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魔術師の婚約者  作者: 鬼頭鬼灯
6章
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絶望

「……青い。」

「瞳も髪も青。」

「こんな子ははじめて見ます。」

 それぞれが驚愕しながら感想を述べている。全て青晶にはどうでも良いことだ。

 最初に青晶に質問した教師が中央の男を見る。机に肘をつき両手を絡めた。

「しかし、彼女は珍しく優秀だ。法を正しく理解している。そして呪術も通常知らなくて当然のものまで知っている。豊かな知識と彼女の優秀性をかんがみては……。」

 驚きを隠せなかった男は、しかしと首を振る。

「しかし……これは前代未聞ですよ。彼女が優秀なことは認めましょう。ですがこの容姿では……。」

 女が口を開いた。

「彼女は実に美しい。だからこそ、問題だと私も思います。青い髪には性質の悪い魔術師が寄ってくる。」

「それに、彼女は嘘を突き通そうとした。」

 中央の右にいる男が手を震わしながら青晶を指差す。怒った顔をしていた。それを鼻で笑う声がする。

「何をいうか。彼女は一言も嘘を言っておらぬ。すべての質問に答えているように返答しながら、真実答えを述べたのは紫幻華石の特質を説明したところだけだ。言葉には気をつけていただきたい。」

「むう……。」

「確かに、緊張状態であのように話の根本をそらすという冷静な思考力には私も驚きましたよ。」

「わずか十五でいながら理論的だ。だが、あの色は本学に禍をもたらしかねぬ。」

「魔術師にそそのかされ、学生たちが罪を犯す可能性も……。」

「さよう……。」

 ざわめきも極限に達した時、中央の男が木槌で机を叩いた。

「静粛に!」

 青晶は清宗を振り返る。清宗は影のなかに入ったままだ。闇の動きは止まっていた。

 男は腕を組んだ。青晶を見据え重そうに口を開く。

「……君が非常に優秀な人材であることは認めよう。しかし、君のその髪と目は問題だ。青い色は貴族ならば問題はないが、君のような一般的な人間には危険だ。そして君をうちへ入れることになると、火の粉がこちらへ向かう。性質の悪い魔術師がその色を盗もうと徘徊し、それに触発されて学内でも事件が起こるかもしれない。われわれは君一人を特別に保護することもできない。そういう危険を冒すわけには行かないのだよ。」

「……君を守るような人物が、国の中枢にいれば……あるいは。」

 法の教官が諦めきれない様子で口を挟む。

「王族や貴族に知り合いがいれば……。我々は保障を求める。」

「そうね。貴族の妻になれば身の安全は保障されるでしょう。」

 女も付け足した。

 青晶は俯き息を吐く。法の教官に師事し、学びたいと僅かに期待したが。

「おっしゃる意味はよくわかります。身の危険性は私自身が最もわかっているのです。ですから、私は紫幻華石で姿を隠して生活しております。生憎、貴族などの身分ではございませんし、身の安全のために結婚をしたいとも思っておりません。私の父が神学教師であること以外、特別なものはもっておりません。」

「それだけでは……。」

 法の教師が首を振る。やはり駄目だ。癖のある教師もいたが、それでも術師学校で学びたかった。どこまでもこの髪と目が邪魔をする。青晶は俯いた。もう顔を上げたくはなかった。

「……では、残念だが。」

 中央の男が木槌を打つ。青晶は清宗を見ようとして視線を逸らし、清宗がいた場所が真っ白になって眉を上げた。

「──。」

「何者だ!」

「ここは部外者の立ち入りを禁止していますよ!」

 すい()の声が溢れかえる。青晶はぽかんとその白い布を見上げた。独特の香りが思いがけず青晶の胸を熱くする。白い布には紫の刺繍が施されていた。近くで見ると刺繍は龍だ。神官の黒衣には銀の龍が、対し彼の白衣には紫の龍。その容姿は端麗で妖艶。

 青晶は呆気にとられながらその男を呼んだ。

「……尋。」

 尋は相変わらず何を考えているのか計り知れない。怪しい笑顔を青晶に向ける。

「やあ。そんな顔をしちゃ駄目だよ。」

 指先で青晶の頬を撫でる。

 ──私、どんな顔をしているのかしら。

 尋に触られると泣きたい気分になった。だが今はそんな場面ではない。唇を引き結ぶ。

 尋は騒ぎ立てている面接官に対し両手を広げた。青晶はその足元にぼんやりと座っている。

 尋は黙っていたが、面接官たちは尋の声が聞こえたように静まり返った。

「お久しぶりです、先生方。私を覚えていらっしゃるでしょうか?」

「六年で卒業していった子だね。」

 老人の顔をした教師が微笑む。ぱらぱらと思い出したのか、さざめきが起こった。尋は自分の胸に優雅に手をあてる。

「そうです。今は大魔術師の末席を埋めております。」

 全体が静まり返る。受験生の中に後ずさりする子がいた。

 青晶は思い出す。大魔術師は国に十人。驚異的な魔術力故に国に恐れられ、国はなんとか彼らと契約を結ぼうとしていると──。その一人が尋。尋を見上げる。十大魔術師が揃えば世界が滅びるとさえ言われた。その大魔術師だと言い切れる男。尋ならばなりかねないと、胸の中で呟いた。

「そこでご提案です。この私が、彼女の後ろ盾になりましょう。いかがですか?彼女がいる限り、何者にもこの学校を脅かさせないことをお約束します。」

「……それはいい。十分じゃないか。」

 法の教師が手を売った。だが、中央の男は言いよどむ。

「しかし……なぜ大魔術師ともあろう君が、その子の後ろ盾になると言うのだね?気まぐれに途中で彼女を投げ出すかもしれない。」

 尋は眉を上げた。

「これは心外だ。では、契約でも交わしますか?対価はもちろん頂きますが。」

 男は慌てて首を振る。

「君に支払えるような額は用意できない!納得できる理由を教えて欲しいのだよ!」

 青晶は悪い予感がした。尋は肩を竦める。

「信用されていないようだね。」

 青晶の耳元に顔を近づけ、含み笑う。

「ちょっ……待って、や!」

 尋はおもむろに青晶の腕をつかみ、目の前に立たせる。尋はにっこりとほほんだ。

「彼女は私の婚約者だ。これ以上の理由があるでしょうか?証拠ならここに。」

「え?」

 青晶は眉を上げる。尋は勝手に青晶の襟首をめくると、左側の首筋を露にした。

「やめっ。……なに?」

 青晶には死角の位置で何も見えなかったが、面接官たちは一様に瞠目した。首筋には親指ほどの小さな陣が描かれていた。

「所有印かね……。」

 法の教師が僅かに眉根を寄せた。だが尋は得意げに説明する。

「これは術師にだけ分かる所有の印だ。誰もこの者に触れるなという独占を表すもの。」

「……っ。」

 ──なんですってえ!

 青晶は内心絶叫した。しかし大人しく目を閉じる。問いただしたい事柄は山ほどあるが、他人の目の前で感情を露に怒鳴ったり出来ない。ましてやここは面接会場だ。

 中央の男が木槌を打った。

「では、彼女の容姿は問題としないことを承認する。よろしいな?」

 全員一致だ。男はただし、と付け加えた。

「審査は正式に執り行う。結果は追って連絡する。良いな?」

 青晶はその場に膝を着いた。正座をする。

「かしこまりました。」

 尋は横目でにやりと青晶に笑いかけた。

 青晶はその場に両手を着く。──絶望だ。

「……き、決まったのなら……僕を何とかしてくれ……。」

 隣から痛そうな声が上がった。

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