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魔術師の婚約者  作者: 鬼頭鬼灯
終章
39/41

大魔術師の後ろ盾

 青晶は嘆息する。

「受かるのかしら……あんなことして。」

「とりあえず僕はあの中央に座っていた教師は嫌いだ。」

 清宗は子供のように口を尖らせて陣から出た。面接会場の案内をしている男の人と女の人がこちらを振り返る。二人とも笑顔を浮かべた。

「お疲れ様です。またお会いできることを祈っております。」

「合否通知は三日後。ご本人様に鳥を送ります。」

 青晶と清宗は頭を下げる。やっと終わったと思うと、肩の力が抜けた。清宗が先に立ち、振り返る。

「多分尋は君がどういう状況にいるのかいつだってわかるように、その印をつけたのだと思う。」

「印……。」

 青晶は外に出ながら首筋を触る。尋が面接の場で自分の首筋に自分のものという印をつけたと言っていた。

「清宗は気づいていたの?私、全然気づいていなかったのだけれど。」

「いいや。だが今は見える。色を変えた時に何かされなかった?」

 青晶は手を叩く。空に連れて行かれておもむろに青晶の衿をめくったことがあった。

 清宗が頷く。

「それだろう。だから今日だって絶対気づいていたはずだ。僕が怪我をする前に現れたらよかったのに、もったいをつけるから僕は痛い目にあった。」

「ごめんね。いつも痛い目にあわせちゃって。」

 清宗は青晶と関わってから経験しないでもいい目によくあっていた。高等魔術を無理やり使わされたり、失血して意識を失ったり。

「そのぶん、良い思いもするからいい。」

 どんな良い思いをするのか、青晶が首を傾げる。清宗は笑いながら大きく伸びをした。

「僕はおかげでここに入学できると確信している。」

「うそ!だって、こんな滅茶苦茶な……。」

 青晶は口ごもる。迷惑をかけたのは自分だ。しかしどう考えても面倒事を起こしそうな二人だから落とされると思う。

 門の前に導諭が立っていた。手を振っている。

 清宗は手を振り返した。ゆっくりと背後を振り返る。視線は遥か高みを見上げている。見上げた建物は初めて見た時と同じく鈍色の壁に光を反射していた。荘厳な建物は重々しく青晶たちを見下ろしている。

 清宗は妙に確信的に呟いた。

「絶対に合格だ。大魔術師が後ろ盾だ。この学校が逃すはずがない。」

「……どういう意味?」

 大魔術師という言葉で、無意識にどんな印がつけられているのか分からない首筋を押さえる。

「この学校は国家機関だ。国は大魔術師たちと契約を結びたがっている。魔術師同士の相互不可侵と似たような形で国を脅かさないと契約したい。だからこれはいい餌だ。大魔術師が自らこの学校の守護をしてやると言い出したのだから。国は絶対に尋をもとに大魔術師たちと連絡を取りたいはず。こんな機会を逃すはずがない。」

 青晶は口元を押さえる。

「……なんだか、悪いことをしているみたい。」

「どうして。」

 尋を連れてきて私たちは大魔術師と身内だから入れろといっているようなものだ。

 清宗は鼻を鳴らした。

「それくらい何だ。僕は肩を撃ち抜かれた。代償にしたら安いものだ。それに、面接試験なんていうのは本人の人格を見ているだけで、学力面は既に合格している。全く問題はない。」

「そうかな……。」

 清宗がそういうと、そんな気がしてくる。けれど今日の事態を考えると溜息が漏れた。

 結局誰もが青晶と尋が婚約していると思っている。突然契約をしているから婚約者だと教えられたばかりで、まったく自覚はないというのに。

 それ以前に婚約は生みの親の契約で、導諭は関係していない。この話を聞いたらどうするのだろう。

 青晶は導諭を見る。まだ声は届かない距離だ。

「あのね……その話、先生は知らないの。」

「何を?」

 不安で心臓が締め付けられる。

「その……尋と……私が、婚約……をしている……みたいな話。」

「……知っているようなものだと思うけど。」

 青晶は目を見開いた。

「どういうこと?」

 清宗は言いよどむ。栗色の頭を掻いてそっぽを向いた。

「清しゅ……。」

 清宗は慌てて青晶の口を塞いだ。青晶は瞬きを繰り返す。

「いいか?これからもう名前は呼んではいけない。僕のことはアカツキと呼んでほしい。」

「アカツキ?」

 青晶はぷは、と手から逃れて聞き返した。セイでは気に入らなかったようだ。キヨよりもずっとましだったのに。思い出すとまた笑えてしまう。だがアカツキという名前の由来が分からない。

 清宗は人の悪い笑みを浮かべる。

「大魔術師のいにしえの通り名だ。ハクが付くよな!俺もいつかあいつと肩を並べるくらい最強になって見せるっていう願掛けもこめて、暁と名乗る。」

 ──それに絶対これからもあいつの婚約者のとばっちりを受けるんだからこれくらいもらってもいいはずだ。と眉間に皺を寄せて呟いた。

 理由の意味があまりわからないながら、青晶は頷く。明け方の空の色。怒った清宗に似合う色だ思った。


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