5-2
皮膚と骨がぴったりとくっつき、皺垂れさせた哀れな木乃伊。服装だけが木乃伊を少女たらしめており、木乃伊に成ってしまった彼女の為にも、残された遺族の為にも、人目に晒して良いようなものではないのは明らかだった。
いきなり行方不明になって、木乃伊になった状態で発見される。その状況は十五年前の手口と同じ。木乃伊になって、殺されたオデット。湿った石畳の上、飽きた玩具のように、壊されたオデット。生前の姿は見る影もなく、ただ哀れな屍となったオデット。俺と妻が作った最高の、最上の、愛の結晶が粉微塵に砕かれて、打ち捨てられた。資料の写真がオデットの遺体と重なって見えた俺は、すぐさま写真が載ったページを伏せる。
「十五年前と同じだな」
憎々しく吐いたその言葉はアヴィーにも届いたのだろう。彼女は読んでいた資料から顔を上げて、俺の目を見つめる。
「そうですね。いたって健康であったはずの少女が一晩で衰弱した遺体、木乃伊へと変化し、別の場所で発見される。そもそも木乃伊なんて代物は一晩で作る物ではありませんし、そうすると犯人は一晩で木乃伊化させる方法を知っている限られた人間だと仮定できます」
「ならば今回の犯行も、十五年前の『イーエッグ木乃伊化殺人事件』の同一人物、もしくはその関係者と言うことか?」
「その可能性が高い。と、ボクはみています」
「そしたらこの事件は……十五年前の事件もまた、超常現象なんかではないんだな」
超常現象ではないのならば、明確な犯人が、俺が恨みをぶつけるべき人間が居るはずなのだ。超常現象などという実体のない物ではなく、この世に物質として存在し、意思を持つ人間が。
「そうですね。木乃伊を一晩で作る方法はともかくとして、遺体の選出や配置に関して人の手が加わっているのは確実でしょう。それに、超常現象がわざわざ少女だけを選び取り、木乃伊化させ、当人となんら関係のない場所に置き捨てるという方が考えがたいです。超常現象ならもっと多くの人間を対象にした方が“それらしい”ではありませんか」
他に何か尋ねることはありませんか。俺と相対するアヴィーはそう言ったが、それ以上の議論をするには情報を持ち得ていない俺は「とくにはない」と首を横に振り、手元の資料に再び目を通した。
途中アヴィーとの契約事項である軽食を部屋の中で交えながら、昼を少し過ぎた頃に十五年前の事件の資料及び今日の資料を見終えた俺たちは宛がわれた部屋を出る。朝方の喧噪ほどではないが、それでも署の出入り口付近には報道陣や取材陣の姿が見受けられ、俺は少しばかり眉根を寄せた。
「こんな不幸で、悲惨な事件がありましたよ。どうですか? かわいそうでしょう? 哀れでしょう? さあみなさん、一緒に悲しんであげましょう!」と言いたさげな記事を書いて、世界中に配信する彼等は蟲。腐肉に集り、喰らう蛆虫、飛び立つ羽虫。―――まるで蠅だ。
ブゥンブゥンと嫌な羽音を立てる彼等を極力視界に入れないようにしている俺をよそに、アヴィーは「今日の事件分の経過報告があるかもしませんから」という判断で、念のため明日も署に訪れる旨を受け付けの担当者に言伝ていた。仕事の早いことである。もし彼女が居なければ、否、そもそも出会わなければ俺は事件資料を見せてもらうことは愚かこの島にさえ戻ってきてはいなかっただろう。
彼女のおかげで俺は今此処で、真相を調べられる。心の中でアヴィーに深く礼を言いつつ、受け窓口から戻ってきた彼女に定例の如く「ジークさん。お昼を食べに来ましょうか」と話を振られた俺は胃を押さえた。
