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3話


 さて、あれから宣言どうりネットカフェに来たのはいいが……、

「なあ、ちょっと近くないか?」

 よく考えてほしいネットカフェの個室の広さを、いくらネットカフェが寝泊りができるところではあるがそもそも一人でまあ寝ころべるくらいなのであって座っていたとしても二人だとそれなりに狭い。

いやむしろ狭いというより密着感すらある。

元々僕のパーソナルスペースはそれほど狭くない、しかし彼女に密着されるというのは不快ではない、不快ではないのだが男子高校生特有の思春期的気恥ずかしさというものが一応僕にもあるわけで。

というかなぜそんなに僕に引っ付くのだろうか、狭いといっても肩が触れるほど引っ付かなければいけないほど狭くはない。

 何なんだ彼女は?

 僕に気があるのか!?

 僕のことが好きなのか!?

 くそっ?押し倒しちゃっていいのか!?

 ふぅ……、少し取り乱してしまったようだ。

僕はもう少し紳士的でクールな奴なはずだ、クラスでもばか騒ぎしてるやつらをちょっと遠巻きに冷めた目つきで見つめてるくらいにのキャラなはずだ、落ち着け、落ち着くんだ…。

それに彼女が僕に寄せてる好意は好意といっても食べ物の好き嫌い程度の好意だろう、僕もプリンは好きだ密着してキスしてもいいというくらいには愛しているしな。

 さて、意味不明なことを考えてたおかげかプチパニックから回復できた。

「なあ、今更何だがあんた名前はなんていうんだ?」

 割と大事なことを聞き忘れていたのでほんと今更である。

「私のことはセラって呼んでくれ、苗字なんてないからね。」

 パソコンから目を離しこちらを見てカラカラと快活に笑うセラはやっぱり見た目は普通に美少女である。

「そういえばセラは普段「まあ、待ちなよ。」

「私は自己紹介したんだからあんたもするのが常識ってやつじゃないかな?」

 まったく仕方ない奴だといわんばかりにセラは肩をすくめている。

 初対面で人を食おうとする化け物に常識を問われていることに若干イラッとしながらも自己紹介をする。

「僕の名前は轟大牙だ、よろしくなセラ。」

「ふーん……」

 おもむろにセラが僕をじっとみつめてくる、どうかしたのか問いかけようとするとセラが口を開いた。

「轟大牙って、名前負けしてるな!」

「うるさい!僕も自覚してるからわざわざ口に出すな!そりゃあ僕みたいな工場で大量生産されてそうな普通の人間がそんな猛々しい名前なのは確かに名前負けだ。親戚にも会うたびに同じことを言われる、だがそれがどうした!名前なんて親が勝手につけたものだし僕がとやかく言われる筋合いはないはずだ。

 それにだ、僕自身パッとしなくて名前負けこそしているが極端に醜いわけでもないはずだ、可もなく不可もなくといった程度の普通に生きていれば結婚はできるような顔なはずだ。なら何も問題はないじゃないか、ていうかそもそも僕の両親は大牙って名前にどんな願いをこめたんだ?僕にどうなって欲しいんだ!牙って名前の通りに噛み付いてやろうか?」

「……」

 一気にまくし立てたからいい感じにセラが引いてるな。まあ思わず熱くなってしまったが自己紹介するたびにみんな口に出さずにとももうそんな顔しているのだ、偶には思い切り不平を言ってみたくもなる。ていうか噛み付くどころかむしろ僕がさっきセラにかまれている、いや、あれは噛むというより齧るといった方が正しいのだが。

「なんかごめんね。」

「いやこっちこそ悪かったちょっと興奮しすぎた。」

 少し気まずい雰囲気になったがまあ初対面の他人なんだからこんなこともあるだろう。

「そういえばセラはなんで公園なんかにいたんだ?」

 空気を変えるためにも話題をかえてみる。

「いや、特に理由がないよ。いつも割といろんなとこフラフラしてるのさ、気の向くままにね。」

「じゃあ普段は何してるんだ?」

「天気のいい日は木陰で昼寝したり、町で人を観察したりしてるよ。」

 この生態だけを聞くと猫と変わらないようにおもえるな、まあ猫とちがってとっておきの悪食なのだが…。

 ニコニコと何故か楽しそうに質問に答えていくセラに僕は一番重要な質問をする。

「じゃあセラは基本的に何を食べてるんだ?」

「さっきも言ったけど一応普通の食べ物でもエネルギーにはなるのさ、ただ効率が違うってだけでね。」

「エネルギー効率ね……、結構変わるものなのか?」

「そうだね火力発電と原子力発電くらいちがいがあるんじゃないかな?詳しいことはわかんないけどさ。」

 楽しそうに笑うセラだが、しかしそれは結構な違いではないのか?僕は発電所なんかに欠片も興味がなかったから同じく詳しいことは分からないが。

「だけどね困ったことにエネルギーと食べる量は別なんだよね。」

 セラはすこし残念そうに肩を落とす。

「どういうことだ?」

「まあ要はあんたらだって生きていくのに必要な栄養を錠剤で飲んだって空腹だろう?それと同じように人間すこし食ったからってエネルギーは満タンだけどお腹一杯にはならないのさ。逆の場合でも同じさ、お腹一杯食べてもエネルギーが足りないってこともあるし。」

