小さな指輪が呼んだ悲劇
「はいこれ、誕生日プレゼント。」
そう言われて、渡されたのは小さな小さな指輪だった。
「これどうしたの?」私は聞く。
「買った。」彼は笑顔を作っていう。
「高くなかった?」私は値段を気にする。
「そんなにしなかったよ。」彼は嘘をつく。
高かったにきまっている。収入があまりない彼がこんな指輪を買うはずがない。
「嘘付いてるでしょ。」彼の瞳が揺れ動く。これが彼の嘘をつくときの癖。
「なんで?」
「女の感って言う感じ?」
「そう。それさー30万円したんだよね。」
彼がすんなり言う。
「どうして・・・」そんなプレゼントを私にしたのだろう。
彼は私の動揺に比べて明るすぎる笑顔で言った。
「結婚しよう。」
「うそ・・・・」私は戸惑う。いきなり結婚しようなんて。
まだ付き合い始めて一年もたっていないのに。私みたいな女で良いの?
「だから結婚しよう!!それが結婚指輪なんだよ。」
彼は、一生懸命になって言う。
今、私の指にはめられている指輪が結婚指輪だなんて。
こんなに必死になっている彼をみるのは、久しぶりだった。
付き合ってくださいと言われた時以来だった。
そんな彼をみるとついつい嬉しくなってしまう。
前から良いなと思っていたし・・・それもいいかな。
「はい・・・」今自分の顔を鏡で見ると真っ赤になっているんだろうな・・・
そう思いながら必死の思いで返事をする。
このころは、幸せだったんだ。
まだ本当の彼を知らないこのころは・・・
彼の周りで変な事が起こりだしたのは入籍して1ヶ月くらい後のことだった。
まだ、どこに住んでどうやって生活するかとかそんな具体的な事は話し合っていなかった。
だけど、幸せだった。
彼と私は私が住んでいたアパートに住み始めた。
そんなある日、私が夜遅く仕事から帰ってくると、
いつもソファーに座って待っているはずの彼がいなかった。
どこに行ったのだろうと、ご飯を口に運びながら静かな室内に耳をすます。
【ガチャッ】
彼を待っていると玄関が開く音がする。
「お帰りーー」と私は玄関の方へと走っていく。
しかし、そこには誰もいなくてドアだけが開いていた。
ドアから顔を出して辺りを見回すが誰もいない。
静かにドアを閉める。
彼はどこに行ったのだろう・・・
私は、不安に思って洗っていた食器を片付けに行く。
すると、今さっきまで誰もいなかったはずのソファーで彼が寝ていた。
何時戻ってきたのだろう。私は、不思議に思いながらも食器を片付ける。
それからというもの、私と彼の周りでは不思議なことが起こり続けていた。
彼の衣装ケースから、洋服がどんどんなくなっていった。
捨てたはずがないのに減っていく。
彼にそのことを聞いたが、返答はない・・
他にも、水道が流しっぱなしだったり。
テレビが付けっぱなしだったり。
なんだか色々あった。
私と彼の間にも大きな溝があいてしまったようだった。
そんなある日・・・
またまた、残業で夜遅くなって会社から帰っていたときだった。
ちょうど、コンビニとビルの間にある薄暗い公園の横を通り過ぎているときだ。
どこからか、チェーンソーの音がした。
音のする方は、薄暗い公園の方だ。
そこをのぞいてみると、チェーンソーらしき物を持った男の人が立っていた。
その男の前には、手首と足首を縛られそして口にテープを巻かれた女性が座らされていた。
何をする気なのだろう。私は、静かに見入る。
男の手に持たれたチェーンソーは、音を立てて回転をしていた。
男は、それを軽々しく女性の体にのめり込ませた。
男の表情は解らなかったけれど、私にとってその光景は地獄そのものだった。
辺りに舞い上がる血液がまるで噴水のように見える。
肉片も散らばり近くにいたカラスがつついていた。
どんな映画のワンカットよりも残酷なこの風景、それを目にしてしまった私はすぐにここから立ち去りたかった。
早く立ち去らないと、なんだか良くないことが起こりそうだった。
怖かった。チェーンソーを持った男が怖かった。
動揺して私は、今立っている所が砂利道だと忘れ、音を立ててしまった。
もうだめだ。こんな事・・・・
早足になって立ち去ろうとする私の目の前にチェーンソー男は立ちはだかる。
片手に持ったチェーンソーはまだ、何かを切りたそうに回っていた。
恐怖で足がびくともしない私は、怖かった。
しかし、チェーンソー男は指を一本立ててネックウォーマーで隠している口元にあてる。
静かにするようにと言っているかのようだ。
私は、悲鳴を上げることもできずに彼をみていた。
チェーンソー男は、私が静かにしていることをみて走り去っていった。
なぜ、私を殺さなかったのだろう・・
不安に思いながらアパートへと続く坂道を上る。
チェーンソー男は黒いネックウォーマーで口元を隠し、サングラスをかけていた。
だけど、私は気配で解ってしまった。
あのチェーンソーを握っていたのが彼だと。
嫌な予感・・・それは前触れもなくやってくる。
だけど、もし彼がチェーンソー男だったら
不安と恐ろしさ。そんなわけがないという、無理な納得。
そして私は、彼にもらった指輪を触る。
彼がそんなことをするはずがないそう決心をして玄関のドアを開ける。
「ただいま!!」今、夜中の2時を少し回ったところだ。
とても静かなアパートがそこには、あった。
しかし、私にはまた別の音が聞こえてきた。チェーンソーの音。
私は、恐怖に支配された頭を振る。
“そんなはずがない。”自己満足の結果を出す。
「おかえりーゆめ・・・」
暖かい、彼の笑顔が待っていると思っていた。
しかし、彼の方を向くと手には洗ったばっかりのチェーンソーが握られていた。
「ねえ・・・そのチェーンソーは何?」
私の声は怖さで震えている。指には、小さな小さな指輪をはめて拳を作る。
彼は、笑顔でこういった。
「これ、そうだなー人を殺すためのチェーンソー。商売道具って感じかな?」
彼は、そう言って高々と上げたチェーンソーの回転する刃を私に振り下ろす。
私は、どこかで見たことのあるような赤い、噴水を目にしていた。
そう、今日の公園で見たあの女性が切られる光景と全く同じだった・・・・
翌日、携帯電話で呼び出しを受けた。
場所は、俺が住んでいたアパートだった。
現場に着くと血まみれになった彼女がいた。指がどこにあるのか解らなかったがちゃんと指輪がはめられていた。
「警部、ご愁傷様です。」そう言われて俺は、一礼する。
彼女は、良い女性だった。俺の秘密に気付くまでわ。
気付かなければもっと良い毎日が生まれていたのに・・・
そう思いながら灰色のシートを最近頻発している事件の第10人目の被害者に掛けた・・・・・
最後まで呼んでいただきありがとうございました。
今回ホラーの短編を初めて書きました。
まだまだ、文章がうまく書けないので何かアドバイスをくださると幸いです。