署へ来る道すがらアヴィーが購入した食品たちは数多く、それらはすべて彼女自信が責任を持って軽食として食べきった。そこは別に構いはしないのだ。そう、無問題。ただ、毎度のことではあるが彼女の胃袋事情が俺には信じられないだけなのだ。紙袋一杯に詰められた食品たちを軽食と称して食べるアヴィーの姿を見ていた俺の腹は、既に満腹感で一杯である。だが昼食を取ることもまた彼女との契約事項である俺は「嗚呼、そうだな」と頷いて、昨日も入った署の向かいにあるカフェへと入った。
アヴィーは甘ったるそうなドーナツを数個とチョコレート飲料。俺はコーヒーを一つ購入し、カフェの隅の席に腰を降ろす。勿論アヴイーは追加でリゾットやパスタ、ドリア各種を頼んでいる。もう、彼女の胃袋に関するエンゲル係数について考えるのは止めた。
昨日とは違い昼過ぎの平日であるせいか人の姿はまばらで、空席もそれなりに見受けられる。その中でアヴィーはドーナツを食べながら「次は被害者が発見された現場を今一度確認しておきたいです。月曜日の昼間ですから、さほど野次馬も多くはないでしょうし」と一つ提案した。
「もしかしたらまだ現場検証自体が終わっていないかもしれないが……それでも良いのか?」
「構いません。行ってみなければ、わからないこともありますから。それに一応ボクが居れば立ち入りぐらいは認可されるでしょうし。……あと、この町の中で構わないので、十五年前の事件で遺体があった場所も見ておきたいですね」
十五年前の事件の現場は確かにこの町の中にもある。というよりソコは今朝の遺体発見現場からそう離れていない場所だ。ただ、今さら過去の現場を見たところで何が分かるのか? と俺は今思ってしまう。一応、十五年前に起きたイーエッグ木乃伊化殺人事件の再捜査を依頼した本人である俺はそんなことを言えはしないのだが。
「構わない。確か今朝の遺体発見現場からそう離れていない場所にあったはずだし、食べ終わったらすぐに行こう」
「はい」
その返答の後、次々と運ばれてきたリゾット、パスタ、ドリアの面々。それらを迅速に胃袋へ流し込み、納めていくアヴィー。おそらく十分もかからずに食べきってしまうであろうその様を眺めながら、俺もまた迅速に、ブラックコーヒーを飲み下した。
そうやって早々に昼食を終えた俺たちは今朝方に遺体が発見された場所に赴いた。道すがらの買い食い、花束購入のための花屋への入店等、諸々の所用をこなしつつたどり着いた頃には日は傾き、夕暮れに近い頃合いとなっていた。
目的地であったその現場には既にブルーシートはおろか警察の姿は無く、その代わりに野次馬と取材陣が現場を踏み荒らしているという、胸糞の悪い状況が広がっていた。大げさなカメラとマイクを振りかざし、野次馬どもにインタビューをする取材陣に再び蠅の印象を抱いた俺は即座に彼等の事を意識から外す。
そんな害虫の代わりに視界に入ったのは、学校帰りなのだろう学生服を着た幼い子供たちが涙を拭いながら花束を置いている姿だった。おそらく遺体となって発見された少女の友人たちだろう。ハンカチに顔を埋め、夕日の中泣きじゃくる彼女たちの姿はひどく痛ましい。
一方、俺の傍らに居るアヴィーは持って居た二つの花束の内、一つを現場に安置すると、すぐに現場の写真や動画を自身の電子端末で撮りはじめていた。時折誰かとも連絡しているのか、画面に文字を打ち込んだりしてもいた。
おそらく彼女なりにこの事件を捜査しているのだろうが、やっていることと言えば野次馬と大差ない。だがそんなアヴィーも一通り用を済ませたのだろう。「次に行きますよ」と、俺の肩口で小さく囁くとすぐに俺から離れて背を向けてしまう。
