表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sの娘たち Act.A  作者: 威剣朔也
5 A.あるいはオデット・クーベルタン
52/52

3-1



 あの事件の終わり、ボクとジークフリートは手筈通りサタナリアさんの研究所と併設して建てられている病院で治療を受け、ボクも彼も無事感知しました。ですが、少しばかり遅れて搬送されてきたノーラは、教会で行われていた実験に使用されてしまっていたため目覚める望みは薄いそうです。


 そして、この事件が「ノーラがジークフリートを呼び寄せるために張った罠だ」、という妙な勘繰りをしてしまったランスの方は、ナニカ――先代のアヴィオールの卵子に研究者の精子を受精させできたフラスコの子供、ホムンクルスに身体中を生きながら喰ちぎられてしまったがために、正気を失っているそうでした。


 その両方をガラス越しに見ることは可能だったのですが、ジークフリート本人が安否を確かめようともしなかったのでボクもそうなっているのだという情報しか気にかけてはいません。


 ただ、マリアの方は今も尚、行方が知れない状態が続いていました。そう、島にある監視カメラのほとんどに介入できるベルフェリカちゃんの能力をもってしても、マリアが何処に居るのか分からないのです。ですが、六月二十九日の夜に教会で黒山羊――黒山羊製薬の創業者であり、この島で研究開発を進めている張本人であるバフォメット、通称「黒山羊閣下」がマリアを拉致したのでしょう。ボク等姉妹が知っている中で、唯一本物の悪魔である彼は何らかの理由でマリアと名のつく娘を片端から入手し、選別しているのです。


 故に、今回の事件の引き金となった『M-Ave』並びに『M2-Ave』の開発実験を推し進めていた研究者の娘であるマリアを拉致したのも、黒山羊閣下なのです。黒山羊閣下が彼の娘にさえ手を出さなければ、彼は島の子供たちを使って『Ave-M』の開発をすることもなかったでしょう。すべては、黒山羊閣下の行いのせい。まあ、黒山羊閣下が居なければこの島は作られず、ボクたちもまた存在していなかったのでしょうから、すべての責任を彼に押し付けるべきではないでしょうけれども。


 日当たりのよい教会の一番上の一室で、アヴィオール・S・グーラスウィードの履歴を更新、及び近況報告を記し終えたボクは、ぐっと身体を伸ばします。結局ボクとジークフリートは数多の事件、実験が行われた教会に住んでいました。ボクとしてはあの町に住み続けていても構わなかったのですが、決定権を持つジークフリートが此処に住みたいと頼んできたので、ボクはそれに従ったのです。


 かつてバアル・ゼブルを信仰していたこの教会は今現在、何かの教えを説いたりする場所ではありません。ですが此処に確固たる信仰の対象が祭られていなくとも、此処には信仰が息づいていました。なにしろ町の人間たちは女王蜂のフェロモンを纏ったジークフリートを集い崇め、ジークフリートはオデットであり、アヴィオールであるこのボクを崇拝しているのですから。いわば、神が住まう教会、というところでしょうか。


 そろそろ下の階に居るジークフリートに顔を見せに行こうと思った矢先、陽気な足取りで階段を上る音が聞こえました。おそらく彼が、ボク、ないしはオデットの様子を確かめ、慈しみ、欲情し、崇拝するためにこの部屋にやってくるのでしょう。


 階段を上りきった足音が扉の前で止まり、扉を二度ノックされる。




 ――嗚呼、


 今の彼が望むのはわたしとボク。どちらなのでしょうか。






END


あとがき


 リリス。それは思春期という情緒不安定さの名称。そして、彼女を祖として生まれたS氏の娘たちもまた同類。加えて彼女たちはその不安定さに、七つの大罪とされている悪魔の名を冠された個性を彩られました。その彩りは時に変色し、混じることもあるので、一人が二つの名を持っていても不思議ではありません。そう認識していただければ間違いないかと思う、今日この頃。威剣朔也こと、さくやお父さんです。この作品、何年煮詰めていたんでしょうね……考えたくありません。

 なにはともあれ、今回のメイン、アヴィオール。自分の中では一番、といっても過言ではないほど気に入っている子です。白い髪にボーイッシュ、胸はまな板、そのうえ姉妹思いの百合属性。最高かな……。ちなみに、初めてアヴィーと会ったジークが、彼女のことを十七か十八と表したのは、再生剤などの効果もあり若く見えるからです。アヴィーの年齢は二十一です。

 本当はもっとアクションシーン入れたい、という欲がありました。ですが基本対人戦ですし、尚且つジークの目の前と言うこともあり、人間離れしたアクションは控えました。もっとこう、バトルさせたかった……。

~出せそうなら出したい次巻予告~

 今回お亡くなりになったベルフェリカの過去や、四章終盤にて出てきた新しいサタナリアのこと、アヴィーが何故豹に変身したのか等、長女を交えて綴ることができたらいいなぁ、と思っています。加えて、悪魔を名乗る者がいれば、天使もいる。ということで、悪魔(女子)対天使(男子)なバトルシーンも入れたい所存。書けたらいいな、第二巻。

 マリアを掻っ攫う黒山羊バフォメットの諸事情に関しては、他作品で書こうと思っているのでそれもいつか発行出来たらいいな……と思っています。


 作品に関して、何か疑問に思ったことなどがあればどんどん意見を送ってくださって構いません。というか、自分自身では気が付けない点がかなりあると思いますので、指摘ください。もしかしたら(出したい欲とネタはある)次巻以降で、その点が回収されるかもしれません。

 ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

 また、次の本でもお会いできますように!


威剣 朔也


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