはようクロトさん。早いのね」

「あぁ」


 外に出ると、丁度朝日が登ってきた頃だった。


 そして──


(………………)


 外の見張りはあの女だけ。

 本来いるはずのエアリスが見当たらない。


 エアリスが軽く見回りしている可能性も考慮して数分待ったが、戻ってくる気配もない。


(無事でいてくれ……!)


 あの女がエアリスに何をしたのかは知らないが、他のメンバーの様に……いや、同性だから無理か。

 だとしたら……一体何を?


 危害を加えていない……?

 いや、それはないだろう。

 現にこうして帰ってきていないのだから。


 何処かに捕まっているか、はたまた拷問でもしたのか。


 最悪殺されている可能性だってある。

 だが、俺は女にエアリスの所在を追求しない。


『見回りにしてはエアリスが帰ってくるのが遅すぎないか?』


 と追求する事は出来るが、嘘をついて逃げられたらそれまでだ。

 だからこの女がボロ出すまで、俺は素面(しらふ)で切り株に座り、剣の手入れを続ける。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 暫くすると──


「ね、ねぇ、エアリス見てない? 見回りに行ったきり帰って来ないのだけど」


 今は明け方。

 朝も早く、ここに居るのは俺と女の二人だけだ。

 その状況に耐えられなかったのか、向こうから話を切り出してきた。


「いつも通り寝顔を観察する為にテントを見てきたが、エアリスなら自分のテントで寝ていたぞ。その後に気付いたが、確か今日の今の時間はエアリスの夜番だったよな。あいつは見回りをサボって何をやってるんだ……後で説教だな」


 もちろん嘘だ。

 ……いつも寝顔を観察しているのは本当なんだがな。


 とりあえず、先に見てきたがそこにエアリスの姿は無かった。


 そして──


「!? そ、そう。ホント困っちゃうわね。にしてもあなた、そんなことしてたのね」

「可愛いものを見たいというのに理由がいるか? まあともかく、後でお前も文句を言ってやれ」


 女は早速ボロを出した。


『エアリスがテントで寝ていた』という情報が俺の口から出た後、女は表情を目に見えて変えた。

『そんな訳がない』といった表情に。


 つまりエアリスがテントで寝ているというのは、この女にとっておかしいのだ。


 それすなわち──


(この女は黒だ)


 そう確信した瞬間、俺の中で殺意が爆発した。

 それを気付かれないようにと自分の中に押し留める。


 エアリスは文字通り、俺のすべてだ。

 そんなエアリスに危害を加えたこの女に対して、俺が抱く感情は殺意のみ。


 元々魔王討伐についてきたのも、エアリスの隣に立って戦いたい、守りたいと思ったからだしな。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 この国には奴隷制が存在する。


 奴隷は大方見目麗しい女で、大体が金持ちの娯楽に使われる。

 暴力に快楽を見出すクソ野郎、性欲を満たす為だけに奴隷を使うブタ、顔をグチャグチャにして自分の方が綺麗だなどと言い優越感に浸るクソババア。


 まあ見目麗しい女の方が……こんな言い方はあまりしたくないが、使用用途が多いんだろう。


 そんな中、幼い男の奴隷だった俺は、とんでもない低価格で平民の女に買われた。

 

「苦しかったでしょう? ここでは自由にしていいからね?」


 最初、平民の女はこう言っていた。

 当時は俺もガキだ。

 この言葉に、ほんの少しの希望を抱いていた。


 だがその当日には地下室に監禁し、毎日ストレス発散の道具にさせられた。

 あの言葉は何だった? そんなに俺の絶望する顔が見たいか?




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 一週間が経った。

 食事は当然無い。

 幸いな事に、俺は魔法が使えたから水には困らなかった。

 だが魔法を使う度に体力を消費──衰弱していく。


 どちらにせよ、俺が死ぬのは時間の問題だ。


 そんな時──


「ねぇお姉さん。家の領、奴隷は禁止なんだけど?」

「ひ、ひぃぃぃ!!!」


 俺と同い年位の着飾った女──当時のエアリスが、地下室に入ってきた。


 この世界で綺麗な服は貴重だ。

 だからエアリスが高い身分である事は、一目見た瞬間に分かった。


「……チッ」


 俺は貴族達がクソみたいな奴隷制を作り上げたと思い、ずっと恨み続けてきた。

 当然、良い感情など持ち合わせていない。


「名前は?」

「……クロト」

「ありがとうクロト、じゃあこれ食べて」


 そう言ってパンと水を渡してきたエアリス。

 どうせ毒でも入っているんだろうと思い、口をつけるのを躊躇った。

 奴隷商の所じゃそういう見せしめがあったからな。


 口をつけないまま、しばらくすると──


「ええい食え!」

「むぐっ!?」


 強引にパンを押し込まれた。


 だがパンにカビは生えてなかったし、毒も入ってなかった。


 そして何より、美味かった。


「…………?」

「いいって、早く食べて?」


 そのまま食い続ける事を促すエアリス。

 美味いし文句は無い。

 それに、奴隷時代は言う事を聞かないと殴れられたからな。

 

 そのパンは生まれて初めてのまともな食事だったが、胃が衰弱していたせいか、小さなパンの半分も入らなかった。

 だが俺が食べた事に満足したのか、エアリスは──


「私はエアリス、呼び捨てで呼んでね? 呼び捨てじゃないと距離を感じるから……まあとりあえず、クロトは今日から私の家の執事だから。ついてきて!」


 エアリスは俺の汚れた手を平気で握り、地下室を飛び出した。


クソ長い過去編入りますが、重要かつ充分楽しんで頂けると自負しておりますので、どうか飛ばさずにご覧下さい。

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