4話 魔剣士、切れ者だった。
今回からクロト視点になります。
AnotherView:Kuroto
「黒魔術師のレティーナです。よろしくね♪」
正直に言おう。
この女を突然連れてきた時から、俺はクリスの正気を疑っていた。
以前のクリスは今の仲間を何より大事にし、新しく仲間を加入させる時も、必ず今の仲間に確認をとってから加入させていた。
事実、ヴァルハルトとアレンがそうだった。
「待ってお兄ちゃん、突然過ぎるよ。私達に相談してくれても……」
エアリスがこう切り出してくれなければ、俺から話していただろう。
「ああ、エアリスの気持ちも尤もだ。だからウォルター周辺に出る魔物と、レティーナを交えて戦ってみよう。それでうまく行かなければこの話は無かったことにする」
だが勇者パーティーである俺達にとって、何より大事なのは馴れ合いではない。
魔王を倒すという目的だ。
その目的の為にこの女がいて、戦闘が上手く行くなら俺に異論は無かった。
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その次の日──
この日から、俺は女を警戒の目で見始めた。
「ヴァルハルトさん♪」
クリスだけじゃなく、女の加入に懐疑的だったヴァルハルトまでもが、女にべったりくっつかれても抵抗しなくなっていた。
確かにヴァルハルトは戦士らしく女好きだったが、命を預ける仲間となれば話は別だ。
特にヴァルハルトは、その辺りの線引きはしっかりしていたからな。
その様子を見て、俺達が怪しまないはずがない。
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その日の夕方──
パーティーの自由行動中に、俺はパーティーの頭脳であるアレンをウォルターのレストランに呼び出し、あの女が来てからの違和感について相談した。
「君もやっぱりそう思うかい?」
同じ違和感をアレンも感じていたらしく、それから少し相談し、夜はお開きにした。
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そしてその日の夜──
「……何をしている?」
就寝していた俺だが、気配を感じて目を開ける。
そこには──
「クロトさん……? ん……」
あの女がいた。
女は驚いた様に目を開くが、そのまま真っ直ぐに顔を下ろし、俺の唇と女の唇をくっつけようとしてくる。
俺はそれをすかさず回避し、女を蹴り飛ばす。
「痛っ、ちょっとぉ、何するのよぉ?」
胸元を大きく開いた服が目に入るが、俺にとって、そんな脂肪の塊を見た所で何とも思わない。
他の男はこれの何がいいのだか、戦闘を考えれば動きにくくて邪魔なだけだろう。
エアリスの方がよっぽど実戦的で魅力的だ。
「悪いが俺には彼女がいるんでな。そういうのは他の奴としてくれ」
女は媚びたような視線を向けてきたが、無視してテントの外へ追い出した。
「何なんだまったく……」
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次の変化は明後日の朝──
「アレンさん♪」
「……マジか」
とうとうアレンまでもが女にベタベタされ始めた。
ここまで来ると戦力になるならない以前の問題になる。
警戒を示していたアレンまでこうなったとなると、あの女が確実に何かをしたと考えるべきだ。
となると一昨日俺の寝床に侵入したのは、俺にそれを仕掛けようとしたと見るべきか。
まあおそらくだが、俺の寝床に侵入した際の格好を見る限りそういう事なのだろう。
身体の関係を持った男女が精神的に切り離しにくくなるのは、俺もエアリスで実感している。
それに一般的に見て、この女の外見は男に好印象を与えるだろつ。
アレン達にそういう経験があったと言う話も聞いてないしな。
慣れてなきゃこうなるのかもしれん。
もし俺の予想が全て合っているとするなら、かなり問題だ。
パーティー内での男女トラブルは、パーティー崩壊の原因になりやすい。
その日は一日中解決策を考え続けたが、結局いい案は思い浮かばなかった。
寝て起きたらいい案が思い付くかも、という淡い希望を胸に、その日は床へついた。
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そして次の日の早朝──
朝起きてもいい案は浮かばず、頭を整理する為にも素振りをしようと外に出ることにした。
そういえば、この日最後の夜番はエアリスとあの女だったか。
あの女きっての願いで、クリスの順番と変えたんだったな。
「!?」
──それを思い出した時、俺はとてつもなく嫌な予感を覚えた。
「クソ……何で俺は警戒しなかったんだ! 同性だからって問題無い? んな訳あるか……!」
俺は素振り用の木刀ではなく、本物の剣を携えて外に出た。
切れ者魔剣士。