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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

お尻の大きな死神

  俺は冷たいマントルピースの上に、ちんまりと正座させられていた。

 しかし、ほんの50センチ前には、

 馬鹿みたいに口を開けた間違いなく密輸品であろう虎の皮が敷いてある。

 あーあ、せめてその上にして欲しかったなぁーとは思うが、

 俺を見下ろしている、

 スキンヘッドとパンチパーマの凶悪な男たちに頼める訳がない。


「 いやー、凄いなぁ兄ちゃん。

  うちらが代紋背負ってる闇金って知ってて金借りてやな、

  トイチの利息を一度も払わんと、半年も行方くらますって信じられんわ。

  

  でも、今ならまだ元金込みで600万払えば勘弁したるわ。

  山に埋まるのも嫌やろ。」


 パンチパーマの頬の傷が派手な馬鹿が呆れた様に俺に声をかける。


「 … 」


 無言で見上げたが…反省など全くない。

 今俺の思ってる事?

 ま、金借りた俺が悪い!やろなって事ぐらいは思っている。

 ちなみに借りるつもりじゃなく最初から奪うつもりやったけどね。

 いきなり盗んでってのは直ぐ追手がかかるし、警察怖いし。


 でも返す気なくても借りたらさー返済期間があるからさー

 その間に、逃げ切れるって思ったわけよ…

 あんたら選んだ理由?

 別に大した意味ないわ、運が悪かったんやろな。


「 ったくよ~、書類改竄して他人の名義の車を担保にしやがってよー。

  回収にいって当然そいつは知らんから警察呼ばれて、

  呆然自失だったわ!

  組にも迷惑かけて上から阿保ほど…危うく指が飛ぶとこやったわ。

  ほんま、殺したろかぁこいつ!はよ~ 」

  

 パンチパーマの兄貴分のスキンヘッドが地の底から響くように呻いた。

 そりゃあご愁傷様だわ。

 でも、お前らもいかんやろ?書類はちゃんと見ないとさぁー

 玄人のあんたらが騙されてどうするの?


 しかし、こいつら殺す殺すって馬鹿みたいに凄んでるけど

 たった600万で殺しなんかするわきゃないわ。

 …その辺が汚れて後始末の方が金かかる。


 金にするならっ手っ取り早く腎臓か、肝臓一部?

 それとも売人か、良くておれおれの受け子?

 いずれにしても…

 ん?なんやこの紙…いきなり、俺の目の前にゆらゆらと紙が降ってきた。

 

 それを手に取ると…

 なになに、次の言葉を心の中で叫んでくださいって?

 なんや、馬鹿にしとるんか…ってこんな紙きれ、でも、こいつらが用意する訳ないし…


 チラって頭を上げて見回すと、奴らは俺の背中側で話をしている。

 小声でなく、わざと聞こえるような声でだ…


「 兄貴…どうします?金が焦げ付いたら、うちらもやばいんと違いますか? 」

 当たり前やん、組織なんて金が全てやからな。


「 ホンなこと言ってもなぁ…回収って言ってもやなぁ…

  内臓は前にも売り飛ばしたことあるけど、

  この間、マッポに見つかって仲間身代わりに出頭させてるから、

  目つけられてるでヤバいし…

  ヤクの売人や、オレオレの受け子なんて言う人手も今は余ってるし… 

  うううんん… 」

 スキンヘッドの頭をこねくり回しながら男は考えている。

 はあ、

 俺の発想もこいつらと同レベルなんかって思った。

 しかし、金を稼ぐってこの業界でも大変なんだなぁ…


「 あ、ほや!こんなんどうです?

  実は知り合いの金持ちの外国人が、男娼を求めとるそうなんですけど。」

 

「 は?そんなん、うちの店からいくらでも出せるやろ。」

 へええ、男娼っているんだ…ゲエエ気持ち悪~


「 いやー、それが凄い変態なお客さんでして…

  その…男でもあれがついてるのはちょっとって。

  ”大金”払ってもいいから何とか捥いで…処女がいいって言ってました。」


「 うへ、そりゃすげーな。んで? 」

 スキンヘッドが”大金”って言葉に反応した。


 パンチパーマがチラッと俺を見る。

「 あいつ、二枚目で線も細くて…

  捥いでもうちら全然困らんし、多分後ろの穴は未開発やろうし… 」


 ぐうあああああ!!!! その展開は予想しんかった。


 想像したくないが勝手にキモイ光景が頭に浮かんでくる。

 あれをもがれて、なよなよした俺が

 外国船の船倉でしくしく泣いて檻に閉じ込められている姿。

 んで、見知らぬ国で脂ぎった豚に…尻を…後ろから…

 うぎゃああああ!!!!

 俺は、立ち上がって逃げようとするが既に痺れきった足は言うことを利かない。

 その時、ふと手に握った紙の事を思い出す。

 涙目でその紙を見た。

 なになに、

 あなたの絶望的な環境が変わりますわよ?

 んな事さっきそんなん書いてあったけ? ええままよ! 

