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第1話 その胸に秘められられたものとは?

キーンコーンカーンコーン

予備校といえどチャイムの音は同じだ。

花前新太は特殊公安部隊入隊者選抜試験特別予備校ー通称・公安予備校に通っていた。

理由は当然その特殊公安部隊入隊者選抜試験に不合格になったからだ。


『次は実技かー!』

『楽しみだなぁ〜。どんな奴らがいんだろ。』

机にすわったまま、ボーっとする新太の耳には実技に胸を弾ませる生徒達の声がふと耳に入ってきた。

新太は少し身体を前のめりにして口を開く。

『ねぇ、次って実技なの?何するの?』

授業はおろか講師の発する注意事項なども何も聞いていなかった新太は少し焦り、前の席の綺麗な緋色の髪をした少女に問いかける。

『そうよ。』

返事に応じるその少女の口調はどことなく冷たい。

『もうちょっと優しく答えてくれても...』

『アンタ授業中からずっとうるさいのよ!誰と話してるのか知んないけど!おかげでこっちは気になってしょうがないじゃない!』

新太に対する不満をぶつけようと振り向いた彼女は綺麗な黄色い目をしていた。

それだけでなく、顔立ちも見事に整っている。

これだけ綺麗な女性を今まで何人見たことがあるだろうか。

新太は次々出てくる予想外の事実にただただ絶句するしかなかった。

『あの、そのえっと...』

『ゴメン』

『フン、まあ別に次から気をつけるならいいけど』


『おーい実技遅れるぞー』

『悪りぃ、悪りぃ、今行く』

実技の授業のあるグラウンドへと向かおうとする少年はその後彼らの身の回りに起こるであろう悲劇いや惨劇など知る由もなかった。

『あっ、悪りぃ』

グラウンドへと急ぐ少年は急ぐあまり緋色の髪の少女の席に身を乗り出す新太と少しぶつかる。


『え、ちょ、まっ、あっ』

咄嗟に言葉にならないような言葉が彼の口からいくつか出たがそんなものは無意味だ。

現実は時に残酷だ。

いや、この場合は幸福といった方が良いかもしれない。

新太の手は緋色の髪の少女の大きな胸を思いっきり掴んでいた。


バシッ!


***


新太の頬には大きな紅葉が付いていた。

『ひでぇなぁ。何もぶつことないだろ。ぶつこと!』

新太はぶたれただけにブツブツトイレで小言を言っている。

『不可抗力だろ。大体、こんな格好でグラウンド行ったらみんなの笑いもんだろ。』

やはり、まだ新太はぶたれたことに関しては不満らしい。

確かに新太はたまたまグラウンドへ急ぐ少年がぶつかってきただけで、何も悪くない。

それにもかかわらず、当の戦犯は『あー、遅れて悪りぃ』などと新太が修羅場を被っている間に友達と挨拶でもしているのだから、新太の気持ちも分からなくはない。

そして、新太は頬を抑えながらそのままグラウンドへ向かっていく。


***


『遅い!』

新太を待ち受けていたのは、厳しい叱咤だった。周囲の目線が痛い。

『5分も遅刻じゃないか。一体何をしていたのだ!』

新太はただでさえ集合時刻に遅れそうになっていたにもかかわらず、少女にぶたれた頬を冷やすため、トイレに行っていたのだから遅刻して当然だ。

だがしかし、『女の子の胸を揉んだらひっぱたかれてそれを冷やしていたら遅れました』なんて言えるわけなく、『すいません。ちょっと術式の確認を...』とそれらしい理由をつけてその場を凌ごうとするのであった。


『嘘よ!』

新太の最もらしい言い訳を遮ったのは先ほどの少女だった。

『私、この人に胸を揉まれました。』

『この人はその事後処理で遅れたんです。』

とんでもないことを言い出したぞこの女・・・

周囲が一斉にざわめき出す。

クソ、大体事後処理ってなんだよ。んなことしてねぇよ。確かに、ひっぱたかれた後の処理はしたけど。

あいつもどういう心境であんなこと大勢の前で言ってんだよ。

『静かに!』

新太の思考と周囲のざわめきを遮ったのはこのクラスの実技担当講師篠森加代の言葉だった。

彼女は見るからにキャリアウーマンという感じで指輪もしていない20代後半の女性だ。

『ここは予備校だ。胸が云々というのはどうでもいい。能力者なら強くあれ!』

『この件、お前たちの拳で解決してみろ。』

この人絶対独身だ。

そんな呟きが声に出てたのか、加代の拳が新太の頭に思いっきり飛んでくる。

『いいでしょう。そんなバカそうなヤツに負ける気なんて毛頭ありませんし。』

痛がっている新太をよそ目に緋色の髪の少女は加代の言葉にOKする。


『よし、じゃあ2人とも白線の位置まで移動して』

『俺はまだOKだなんて』

『あなたに拒否権なんてあると思うの?さっさと私に負けて土下座でもなんでもしなさい』

いつから、負けたら土下座なんてシステムができたんだなどと思いながら、新太は少女とともに位置につく。

新太にしてみれば入隊者選抜試験以来の実戦でかなり不安はあったが、それを自らの心の奥底に沈み込め、やる気に満ちた表情を浮かべる。

周囲からの視線は説教をされていたときの冷たいものとは打って変わって、トップバッターへと向けられる独特の期待の眼差しであった。

それは新太と少女が緊張感を増大させる1番の要因でもあった。

普遍能力の術式をあれこれと宙で唱えて、ある程度遅れをとらないように身構える新太に対して、少女は少し余裕があった。

『フン、少しヤバそうね』

『うーん、確かに実戦は久しぶりだからなぁ』

『花前と言えど、四大一族最強の火原の前では恐るるに足らずよ!』

彼女が自信満々に発したその一言は文字通り彼女が火原の一族であることを表していた。

周囲の生徒たちはその事実を知り、ますますヒートアップする。

それだけではない、新太が百木の正室の一族である花前の一族の末裔であることも同時に知れ渡ったのだ。

『うわ、すげぇよ!花前VS火原だぜ!』

『どっちが勝つと思う?』

『やっぱ、火原じゃね?だって、上級部隊のトップにいる火原一族の長メチャクチャ強ぇじゃん!』

などと周囲の生徒の会話が飛び交う。

『まあ、確かに花前は歴史はあるが今じゃあ四大一族ほど生まれ持ってくる能力は高くねぇ』

『それに、俺はもともと能力者じゃねぇしな』

『でも、負ける気もねぇよ』

新太が今までの挑発を一気に返すように反論をする。その表情は胸を揉んだときの表情とはまるで別人だ。そう、きっと別人だと思いたい。

『よーし、その辺でいいかぁ〜?そろそろ始めるぞ〜?』

加代が早く始めろと言わんばかりに、2人に開始が間もないことを告げる。

『それでは、いざ尋常に、始め!』

加代のその言葉で2人の因縁のある勝負の火蓋は切って落とされた。


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