「つまり好き嫌いせずにバランスよく食べましょうってことか?」

「うーん、まああながち間違いじゃないんだけど、私は可能な限り無理してでも普通に食事をするようにしてるけどね。だから食べたりしないって。ね?」

「といわれてもさっき食われたところなんだから説得力は皆無だけどな。」 

 笑顔でみつめてくる彼女に少し照れくさくなって思わず皮肉を飛ばしてしまう。

「う、ほんとにすまないと思ってるんだ。ほんとに力が足りなくて倒れそうだったんだ、もう二度としないからお願いだから怖がらないで……。」

 俯いたセラが泣きそうな声で必死に謝罪する。

 いきなりしおらしくなったセラに僕は動揺を隠せない。

「いや、大丈夫だ。もうしないんだろ?ならいいさ、ほら顔上げろって。な?」

 僕は必死に言葉を投げかける。というか見た目は美少女なのでそんな泣きそうにされると罪悪感で押し潰されそうになる。

「むしろ一回治してもらって肩こりがなくなって調子がいいくらいだ、ほら。」

 僕は肩を回しながら彼女を必死に慰める。実際肩こりがなくなっているのは事実ではあるし。

「ほんとか?」

 漸く僕の怒っているわけでは無いと分かってくれたのか、セラが顔を上げてこちらを見る。

 上目使いにこちらを見つめてくるセラの目は少し潤んでいる。

「やべえ、マジかわいい」

思わず呟いてしまったが幸いにもセラには聞こえていなかったようだ。

「ほんとに許してくれるのか?怒ってないのか?」

 心配そうにこちらを見つめながら問いかけてくる。

「いや、ほんとに大丈夫だから。正直びっくりする位自分でもセラを怖くは思ってないし、本当に怖いならとっとと逃げてるさ。」

 これは本当に僕の本心である。何故かはわからないが食われたというのにセラを怖いとは思えない。

「うぅ……、よかったぁ!!」

 ゛ガバッ゛

いきなりセラが抱き着いてきた。

「ほんとよかったよー、久しぶりに会話できる人とあえて嬉しくてさっきから気が気じゃなかったんだよ…」

 うう…と泣きながら抱き着いている。

「ずっとひとりでざみしぐでぇ……。」

 今までの様子が嘘みたいに子供のようであるが本人は一切気にせずに抱き着いて泣いたままである。

 そして泣き続ける彼女に対して僕は…………

「」

 セラに抱き着かれたことで頭が完全にパンクしていた。

 (やばいやばい何だこれどういう状況なんだ、いやほんともう訳わかんないぞ。

 いやここは男として泣く女の子を抱きしめ返してあげるべきなのかもしれないけど、そんなことさえできずに身体が全く動かない。

 顔が熱くて心臓の音がやけにうるさくてセラの泣く声もほとんど聞こえない、しかしさっきから僕の胸板にあたるやわっこい感触だけははっきりとわかってしまう。

 様々な思考が僕の頭の中をグルグルしている間に少しセラも落ち着いたのか僕から離れてしまう。

「ごめんね、いきなり泣いちゃったりして…。」

 泣いてしまったことに彼女も少し羞恥を感じたのか頬を少し赤く染めている。

「アア、ダイジョウブダボクハマッタクキニシテイナイ……。」

 辛うじて片言で返事を返すことに成功し思考の再起動を開始を試みる。

「でも久しぶりに誰かとまともに触れあったよ…。やっぱりあったかいなぁ。」

 しかしセラがそういいながら今度はおずおずと、しかし確りと体温を確かめるように僕の手を握ってきた。

 再起動は失敗しましたと言わんばかりに再び僕の思考が停止する。

 しかし今度はすぐに持ち直し彼女の手をそっと握り返し言う。

「こんな僕でよければいつでも触れ合ってあげるよ。」

「……」

 再びセラは俯いて肩を震わせている。

 また泣かせてしまったかと思い声をかけようとすると

「……、クッ…アハハハハハ!すっごいキメ顔だったね、アハハハハ。」

 まさかの爆笑された、いや僕もちょっとカッコつけたけどさ!こんなこと言ったことないけどさ!

「笑うなよ!せっかく人が気を遣って言ってやったのにさ!もう知らねえ!」

 そっぽを向く僕の顔は恥ずかしさで熟れたリンゴよりも真っ赤である。

「フフフフ、ごめんよ笑ったりしてさ。なんか安心して余計に笑っちゃったよ。」

 ふぅ、と呼吸を整えながら拗ねた僕に謝ってくる。

 そして一呼吸おき彼女が花が咲いたような笑みでいう

「でもほんとに嬉しいよ、ありがとう。」

 その彼女の今まで見た誰の、どんな笑顔よりより綺麗な笑顔に僕は思わずみとれしまう。

「あ、ああ。」

 生返事でなんとか返す僕をしり目に彼女は鼻歌でも歌いそうなほどご機嫌である。

 あの笑みを見れただけであの公園で食われてよかったとさえ思えてしまうほどであった。

 そして復活した僕が口を開こうとしたそのとき

 ゛ガラッ゛ 

 個室の扉があけられて店員が入ってくる。

 驚き固まる僕に対し淡々と店員が僕に告げる

「すいませんお客様周りのお客様から声が五月蠅いとのクレームが入っておりますのでお静かにお願いします。」

 店員の言葉にセラが普通周りの人に認識できていないことを思い出す。

「それでは失礼します。」

 店員はお辞儀をしてそのまま去っていく。

 そして、固まったままの僕の顔はおそらくさっきよりもよっぽど赤かったと思う。

 

  

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