 溺れる者は藁をも掴む。

 てか、ナニがなくなるのはヒジョーに困る。


「 アータデーン、シャーコオ、ヘンガーナ 」

 紙に書いたことをそのまま必死に心で叫ぶ!

 ”はっ”とした。あんた電車こーへんがな?あほか俺!!


 ダダダダン ウウーウ ダダダン ウウウー ダダダダーーーン オオオオー  


 いきなり、部屋中に聞いたことのある演歌のイントロが聞こえてきた。


「なんやこれ!事務所、防音やぞ!外からこんなん聞こえる訳ないぞー」


「な…なんやあれーー」

 パンチパーマが天井を指差し、俺も思わずそれを見る。

 そこにはお尻が生えていた…

 黒いスカートかなんかを着ているのだろうが、お尻が激しく上下している。


「ええっと…」

 俺たちは黒いゴム毬のようなお尻を呆然として見ていたが、

 流石に数分も経つと、スキンヘッドが怪訝そうな顔つきで声を上げる。


「 まーちょっと触ってみーや、智也。」

 パンチパーマが近くの机に靴のまま上がって、

 それを撫でるように触るとビックと震えた。


「 お…女の尻みたいですが…どうしやす?」

 なんか鼻の頭が赤い、軟らかそうなんで感触が良かったんだろう。


「 いや、どうしやすって言われてもなー。ちょっと叩いてみるか?」


「 気が進みませんけどなー 」

 ぶわちぃぃーん!思いっきりパンチパーマは平手でぶっ叩いた。


「 きゃん!! 」 

 グボグボオオオって音とともにお尻が急に下がったかと思うと、

 黒くて大きな物体が降って来た。

 ガシャーーン! 

 凄まじい音がすると、机の上で完全に伸びたパンチパーマと

 その腹の上で、座ったまま大きなお尻を擦っている巨体の女がいた。


「 ううう、また、嵌っちゃっいましたわ。

  また失敗しちゃったわ。はああ、次はもっと大きく開けないと…

  でも、こいつ!思いっきりたたきやがって…痛かったじゃないのよ!

  うえええ、お尻に紅葉がつかなきゃあいいんですけど…」


 俺とスキンヘッドは呆然とその光景を見ていた。

 何もない空間から、いきなり尻が現れて…女が降ってくるなんて…

 そんな馬鹿なことがあるなんて。


 女は、痛むのか両手でお尻を摩りながら机の上に立ち上がった。

 そして、俺とスキンヘッドを見ながら右手を開いたり閉じたりした。

 

「 ああっ、忘れましたわ… 」

 急に素っ頓狂な大声を上げながら、女は大きな体で背伸びしながら

 右手を天井の穴に突っ込んでまさぐり始めた。

 

 こちらに顔を向けないで一心不乱に穴をまさぐっている女を観察した。

 寝転がっているパンチパーマが175ぐらいあったので、

 比較するとそれよりも大きい180は軽く超えていそうだ。

 痩せてはいるが、胸は反則技の様にデカいしお尻はいい形でしかも大きい。

 真っ白な肌で手足も細くて長くて形がいい…

 日本人では無いのだけはシルエットだけでも分かった。

 

「 あーあったあった 」

 女はそう言うと何か黒い棒のような…でかい鎌?を取り出す。

 2メートルはある鋼鉄の柄に冷たく輝く幅広の刃…死神の鎌みたいだと思った。


「 よーよー、ねえちゃんよー 」

 やっと正気づいたスキンヘッドが女に近づいていく。


「 あら、私は、あなたのお姉さまではありませんわよ? 」


 女は机から軽やかに飛び降りて、大きな鎌を肩に担いだ。

 かなり重いはずなのに重さを感じさせないほど空気の様に肩に乗せた。

 女は金髪で透き通るような白い肌をしている。

 しかも目も緑が掛かった青い瞳で大きく魅力的な形をしていたし

 鼻筋も通っていて、唇も真っ赤な薔薇のようで形もいい。

 はっきり言って、そこらの芸能人など束になっても適わないほどの飛びっきりの美人だ。

 その顔が少し傾いてスキンヘッドを見つめた。 


「 ふざ…けてもらったら困ります… 」

 スキンヘッドが彼女の前まで歩いて近づくごとにその大きさに圧倒されたようだ…

 170ぐらいはあるはずなんだが彼女の肩ぐらいまでしか背が届いていない。

 