彼女の吐息がささやかながらも耳にかかっていた俺は、その感触を忘れられず木偶の坊の如く立ち尽くしてしまう。
想像するにたやすい、あの薄い唇が、俺の耳元で甘く痺れる囀り声を発したのだ。嗚呼、彼女はさながら小鳥だ。囀り声は仄甘く、美しくも愛らしい小鳥。俺の肩口から飛び去ってしまったその小鳥は、ぐにゃりと姿を変えて優美な真白の豹へと変わる、否、戻り、「ジークさん、行きますよ」と改めて俺に声を掛けた。
「嗚呼、今行く」
浸っていたい程甘い痺れから身を解き、しなやかな豹へと近づく。だが、その豹―――アヴィーが待つその場は夕日が一直線に差し込む場所で、茜色の炎、逆光の黒、ちかちかと俺の視界を彩り、蝕む。めまぐるしく変わる二色の色調の差に眩暈がし、ぐらりぐらりとまるで車酔いでもしているかのように視界が揺れる。されど多少の見栄がある俺は、ゆっくりとした歩調ながらも彼女の傍までやって来た。だが、やはりと言うべきか、俺の具合が良くないことを察したのだろう。アヴィーは自身のコートのポケットをまさぐると、そこから一つ輝く粒を取り出して俺に渡した。
「これは……」
きらりと茜色の太陽に照らされたそれは、昨日も見たトルマリン鉱石ならぬ、薄荷の飴。
「気を確かにしてくださいね」
「あ、嗚呼……」
かさりと鉱石の包みを剥がし、口の中へ入れればミントのツンとした刺激とわずかな甘みが鼻腔を刺激する。そしてその鼻を抜ける冷ややかな感覚が、視界を蝕み、脳を揺らしたあの不快な干渉を取り払ってくれた。さながら夢の中から抜け出したかのような、そんな感覚。
「もう、平気だ。行こう」
「はい」
俺の顔色を窺いながらも頷いたアヴィーと共に、俺たちは付近に在る十五年前に木乃伊遺体が発見された場所へとやって来る。先ほどの現場とは違い、添えられる花束もなければ、悲しむ人も、たかる蠅もいない。なんてことのない、有り触れた路地の忘れ去られた埋葬場所。アヴィーは手元に残っていたもう一つの花束を遺体が在ったと思しき場所に置くと、そこでもまた写真や動画を電子端末で撮りはじめた。
「なあ、アヴィー。さっきもだが一体お前は何をしているんだ?」
「現場検証と観測、そして立証のための計算です」
「現場検証と観測、計算……?」
「はい。そのいずれもが、何時か必要になりますから」
「そう、か」
九割ほど彼女の言っている意味が分からなかったが、彼女が必要と言うのならば必要なものなのだろう。下手に質問をして、彼女に不快な思いを抱かせることに躊躇いを持つ俺は、黙って彼女の行いを見守る。
いや、違うか。俺は彼女を不快にして、彼女の中の俺の順位を下げたくないだけだ。今俺がどの位置に居るのかなんて知らないし、彼女がそんな順位をつけているとは到底思えない。けれど、好きな人には自身を好いてもらいたいと思うのはヒトとして、繁殖する生き物として当然の事だろう。異論は認めない。これは、俺自身が決めるべきことなのだから。
けれどそんな俺がアヴィーに対して抱く純粋で、ささやかで、邪な感情は、同じアヴィーに対しての見栄や虚勢、躊躇いに何時も阻まれてしまう。本当は彼女の事をもっと知って、理解して、支配して、彼女色に染まりたい。彼女の色だけに染まりたい。なのに、それは俺の見栄や虚勢、躊躇いの壁を越えられず妄想のまま俺の中に置き去りにされて、ミルフィーユのように折り重なっていくのだ。
哀れなミルフィーユ。ときどき生クリームをクレープ生地から漏らして地を白く汚すミルフィーユ。フォークを突き立てられることも、ナイフを滑らされることもない、食べ物としての存在意義を失ったミルフィーユ。最後にはイチゴのソースを掛けたら良いのだろうか。
