わらの虹
山奥に住む、ほんとうに寂しい兄弟愛の物語。
わらの虹
三好英治
遠いむかし、岩代国の田代山のふもとに健太と権太の二人の兄弟がすんでいました。
両親を病気で亡くし、まったく、ふたりだけの生活の中で
かなしく寂しい日が続く毎日でした。
そんな中、秋も深まり二人はきのこを採りに山へ出かけることにしました、
山はひんやりと肌寒く感じました。
健太と権太の二人は、背中に籠を背負い小さな足で一歩一歩、山に向かって歩きはじめていくうち
山道は奧へ進むほど木々がうっそうと茂り薄暗く感じました。
この日にかぎって、すぐあるはずのきのこがなかなか見つかりません、
やっと見つけたときは夕方になっていました。
兄の健太は弟の権太をつれて家に向かって
しばらく歩くうち、みちの両側に茂る葉っぱに小さな音が聞こえてきました、
雨です、健太と権太の頭の上にも降り始めて、
それは、本当につめたい雨でした。
健太と権太は駆け足で家に向かい
その途中で権太は石につまずきころんでしまい
権太の背負っていた籠の中のきのこを全部雨の中のどろ道に投げ出してしまいました、
健太はいそいで権太のまいた、きのこをひろいあつめましたが
健太も権太もずぶぬれです、
やっとの思いで家にたどりつき、健太は権太の着物をぬがし体をていねいにふいてやり、
いろりのそばに座らせましたが権太の体は小刻みにふるえていました。
健太は、採ってきたきのこを縁側で、
ついている土をとりのぞきはじめましたが
全部のきのこのそうじが終わる頃には夜中になっていました。
ふと権太をみるとくちびるはむろさき色になっており
あわてて、健太はふとんを用意し権太のひたいにつめたいてぬぐいをおきました、
まもなく健太もいろりのそばで寝入りました。
朝がきても権太の咳はとまらず、ますます症状は悪くなっている様子です、
ひたいに手をあてると権太は火がでるような熱さでした。
権太はうわごとのようにお父さん、お母さんと苦しそうにつぶやき苦しそうな表情でした、
何日、立っても権太の様子はいっこうに変わりませんでした。
健太は、もうこれ以上自分でどうする事もできないと感じ
もしかすると、権太はこのまま死んでしまうかもしれない
権太にお父さんやお母さんに会わしてやりたい、しかし、どうすればいいんだ、
そうだ、権太から前にお父さんやお母さんがどこにいるのと
聞かれたときに虹のむこうにいるよと、答えたことがある
そうだ!
権太に、虹をみせてやろう。じゃあ、どうすればいいんだ
健太はいろいろ考えましたが、なかなかよい考えは浮かんできません
虹が思うように出てくれるわけがないし
ああ、そうだ、自分で造るしかない
じゃ、どうして造るんだ?
ふと外の縁側を見ているとひらひらと真っ赤に染まった一枚の葉っぱが舞い降りました、
そうだ、これで造ろう赤だけじゃ虹は造れない
じゃ、どうすれば
まてよ、山に行けばいろんな色があるじゃないか
すぐに、健太は籠を背負い山に向かい
できるだけ大きな木がある所にできるだけたくさんの色のある所に小走りで奥へ向かいました、
権太に見せたい早く見せたい虹をどれくらい歩いたでしょうか?
やっとの思いで、たくさんの木に囲まれた場所たどり着きました。
ひらひら舞いちる落ち葉たち
ぼくの手の平に落ちてこい
手の平いっぱい落ちてこい
あか、あお、きいろの落ち葉たち
ぼくの手の平に落ちてこい
手の平いっぱい落ちてこい
いそいで拾い集めた健太は家路につき
庭先に竹を組んでやぐらを造りました。
やぐらに扇状にわらの束を七束むすんで
その束に、葉っぱの茎をさしこんみ、
同じ色の葉っぱを同じ束の所へさし込んで一列の扇状の葉っぱの束となりました、
残りのわらの束にも同じように繰り返しました、
その葉っぱが風にゆらいできらきら輝くきれいな虹ができあがりました。
しかし待てよと健太は、ふと思いながら、
青がない、しかし葉っぱに青色なんかないじゃないか、
健太は考えました。
どうしょうか?
何気なく顔をあげると健太の真上に真っ青の空が一面に広がっており、
そうだ、健太はわらの虹の青の部分のわらだけ、とりはぶけばいいんだ、
健太はすぐに、はしごにのぼり、わらをとりのぞき、
見事な虹が出来上がりました。
健太はすぐに縁側の戸を開け、寝ている権太に
虹だよと呼びかけると
権太は、うっすらと目を開け
ああ、虹だと力なく笑みを浮かべましたがそのまま静かに息を引き取りました。
健太は権太のまくら元で力いっぱい泣きました。
いつまで泣いたでしょうか?
なみだいっぱいの目で顔を静かにあげるとわらの虹の上におおいかぶさるようにほんとうの虹が
健太と権太を見守る様に架かっていました。
兄の願いが叶い大自然の壮大な兄弟へのプレゼント。