「 あらー、可愛い頭ね…すべすべして赤ちゃんみたいですわ… 」

 彼女は狂暴そうな男の頭をニコニコしながら撫でている。

 全く怖がっていないどころか、小さな子にでも接するような態度だ。

 流石に怒ったのか男は蛸のように顔を真っ赤にして

 平手を女に浴びせようと大きく振りかぶったが

 いきなり力なく彼女の足元に倒れた… 


「 ううーん、心臓麻痺ね…死んだばかりだから活きがいいですわね… 」

 女は鎌を倒れたスキンヘッドの上で一振りする。

 すると何か白い煙のようなものが湧き上がって、女の体に吸い込まれる。

 彼女の顔に笑みが浮かぶ。


「 あーそうそう、そこの男も刈り取っていくかな… 」 


 机の上で伸びている男の傍まで行くと女は呟いた。


「 そこの飾り棚から壺が落ちてきて頭蓋陥没骨折でショック死がいいかしらね…

  まだ意識あるみたいだから痛いからつらいですわね。

  でも、最後にわたくしの自慢のお尻を触れたからいいでしょ。」 


 そう言うと再び鎌を振り上げる。

 少し離れた飾り棚から、

 プリント転写で安物の白磁の大きくて重そうな壺がパンチパーマの頭に落ちる。

 男は血しぶきを上げて凄い勢いで体が痙攣したが、

 数秒後、ゆっくりと広がる血だまりの中で力つきた。


 女はまた、先ほどの様に鎌を振り、同じように煙が体に吸い込まれていった。


「 さーてと、これで仕事は終わり!後は報告書書いてぇ、お風呂入ってェ…

  ああ、ゲヒルと居酒屋でも行きましょうかねぇ…

  しかし、悪人の魂は美味しかったですわ!満足満足。 」


 女は満足げに両手を広げながら、大きく伸びをして体を左右に倒した。

 女はちゃんと見ると190近い身長でピンヒールまで履いていた。

 体に纏った真っ黒いワンピースのように体に密着したローブがはち切れそうな

 ダイナマイト・ボディで超美人だった。…なんだこいつ?


 女は倒れている俺の方にゆっくりと歩いてきて体を起こしてくれた。

 胸が背中に当たって

 長くて柔らかい腕も気持ちよかったが、痺れた足が苦痛だった。


 俺は女に傍の大きな椅子に座らせてもらって女の顔を見る。

 しかし、首が折れるほど見上げないといけない女だな~ 


「 あのーあんた誰ですか? 」

 まずは当然の質問をする。


「 ジャニスですわ…多分もう会うことも無いでしょうけど…」

 女はニヤッと笑った。 


「 いや、名前じゃなくて… 」


「 あら、言いませんわよ。」

 笑いながらただの一言で俺の追及を躱しやがった…

 でも、こんな化け物にそう言われたらしょうがない。


「 さっきの男たちは?どうなったの?」

 

「 ああーきっちり死にましたよ。

  魂は、私が一時食べて会社で業務報告書を書いて提出しますけど? 」 


「 会社?食べた?死んだ? 」

 頭がおかしくなりそうだ…目の前のことが何一つ理解できない。

 一つ言えることはこいつは人間でないという事だけだった。


「 理解しようがしまいが、あなたには関係ない事ですわよ。

  私の目的だけ端的にお話ししましょう。

  この男たちはかなりの者達から憎まれていました。

  生者からも、こいつらが殺したかなりの数の死者からもね…

  んで、このままですといろいろと支障があるということで、

  その暗黒エネルギーを相殺するために、

  業務命令に従ってこいつらの魂を刈り取りに来たんですのよ。」


 よく分からないが…多分、こういう事だろう。

 俺の知らない世界の会社の命令で、馬鹿どもをその会社にって事だろう。

 でも、魂の回収で、そんな黒いデカい鎌を持ってるんだから…

 多分近い処では…死神ってとこだろう。

 随分、イメージが違うけど…そこらが落としどころだな。


「 はあ、よく分かりませんけどまあいいですわ。でも…さっきの紙は?」


「 あーあれ?あれは私たちが現生に現れようとすると、

  現生側で言霊による世界の開錠をしてもらう必要があるんですのよ。」 


「 でも、あんな言葉って…」 


「 私たちの言葉で、”汝の開錠の儀、承った”って意味ですけど…何か? 」


「 そ…そうですか。それで…僕はどうなるんでしょうか?」


「 別に?このままですけども?

  死体が転がっているんで、さっさとどっかへ行った方がいいですわね」 


「 あのー、協力したんでお礼とかは…」


「 あー、ある訳ないでしょ!それとも時間巻き戻して無かった事にしましょうか?」


「 出来るんですか?」


「 出来なきゃあ言いはしませんですわよ。」

 うーん、それは困る…まだ男でいたいし


「 分かりました。何も申しません…帰っていただいたら即、退散いたします」


「 まあ、聞き分けのいいことで、ご褒美に…」

 俺の唇に柔らかい感触と吐息が絡んできた…き…気持ちいい…


 その時また、よく聞いた演歌のエンディングのような音楽が

チラララー チーラ チラララ チーララ チーララララーンララと響いて来る。


「 それじゃ、バイバイね。」

 そう言うとジャニスとやらは机に駆け上がって飛び上がる。

 穴の端に両手でぶら下がると必死の形相で、さっきの穴をよじ登って上がっていった。


 格好よく、空でも飛ぶか、少しずつ消えるかと思ったけど…一番理にかなってるし…

 まあでも、さっきはお尻が挟まって動けないときは焦っただろうなー。


 俺はジャニスには言わなかったが、ジャニスが

 大きくて可愛い白いパンツ丸見えで登って行ったのをしっかり見ていたことを…

 もう穴が閉じたが、さっきまで穴が開いていた天井をニヤニヤと見やった。

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