「ボクとしては、イチゴよりオレンジで食べたいですね」
カメラのシャッター音が不気味に響く路地。切なげなその場を転々とする青年のような、少年のような、ゆらゆらとしたつかみどころのない淡い白の少女が、そう言った。
「え……あ……、何のことだ?」
「そんな匂いがしたので。ですが、きっとボクの気のせいでしょうね」
彩る茜。滲みよる闇。相対する俺とアヴィーの間をひゅおりと冷えた風が走り、俺は肩をすくめる。早いうちにマフラーや手袋を購入した方が良いだろう。
「もう写真も撮り終わりましたし、そろそろ帰りましょうか」
「あ、嗚呼そうだな」
彼女は俺を知っている。彼女は俺を知り尽くしている。彼女は俺を理解している。彼女は俺を謀らない。彼女は俺を厭わない。アヴィオール・S・グーラスウィードはそういう人間だ。人間らしからぬところは胃袋事情や、観察眼、感情が異様に薄いところ、過去が何一つとして知れないところなど多々あるが、それでも彼女は人間であることには変わりはあるまい。
茜色が闇に溶ける様をありありと体感しながら俺は、アヴィーと二人冷えた風が通り過ぎる中、帰路を急ぐ。
今夜はそうだな、温かいクラムチャウダーが食べたい気分だ。むき身の貝や、たまねぎ、ニンジン、ジャガイモ、ベーコン等が入ったクリームスープ。想像するのも容易いそのメニューをそのまま「アヴィー。今晩はクラムチャウダーが食べたい」とアヴィーに伝えれば彼女は快く是の言葉を返してくれた。
一応冷蔵庫にはクラムチャウダーに必要な食材は入っているらしい。今夜もまたアヴィーの手作り料理が食べられると、内心嬉々としながら帰宅している際、途中手芸芸を専門とした店で幾つかの毛糸の購入を申し出たアヴィー。何か作るつもりなのだろうか? まあ都会と違ってこの島には暇をつぶすような娯楽施設はないから、編み物なんかは良い暇つぶしになるだろう。
茜に燃える陽も落ち、ミッドナイトブルーの闇が町に染み渡った頃、家に帰ると、中からたどたどしいながらもピアノを弾く音が聞こえた。ただそのメロディは音楽らしからぬ響きで、俺と同じく同じく玄関先でその音を聞いたアヴィーは「マリアさんですね」と零し、中へと入って行く。俺もまた彼女の後を追いリビングへ入れば、彼女の言葉通りマリアがピアノの椅子に座り、白と黒の鍵盤をたたいていた。
「アヴィーさん、ジークさん、お帰りなさい」
「あら、お帰りなさい、二人共。外寒かったでしょう?」
他愛ない目の前のマリアの声と共に、聞こえてはいけない女の声が同時に聞こえた。
その声の主はどうやら台所に居るらしく、俺としては少々気が引けたが確認のためにとそこを除きに行けば、あろうことかノーラが夕食を作っている最中だった。昨晩「俺たちの世話は焼かないでくれ。自分達の事は自分達で出来る」と言ったはずなのだが、どうして彼女は性懲りもなく食事を作りに来ているのだろうか。疎ましい。そんな名前がお似合いだろう。心にふつりと沸いた感情に、俺の拳が震える。しかも台所から漂ってくる香りは数種の香辛料を使った、スパイシーなスープのそれ。
俺はクラムチャウダーが食べたい気分で、アヴィーも賛同してくれていたのに、ノーラはなんてことをしでかしてしてくれたんだ。
マリアが弾いているのか、たどたどしい音がさらに俺を苛立たせていく。不協和音、不快なにおい、不快な存在。せっかくのアヴィーとの空間と時間を無駄に蝕まれている現状。だが俺のその怒りに、キッチンに立つノーラは気付いていないのか、ずうずうしくも煩わしさと疎ましさを増幅させるようなべったりとした笑みを俺に向ける。
