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2話

 表があれば裏がある。

 光があれば闇がある。

 翳物とはこの世界、僕たちが今住んでいる、認識している世界の裏の住人である。

 彼女たちは最初の闇からうまれた化け物である。

 この世界ではない翳の世界で存在し続けた化け物である。



……

 混乱していた僕に彼女は、目の前の化け物は、自分の存在を丁寧にも説明してくれていた。

「で、その化け物さんがなんでこんな朝の公園にいるんだよ。」

 僕の横でベンチに腰掛ける彼女に僕は問いかけた。

「さぁ?」

 彼女は笑いながらおどけるように答えた。

「それはおしえてくれないのか……。」

「いや、実際のとこほんとにわかんないんだよー。」

「そうなのか?」

「さっきも言ったけどさ私たちが存在するのは裏の世界なんだ。コインの表に立ってるのにコインの裏側を見ることはできないだろ?それと同じで裏側の私たちが表に関わることすらできないはずなんだよ。」

 彼女も本当に不思議そうに首をかしげている。

 どうやらほんとに彼女にもわからないようだ。

「まあ、私自体は結構前からこの世界にいるんだけどね。」

 彼女は自分の毛先を弄りながら言う。顔の整った彼女が木漏れ日に照らされるその姿は一枚の絵画のような神秘的な美しさを感じる。

「じゃあさっき見えるとか見えないとか言ってたのは何なんだ?」

「ああ、コインの表と裏って話をしただろ?関わることができないって言ったのはつまり認識できないってことなんだよ。認識できなければ目の前にいてもみえないはずなんだけど…」

 毛を弄るのをやめベンチから立ち上がった彼女は僕の顔を覗き込み、すこし俯きかげんだった僕の目の前に彼女の顔が急にアップになる。体温が少し上昇し顔が赤くなるのが自分でもわかる。

「つまり表の存在の僕が裏の存在であるあんたを認識できているのがおかしいってことか…。」

 僕の顔を覗き込んでくる彼女から赤くなった顔をそむけながら呟いた。

 僕が顔を背けると彼女は僕の顔を凝視するのはやめストレッチをするように腕や足の筋肉を伸ばし始めた。

 なんか落ち着きのない奴だなと思うが彼女は人間ではないのだ。人間である僕に彼女を理解することはできないのかもしれないと、伸びをしている彼女をみながらそんなことを考えていると再び彼女は僕を見つめ口を開く

「おそらく、昔一度私の同類と接触があったんだろうね。」

 同類?出会い頭に人を食うような存在に出会った覚えはないし、ぶっちゃけ彼女といるのもあんまり精神衛生上よくはない。

 なんたって出会い頭に食われたのだから。

 捕食者と被食者の関係なのだから。

 …しかし彼女の言葉に引っかかる

「ちょっとまて、同類が他にもまだいるのか!?」

 そういえば彼女は言っていた、ひっそりとだが確かに存在していると……、つまりだ人を食う化け物が世界中に潜んでるってことじゃないのか!?

「基本的には関わることができないんじゃなかったのかよ!」

 流石に人類として見過ごせない状況じゃあないのかこれは……。

「おいおい冗談きつくないかじゃあなんだ、たまに世間を騒がせてる未解決の失踪事件とかはあんあたら翳物の仕業だったりするのか?」

 嫌な汗が僕のほほを伝う。僕が問うが彼女の表情はかわらない

「かもしれないね。全部が全部そうじゃないだろうけどまったくないわけじゃないだろうね。人間以外も食えるんだが人間が一番エネルギーをとるのには手っ取り早いからね。まあ私はあまり好き好んで食べるわけじゃないよ?あまりにも空腹だったとこにあんたが食べてもいいなんて言うからさ。」

 まあそれも勘違いだったんだけどね、と彼女は少し申し訳なさそうに笑う。  

「そもそも人間を食べるのがが手っ取り早いってだけで普通の食べ物でも空腹は満たされるんだから。」

「そうなのか?」

 なら少なくとも彼女は、そう少なくとも彼女は危険ではないのではないのだろうか。現に齧られた肩の傷はどうやったかは知らないが彼女が治してくれたようではあるし。

 まあ、だからといって彼女を信用したわけではないのだが。

「そうそう。だからさまだちょっと食べたりないからさあんたのそのパンもらってもいいかい?」

 と彼女は僕の足元に落ちているパンに指をさしながら言う。

「ああ、別にパンなら構わないよ。元々あげようと思ってたものだし。」

 僕は足元のパンを拾い上げ砂埃をはたき彼女に渡す。しかし彼女に齧られたときにおそらく握りつぶしてしまっていたのだろうか、結構つぶれてしまっている。

 彼女はそれを気にした様子もなく開封しパンに齧りつく。

 ………こうしてパンを食べる彼女の姿まぎれもなくただの美少女である。

 うん、かわいい。

「ごちそうさまっ!」

 またたくまに潰れたパンをぺろりと平らげた。口元についたソースをルビーのように赤い舌がチロりと舐めとる姿は艶やかである。

 しかし、いくら美少女とはいえ人外だ。

 僕は彼女に出会い頭に食われているのだ。それならばできるだけ彼女にかかわらない方がいいだろう。僕は普通の人なんだ。未知との遭遇なんか望んじゃいない。あんなものは漫画やアニメの中だけで楽しむべきものなんだ。

