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鼻につく潮の匂い。
キャーキャーと飛び交う女の甲高い声、そしてあらゆる人の悲鳴。
ドン、と誰かに肩を押される。ソレに文句を言う暇もなく、押し、押される人ごみに飲まれた。
その最中、一際大きな爆発音と悲鳴が聞こえ、足元がぐらつく。
一体何が、そう叫ぶ暇もなく大きな何かがこちらの方へ落ちてくるのが見えた。
逃げ出そうにも右にも左にも人の壁があり逃げ出すことはできない。
嗚呼。このまま俺はこの大きな何かに潰され、死ぬのか。
走馬灯が脳裏を駆け巡る暇もなく、視界に映ったのは馴染み慣れた彼―――ではなく隻眼の彼女の顔。
次の瞬間、感じたのは圧迫からなる痛みと、血肉の温かさ。
そして暗闇に飲まれながら見えた刹那の白だった。




