1話 白魔導士、新メンバーに殺される。
新連載です! これからよろしくお願いします!
どうも初めまして!
私は白魔導士のエアリス・アーデンベルクちゃんです。
エアリスって呼んでね。
そんな私ですが、名誉ある勇者パーティーを恋人と一緒に抜けてやりました。
え、理由を教えろって?
分かりました、お教えしましょう。
話は一週間前。
勇者である私のお兄ちゃんが、パーティーに一人の女を連れてきた所から始まります。
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私達勇者パーティーは、突如現れた強大な力を持つ魔王を倒す為に……少し語弊はあるけど、国から選ばれた精鋭中の精鋭。
軍師のアレン、戦士のヴァルハルト、魔剣士のクロト、白魔導士の私ことエアリス。
そして私の兄であり、勇者のクリスハイド・アーデンベルク。
私以外全員男、むさ苦しいね!
大変ではあったけど、五人での旅はそれ以上に楽しかった。
女一人だったけど、他のパーティーで起こるようなそういう事故も無かったしね。
え、胸が無かっただけだって?
うるせえはっ倒すぞ。
とにかく私達の旅は順調に進み、私達は魔王城に最も近い街──ウォルターにまで到着した。
──そして、私達の運命はここで分かたれた。
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それはある日の夕方の事──
突然、お兄ちゃんが知らない女を連れてきて、仲間にすると言い出した。
女の名前はレティーナ。
レティーナは私──というか、同性が嫌うタイプの女だった。
ぶりっ子で、いつもお兄ちゃんの腕に抱きついて……あぁぁぁ思い出すだけでイライラする!
……胸がデカかったから嫉妬しているわけじゃないよ?
レティーナとお兄ちゃんはウォルターの酒場で知り合ったらしいけど、そういう問題じゃない。
「待ってお兄ちゃん、突然過ぎるよ。私達に相談してくれても……」
「ああ、エアリスの気持ちも尤もだ。だからウォルター周辺に出る魔物と、レティーナを交えて戦ってみよう。それでうまく行かなければこの話は無かったことにする」
確かに一理あると思い、私達に相談してくれなかったもどかしさはあれど、一応納得した。
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それから五日──
私達は何度か魔物と対峙し、レティーナとの連携を深めていた。
「レティーナ、【鈍足】の魔法を左方のマジックボアに!」
「分かりましたわ」
【鈍足】の魔法により、マジックボアの動きが目に見えて遅くなる。
レティーナは黒魔導士──敵の筋力を低下させたり、トラップを仕掛ける闇魔法使い。
私達のパーティーにはなかった存在だ。
人としては嫌いだけど、確かにレティーナのお陰で戦いやすくはなっていた。
マジックボアは自分に様々な属性を付与して、ただ突進するだけの魔物。
その突進、私は一度だけ掠った事があるけど、掠っただけで裂傷してしまう程の威力を持っていた。
あの時は痛かったなぁ……まあすぐに回復魔法で治したけど。
「ヴァルハルト、右方のマジックボアの突進を抑えてください!」
「おうよ!」
──ガキィン!
金属同士の衝突音が響く。
ヴァルハルトさんがマジックボアの突進を盾で受けた音だね。
相変わらずの馬鹿力……
先程から響く声の主は軍師のアレンさん。
アレンさんは博識で優しい人だけど、戦場では冷徹な軍師になる。
ヴァルハルトさんも盾を自在に操り、マジックボアの突撃すら簡単に抑えてしまう凄腕の戦士。
そして──
「クロトは左方、クリスは右方の──」
「……承知」「了解っ!」
アレンさんが指示を出す前に動きだしたのは、魔剣士のクロトと勇者のお兄ちゃん。
クロトの剣は炎を纏い、お兄ちゃんの剣は光り輝く。
二人共、武器に付与を施して戦う魔剣士だ。
それぞれスキだらけのマジックボアを一刀両断する。
ちなみに、パーティー内ではお兄ちゃんはクリスって呼ばれている。
クリスハイドじゃ長いからね。
クロトは私達兄妹の幼馴染兼、私の彼氏だ。
子供の頃、魔物に襲われた所を命懸けで助けてくれたクロトに惚れてしまった。
我ながら単純な女である。
そこから猛アピールしまくって、5年間掛けて落としてやったぜ。
ひゃっほい!
まあとりあえず、見事な連携でマジックボアを倒した!
え、お前何もしてないじゃんって?
私は支援魔法でパーティー全体の動きを良くしているからね。
目立たないけど重要な役目なんだぞ?
ともかく私達はその後も魔物を狩り、その日……というか、これで五日連続の野営をする事になった。
途中でウォルターに戻ったりはしたのに、結局寝たのは全部外だ。
──そこで事件は起きた。
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夜は交代で番をする。
夜番で魔物の急襲を防ぐのは冒険者の常識。
もちろん私達もそうしている。
その日、私はレティーナと夜の番をしていた。夜の番最後のグループだ。
夜番の途中で──
「エアリスちゃん、あそこに何か見えたわ!」
「え……私には何も見えなかったけど?」
「私怖いわ、エアリスちゃん、良ければ見に行ってくれない?」
(このクソアマめ、女相手にぶりっ子してんじゃねー!)
まあ思ったけど別に大した事でもないし、光魔法で辺りを照らしてレティーナの指した方向に進んでみる。
光魔法で照らしたのは怖かったからじゃないよ?
まあ結局、その先にあったのは流れの強い川だけだったんだけどね。
確認がとれた私は、お兄ちゃん達の所に帰ろうと振り返り、元の場所に戻──
「あ……れ………………」
れなかった。
全身が痺れたように動かなくなり、声を発する事すらできなかった。
そして私の正面には、いつの間にかレティーナの姿が。
「黒魔法【絶望の麻痺】。魔力総量の高いエアリスちゃんだけど、流石に私の必殺技は効いたわね。優秀な軍師、鉄壁の守りを誇る戦士、魔法を武器に付与できる剣士、そして勇者。みんな優秀だったわ。けれど、私が見てて一番優秀だと思ったのは補助役の貴女。だからこそ、ここで始末しておかないといけないわ♪」
その声は確かにレティーナのもの。
でも──
(嘘……!)
レティーナの姿が、段々と異形のものへと変わっていく。
レティーナは魔物だった。
しかも──
「私の名前はロキよ」
──魔王軍四天王ロキ。
その名前は広く知られており、変身能力を持つことで有名だった。
(早くお兄ちゃん達に知らせないと……レティーナがロキだって……!)
いくら思った所で身体は動かない。
声も出ない。
そして──
「よいしょ♪ よいしょ♪」
「……!?」
レティーナは私の身体を、ゆっくりと川の方へ押していく。
こんな状態で川に落とされたら間違いなく死ぬ。
でも抵抗は出来ない。
(アレンさん……! ヴァルハルトさん……! お兄ちゃん……! クロト…………!!!!)
みんなの顔が思い浮かぶけど、彼らの姿はここには無い。
「じゃあ、さよなら♪」
そうして、私は身体を動かせないまま川に落とされた。