プロローグ
西暦2222年ー世は能力者と呼ばれる特殊な能力を持った者たちと非能力者という普通の人たちが共存する世界。
西暦2108年大阪府 梅田にて初めて能力者の男性が観測される。彼の姓は百木といった。
日本の警察は彼の身柄の拘束を試みたが、その能力者の圧倒的な戦闘能力の前に為す術なし。その後彼は自らの強力な能力により日本の侵略を謀る。
だがしかし、その途中一人の女性と出会う。その女性の影響により自らの邪な考えを改め、能力者と非能力者が共存できる世界を目指すようになる。彼女の姓は花前といった。
そして二人は結婚し能力者の数は徐々に増えて行き、能力者と非能力者はそれぞれ独立して政治を行うようにまでなった。
能力者の出現から比較的早い段階で存在していた百木を除く能力者としての血が濃い4つの一族を四大一族といい火原・水見・雷電・風隼の四つの一族を指し、これに百木を加えた一族が当時の政治の中心であった。
ではここで浮かび上がる当然の疑問ー『能力者とは何か?』
定義は至って単純『固有能力と普遍能力を持つ者』
固有能力とはその人いや、その能力者にのみ特有の能力でその詳細は多岐にわたる。
普遍能力とは自然・火・水・雷・風・空・霧・氷・光・闇の十の属性からなり、このうち自分と相性の良い属性の術を覚えることができる能力を言う。
前者5属性の扱いは基本的だが、後者の扱いは高度で前5つのようにはいかない。
『そんなこと誰だって知ってるよ。』
まるで教科書をそのまま朗読したかのような講師のつまらない授業に耳だけ貸しながら花前新太は心の中で呟いた。
窓際の席に座っている新太は退屈そうな瞳を太陽に照らし出された窓へと向ける。
『まあ、でも仕方ねぇよな。能力者の治安を守りかつ能力者政治の中心でもある"特殊公安部隊" そして、その中でも優秀な人間が所属する上級部隊。俺はそこに入りたいって訳なんだからなぁ〜』
そんな普通とも思える願望をあえて考えるのには訳があった。
新太は相変わらず窓を見たままだ。
『でも、仕方ねぇよな』
もう1度同じ言葉を脳内で繰り返しながら、新太の思考は最終局面へと入る。
『その上級部隊の試験に俺は今年落ちちまったんだから。』
新太は自分だけにしか聞こえない程度の小さい声で呟いた。
教室にはシャーペンの音がカリカリと聞こえてくる。
新太の瞳は大空の中でゆらりゆらりと揺れいてる。
彼の瞳の先に映るものとは一体・・・
産まれながらにして能力者である者もいれば、非能力者として産まれ生きていくうちに能力者へと変化する人間もいる。
新太は再び講師の言葉に耳だけ傾けていた。
ただ、非能力者が能力者へと変化する場合必ず共通していることがある。
それはー
『非能力者が能力者へと変化する直前に非常に耐えがたい精神的苦痛を味わっているということ。』
新太は講師の言葉に合わせるように、またも自分だけが聞こえるようにそっと呟いた。
相変わらず視線は窓の先だ。
『忘れたくても忘れられねぇよ。』
何度も教科書で見たそのフレーズを新太が忘れられないのは理由があった。
俺は元々、非能力者だ。普通に学校に行って、大学に進学し叶えたい夢があった。
なのに・・・
俺は14歳の誕生日に能力者になった
もう彼の耳には講師の言葉など入ってはない。
能力者になったことは覚えてるのに
今まで非能力者だったときの、記憶は簡単に思い出せるのに
教科書の言葉だって簡単に覚えられるのに
なのに
なのに
なのに
能力者になったときのことは何一つと言っていいほど覚えていないんだ。
覚えているのは、
"女の子が中年の男と淫らな行いをしているところを俺が偶然見てしまったということ。"
"女の子が俺の正面で斬られて血を流している景色"
そして
"俺はその女のことが好きだったってこと"
『思い出せねぇよなぁ。やっぱり。』
新太が周囲に僅かに聞こえる程度の大きさで呟いたその声はチャイムの音にかき消された。
ーまるでそのときの記憶のようにー