FID - 1 「追う者」
[02.21.1972]男の手記
「ヤツが来る!今もあそこで俺を見てやがるんだ!」
私の友人はいつも病院のベッドでそう叫んでいた。
その度に看護婦や医師に取り押さえられ、警備員に世話を焼かれる事も少なくなかった。
幻覚や幻聴の症状で眠れる日々が続いたようだが、何か変だった。
そんなある日彼は私にある写真を見せた、それは焼け焦げた動物の死体に見えたが損壊が酷くそれが何の動物なのかまでは分からなかった。
何故彼はそんな写真を渡したのだろう?そんな事を考え、一日の大半をボーッと過ごしてしまう事もあった。
異変が発生したのはその頃からかもしれない。
あれから既に長い月日が経過し写真の存在すらも忘れていたある日、私が掃除のついでに部屋の整理をしていると本棚に何かが挟まっている事に気がついた。
それはあの時の写真だったのだ。
写真を見た途端友人に対する非常に懐かしい気分と悲しい気持ちに身体を支配されたような感覚に陥った。
だがそれと同時にある不審点に気がついてしまった、写真に写っているはずの物が写っていなかったのだ。
ただただ黒く変色した地面しか写っていなかったが私にはそこに何が写っていたのかはその時の私には思い出す事が出来なかった。
次の日の朝早く、私は近くの店まで買い物に行った。
毎週2回は買出しに行っている、いわば習慣のようなものでこの習慣は親の手伝いをしている頃からのものだ。
しかしこの日は違った。
私が店へ向かってのんびり歩いていると、背後に人の気配を感じた。
「そもそもここは街中で人通りも多い場所じゃないか、気配を感じるのも当たり前だ。」と溜息をつく。
勿論その時は馬鹿馬鹿しいと感じていた。
だが気配は徐々に距離を詰め始めたのだ、次の日はもっと近く、その次の日は更に近くなった。
ついには奴の気配だけではなく足音まで明確に聞こえるようになり、痺れを切らした私は勢いよく後ろを振り返り、怒鳴り散らした。
そこには誰もいなかった。
周囲の目は一瞬にして私に集まり、私の顔は真っ赤になる。
耐え難い恥を背に家に逃げ帰ると気配は消えたが、頭の中は恐怖で一杯だった。
明日はどれ程まで近づいてくるのだろう。