 それに彼女たちのような存在を知っても一般人である僕には何もできない。

 それならば僕は、彼女と別れもう二度と化け物に遭遇しないように祈りながら生きていくしかないのである。彼女の見た目は人と変わらないので、こんな美少女と早々に別れなければならないのは少し惜しい気もするけど…。

「じゃあ、僕はもう行くよ。こんな時間に制服でウロウロしててもいいことないしね。」

 そういい僕は鞄を持って公園の入り口にむかって歩き出す。

 今日の出来事は忘れてしまった方がいいのかもしれない。いや、そうにちがいない。

 さて、それならいまからどこで学校サボるかだよなぁ…。

 あんまり行ったことはないがネットカフェにでも行ってみようか。確か駅からは少し離れてるが時間は十分にあるんだ、いってみようか。

 僕は考えがまとまり公園の出口から目的地に向かって歩き始めた。

「…………」

 さっきからなぜか僕の視界の端に赤みがかった茶の髪が映り込んでいるが気にせず歩く。

「ねえ、今からどこいくんだい?

 風鈴のように透き通るような美しい声が僕の鼓膜を揺らす。僕は無言で歩くスピードを少し上げる。

「おいおい、無視かい?」

 横からエメラルドのような輝きを持つ緑の瞳が僕の顔を覗き込んでくるが、気のせいに違いないので歩き続ける。

 たった今あったばかりの他人の僕を彼女が追いかけて来るはずがないのだから。

 僕の顔がひきつっているような気もしたがおそらく気のせいだろう。

「おーい!」

「なんで僕についてきてるんだ!」

 僕の行く手に立ちふさがるように立つ彼女に耐え切れず思わず叫んでしまう。

「退屈なんだよ。」

 溌剌とした笑顔で僕の叫びにこたえる。

 しかし、そんなの僕の知ったことではない。

「いやそんなの僕に言われてもどうしようもないんだけど。」

 辟易しながら答える僕に彼女は笑顔で

「あんたも暇そうなんだし私の相手しておくれよ。」

 「はぁ!?」

 冗談じゃない。僕は今さっき、もう彼女たちのような存在とはかかわらないと決意したところだ。

「他をあたってくれないか?僕は退屈であっても暇ではないんだ。」

 そう僕は今から最寄りのネットカフェにいって昼寝をするという目的があるんだ。今はまだ午前中なので昼寝というよりは二度寝に近いが…。

「いや、他に私が見える人間にあったことないんだけど…。」

「というより、何も人間じゃなくてもあんたらのお仲間で暇でもつぶしてればいいんじゃないの?」

 彼女の暇をつぶすというだけなら何も人間に限定しなくてもいいはずだ。

「いやー、さっき世界中にいるとか言ったけどたぶんそんなにいるわけじゃないんだよね…。どっかにいるってのは感覚的に分かるんだけど細かい場所まではわかんないし正直こっちで私も同類にあったことほぼないんだよね。そもそも私たちって仲間意識とかあんまりないしね。」

 苦笑交じりに彼女は説明する。

「だからさ、せっかくおしゃべりできる人間がいたもんだからさ…。」

 彼女は少し寂しげな表情で話すそんな彼女がまるで人間とかわらないように思えて僕はやけくそ気味に叫んだ。

「………あー、もう!分かったよ!相手すればいいんだろう!」

 いくら人外とはいえ寂しそうな女の子を無視できるほど僕は鬼畜野郎じゃない。

「ただ、一つだけ約束してくれ。」

 そう、一緒にいるにあたってこれだけは言っておかなければならない。

「僕を食べないでくれ!」

 そんな約束をしないと関われない相手といる事自体がおかしいのかもしれないがなぜだか無性に彼女を放っておけなかった。こんな口約束意味すらないのかもしれないのだが。

 すると彼女は間髪いれずにこう答えた

「もちろんさ!」

 そう言った彼女は花が咲くような笑顔だった。

 それにさっき未知との遭遇を否定した僕だが心のどこかで日常というものに退屈を感じていたのかもしれない。

 

 たったいま、僕の日常が非日常にかわった瞬間だった



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