3話 白魔導士、恋人と共にパーティーを逃げ出す。
「もふもふ、ふへへぇ♪」
「ガウ?」
お兄ちゃんの所に戻るまでの道中、私はハクの背中に乗って移動していた。
歩幅が小さくなっちゃったせいで、歩くのも結構大変だったからね。
ハクの背中でもふもふしたかった、なんて事はないよ?
迷わないように川沿いを歩き続けていると、とうとう朝日が登ってきた。
辺りが鮮明に見えてきたので、魔法によって発生させていた光を消す。
すると──
「【風刃】」
「あらあら、随分と過激ね♪」
──誰かの喋る声が聞こえた。
声は二つ、一つは私を殺した忌まわしき女の声。
そしてもう一つは──
「ハク、声の方へ!」
「ガウ!」
ハクは風を切るように声の方向に走り出す。そして、私は彼──クロトの戦う姿を見つけた。
「クロト!」
「お前、エアリスか?」
「うん、小さいけど確かに私はエアリスだよ!」
「小さい……なるほどな。あいつはエアリスを殺したのか」
「あら、貴女生きてたの」
クロトは【自動再生】の存在も、その効果も知っている。
私の姿をみて全てを悟ったらしい。
切れ者だからね、クロトは。
「そのシルバーウルフは……いや、今はそんな事はどうでもいい。逃げるぞエアリス。この女は今の俺達じゃ倒せない」
「で、でもお兄ちゃん達が!」
「エアリス、今日で勇者パーティーは壊滅した。あいつらはもう駄目だ」
「え、それってどういう意味──」
「説明は後でする。とにかくウォルターまで走れ!」
「ガウ!」
「え、ハク!?」
私を背中に乗せたまま、ハクが地を駆けその場を離れる。
そのすぐ後をクロトが追ってきている。
それを見た私は──
「【俊足】!」
「助かる……!」
クロトに【俊足】の魔法を施し、走行速度を上げる。
全く状況は掴めてないけど、いつも冷静なクロトがこんなに取り乱していたのはあの日以来。
相当な緊急事態になっていると見て間違いなさそう。
「そうやすやすと逃してあげないわ」
蛇の様な下半身で私達を追ってくるロキ。
それを──
「ふっ!」
剣で一薙ぎする事で足止めするクロト。
風刃を付与 したクロトの剣は、斬撃を風の刃として飛ばす事ができる。
その刃で木を切り倒し、ロキを足止めしたっぽい。
私の恋人、マジかっこええ……
「このまま走り抜くぞ!」
そうして私達は森を抜け、一気にウォルターまで走りきった。
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「なんとかウォルターまで辿り着いた……ハク、良くやったね!」
「ガウ♪」
「街まで来れば奴も襲って来ないだろう。それよりエアリス、お前何があった?」
夜番からクロトに遭遇するまでの経緯を全て話す。
「そうか、よく頑張ったなエアリス。そしてハクも、ありがとう」
「えへへ♪」
「クゥン♪」
私とハクはクロトに撫でられてご機嫌だ。
そういえばハクはシルバーウルフ──魔物なのに、すこぶる頭が良い。
元来魔物は何をしなくても襲ってくるし、恐怖以外の感情でそれが止まることは無い。
でもハクは私以外の人が触れても無闇に攻撃したりしないし、それに私の言葉を完全に理解している気もする。
「流石にハクを連れて街に入るのは厳しそうだが、その問題については後で話し合おう」
私はハクの身体から降りて、勇者パーティーに何があったのかを聞き出す。
「全部奴から聞いた話だが、信憑性は高そうだ。そうでなければ、な……」
そうして、クロトは語り始める。
勇者パーティーに入る前から始まっていた、ロキの策謀を──
ここから魔剣士視点でしばらくお話が続きます。
ようやくシリアスなお話になりますね。
基本的には──
もふもふ、日常会、平和回──白魔導士
シリアス、剣戟、裏での活躍──魔剣士
となってます。
参考までに!