10話 魔剣士、守る為に命を賭ける。
「エアリス、早く街に戻ってクソババアに知らせて来い。あいつはこの時間酒場にいるはずだ」
「何言ってるの! クロトはどうな──」
「ウオオオオオオオ!!」
俺達が喋る時間すらも与えてくれないらしい。
「ふっ、せいっ!」
バックステップで巨大な拳を回避し、即座に風の刃を放つ。
風の刃はサイクロプスの皮膚を少し切り裂いただけで、大したダメージにはなってなさそうだ。
「なんつー威力だよ……」
一方、サイクロプスの拳は地面に大きな穴を開け、回避した俺にまで衝撃届く始末だ。
一発当たったら終わりだな……
「エアリス! 早く逃げろ!」
「それじゃクロトが死んじゃう!」
「このままじゃ二人死ぬだけだ! それに──」
再び放たれる巨大な拳。
同じようにバックステップで回避する。
「それに! あのババアならこいつを殺れる! 俺を大事に思ってくれるなら尚更、時間を稼いでいる間に行け!」
「でもっ……!」
「……命の重みを考えろ。俺は元奴隷のお付きだが、お前にはこの世界を変えうる才がある。今ここで俺を捨てられないで、奴隷制を変えられるか!?」
「ぐぅ…………!」
涙を流すエアリス。
だが、ここは意地でも譲る気は無い。
「早く俺を捨てろ、エアリス!」
「くぅっ……! 分かった、分かった! でも命令、絶対生き伸びなさい!」
「……承知した!」
「【強化:脚力、視力、斬撃】【【強化】:脚力】!」
エアリスは自身と俺に強化魔法を施し、街へと走って行った。
「……さてと」
初実戦がA級の魔物? ふざけろ……!
「ウオオオオオオオ!!!」
地面を抉る巨大な拳は、途轍もない轟音と共に衝撃を放つ。
「こんなのを避け続けろってか?」
だがやらねばどちらにせよ死ぬ。
ここで逃げる事も可能だが、そうすればこいつは街の奴らを殺しに向かうだろう。
例え被害が少ないとしても、エアリスが今まで積み重ねてきた物を、僅かにでも壊させる訳にはいかない。
たとえそれが、俺の命を懸ける事になっても。
「ウオオオオオオオ!!」
「るせぇなぁ!」
拳を避け続け、スキを見つけては風の刃を放つ。
その度に少しのダメージは与えているが、決定打にはありえない。
「クッソ………………」
何度も避け続け反撃してはいるが、体力は持ちそうにない。
長期戦は無理そうだ。
なら──
「……ちと試してみるか」
どうせこのままチマチマやってたって、あのババアが来るまでの時間など稼げない。
元々、俺は増援を期待していない。
確かにあのババアは、俺が死にそうだったら助けに来るだろう。
俺はババアと呼んでいるが、それでも仲は良いつもりだ。
一応信頼している。
だがここから酒場までは歩いて20分は掛かる。
どんなに強化魔法を掛けて全速力で走ろうが、10分は掛かるだろう。
──つまり無理。
この状況で生き残りたいなら、己自身の力で乗り越えるしかないって事だ。
エアリスはそれをわかった上で、俺を捨てて逃げる事を選んだ。
……それでも生き延びろと命令されてしまったが、どうやら初めて命令に背く事になりそうだ。
「【雷華】」
とはいえ、簡単に死んでやるつもりはない。
命令に従わないとお嬢様が怒るからな。
現状俺が使える最も威力の高い魔法を、剣に付与する。
「ウオオオオオオオ!!」
何度も繰り出される当たったら試合終了のパンチ。
本来なら避ける所だが、俺は敢えて前に突っ込む。
「ウオオオオオオオ!!」
巨大な拳が俺に触れる直前──
俺は真上に跳躍し、サイクロプスの腕に着地する。
「……うし!」
そのままサイクロプスの腕を駆け上がり──
「ア゛!」
巨大な眼球に剣を突き立てる。
雷を帯びたこの剣は、どこに刺さっても体中に電気を流す。
それを弱点であろう巨大な目に突き立てた。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
当然サイクロプスは暴れる。
「ごふっ……」
ブゥオン!!
ゴキィ……!
剣をどかそうと俺を殴りつけるサイクロプス。
あ、何か変な音した。
多分どっかの骨折れたな。
それでも俺は剣を離さず、サイクロプスの目に突き立て続ける。
やがて──
「オ……ォ…………」
仰向けになってサイクロプスは絶命した。
「は、はは……意外と殺れるもんだな」
そして、俺も仰向けのまま気絶した。
身命を賭して。