嗚呼、俺はお前なんかではなく、アヴィーに食事を作ってもらいたかったのだ。
「おい、何で食事を作ってるんだ」
粗暴な言葉だっただろう。だがそんなことは今どうだっていい。昨日釘を刺したにも関わらず何故彼女が俺の家で食事を作っているのか問いたださねばなるまい。
「えっ、あ。昨日、マリアを預かってくれたでしょう? そ、そのお礼で……食事を」
流石のノーラも気づいたのだろう、びくりと肩を跳ねさせて、目をあちらこちらにやりながら俺に返答する。
「昨日、もう食事は作らなくていいと言ったはずだが」
「で、でもお礼はしたいし」
「家の掃除や出迎えをしてくれただけで十分だ」
だからもう無断でこの家に入ることも、勝手に食事することもしないでくれ! その言葉を聞いたノーラは息を詰め、「でも」「だけど」と理由に成らない言い訳を繰り返す。だが俺はその全てを拒絶する。例え彼女の行いが純粋な善意からだったとしても、俺はそんな押しつけがましい善意などいらないし、向けられても困る。
「わ、わかったわ……」
苦しげにその言葉を吐くと、ノーラはキッチンの火を止めて家から出て行ってしまう。それも何故か、マリアを残して。
母親に取り残されたマリアは「今日もお泊り?」と嬉々とした表情でアヴィーに声を掛けている。まただ。どうしてマリアはノーラが居なくなると喜ぶのだろうか。もしかしてマリアもまたノーラに良い感情を持って居ないのだろうか。
「良いのですかジークさん、彼女を無下にして」
何時の間に俺の傍へ来ていたのだろう、アヴィーがマリアには聞こえない程度の声量で話しかけてきた。
「嗚呼、良いんだ。昨日釘を刺していたのにも関わらず、性懲りもなく食事を作っていたのはノーラの方だからな」
「そうですか。ジークさんがそういうのならば、これ以上ボクは何も言いません」
これで俺との会話はそれで終了。とでも言うようにアヴィーは「さあ、マリアさん。もう夜ですしピアノは控えましょう。ボクは今から夕食を作りますから、良い子で居てくださいね」とリビングに居るマリアに声を掛けると、いそいそとノーラが途中にしていった食事の再製作をし始めた。
「アヴィーさん、今日の晩御飯はなぁに?」
「クラムチャウダーとミートソースのパスタ、生ハムのサラダ、ブロッコリーとゆで卵のマヨネーズ和えです」
クラムチャウダー。マリアとの会話でその単語を出したアヴィーに内心喜び勇む自分。それに、彼女が言ったメニューの中にノーラが作っていたスパイシーなスープの名が見受けられない所を見ると、おそらく残されたソレは全てアヴィーの意の袋に納まるのだろう。
何事もなくアヴィーが行った夕食のメニューを食べ終え、風呂にも入り終えた俺がリビングで見たアヴィーはマリアを交えながら編み物をしていた。マリアは子供でも簡単に編み物が出来る編み物キットを使用し、アヴィーは手慣れているのかかぎ針を使用している。
一息吐いて椅子に座れば、弟からのメールが数件届いていた。開けてみればノーラのことだったり、事件の事だったり、マリアの事だったりと様々な問いかけが羅列してあり、俺は「マリアは今日も家に泊まらせる」とだけ返信して、端末の電源を落とした。今日はもう、ランスにもノーラにもこの空間は邪魔されたくない。
兄妹と思しきアヴィーとマリアに目をやり、二人の会話に耳をそばだてればどうやら二人はフラーを編んでいるらしかった。ネールピンクとシナモンの色をした毛糸で着実に、そして手早く編まれてゆくマフラーを見つめながら、俺の中に居る緑の瞳をした獣は鎌首をもたげ、唸り声を一つ上げる。嗚呼、アヴィーは今作っているそのマフラーを誰に渡すのだろうか。




