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魔術師の婚約者  作者: 鬼頭鬼灯
6章
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清宗の面接試験

 青晶は内心奇妙だと眉をひそめる。

 面接という場は人となりを見極める場所だ。部屋はお世辞にも明るいとは言えない。正面から両端に半円を描いて面接官が座っている。面接官一人一人の側に一つずつ灯火が据えられていた。そしてその円の直径となる部分に灯火が五つ灯っている。そこに来いという意味らしい。

 清宗は女性に頭を下げて室内へ入った。

「失礼します。」

 後に続く受験者は皆清宗と同じ挨拶をする。中心に座っていた男が何かを持って光の右端を示す。

「そちらから、一人ずつ光の中へ入りなさい……。」

 青晶は胸を押さえたい衝動を堪え、清宗の隣に立ち膝をついた。正式な挨拶をしなければならない。皆一様に膝をつき、頭を下げる。両手は額の下だ。

 誰かが咳払いをした。正式な礼は上位の者から面を上げよと命じられない限り、頭を上げてはいけない。青晶は静かに頭を下げ続けた。どれくらい経過したか分からなくなった頃、頭上から声が聞こえる。

「……よろしい。では、皆さん面を上げなさい。」

 精神力を試したのだろうか。青晶はゆっくりと顔を上げた。面接官全員が自分を見ている気がする。面接官は全部で十三人だ。男と女が入り混じっている。灯火が少なすぎて判然としないため、顔が良く見えない人が多かった。

 中央の右に座っている男が手を上げる。

「では、これより質問をします。一人一人聞いていきますから、辛いでしょうがそのままお待ちください。」

 皆が終わるまで正座のままだ。足がしびれるだろう。青晶は背筋を伸ばし、膝の上で手を重ねた。真っ直ぐ正面を見据えると、中央の男と目が合った。右の男が手を振る。

「では、そちらの男の子から。」

 どちらの男の子だ。適当に手を振られても分からない。右の男が手を戻すと、突然清宗に強い光が当てられた。清宗は眩しさに目を細める。

「ああ、眩しかったかな。すまないね。」

 誰が言ったのか青晶には分からなかった。清宗は一度瞼を閉ざし、しっかりと正面を見据える。

「いいえ。お願いします。」

 感心した声が木霊した。清宗の返答は珍しい例だったようだ。

「では、まず私から。」

 女の声だ。女は手を上げて清宗に場所を教える。顔は闇に半分隠れて分からなかった。

「あなたはこの学校へ入学した後、何が出来ますか?」

 意地の悪い質問の仕方だ。清宗は予想の範囲内の質問だったため、よどみなく応える。女は二つ三つ聞き返し、「私はもう結構。」と次へ投げ渡した。

「君は魔術師のことをどう考えるかね。」

 嗄れた声がおもむろに声を出す。どこにいるのか見つけるのに一苦労だ。

「術師学校において特異な技術・能力を身に着けた術師で、政治に関与しない立場を選択した人です。身に付けた力は万人に対する凶器にもなり救いにもなり得ます。欲に溺れてそれを己のためだけに使う可能性もありますが、己の志や経験、さらに周囲の人間の考え方によって極めて低くすることも可能だと考えます。」

「周囲の人間が必要かね?」

「人は一人では生きていけません。大切な友がいること、尊敬できる師範がいること、守るべき家族があること、全てが一個の人間を構成する一因になると僕は考えます。」

 年老いた面接官は杖で青晶を指した。

「例えば、今君の隣にいる友人のような?」

 青晶は小さく肩を動かした。前触れもなく青晶を友と断言したのはさすがと言おうか。清宗が青晶を見返す。目が合うと優しい笑みを浮かべた。面接官たちの一部がつられて笑みを浮かべる。一瞬空気が穏やかになった。清宗は真顔に戻って面接官を振り返る。

「そうです。」

「その友人と共に入学したいかね?」

 共に入学したいと言うと、どう取られるのだろうか。一方は合格の範疇だがもう一方は不合格だと判じられた場合、一緒に入りたいというのであれば両方とも不合格になるのだろうか。青晶が返答に窮する質問に対し、清宗は即答した。

「共に入学することを考え、今ここにいます。なぜなら一方が術師学校へ進み、一方が神学で学ぶことになると、友人関係を保つのが難しいといわれたからです。術師学校と神学は根本が違い、考え方も変化する。環境が変わることは、人の思考に大きく影響を与えることだと師範に教えられました。僕は師範を尊敬しています。更に、師範の人生経験を考えても、その意見は極めて可能性の高い未来だと判断できました。故に、僕はこの友人と共に今年入学することを希望します。」

 老人は微笑を浮かべる。

「彼女が駄目だった時、どうするかね?」

 青晶の心臓が跳ねた。

 清宗は強い眼差しを老人に向ける。

「それはあり得ないと僕は思っているので、そのご質問にはお答えしかねます。」

 青晶は唇を引き結ぶ。そう、合格以外はない。

 老人はふむと呟き書面に何か書き込んでいる。

「では最後に……君の言う師範だが、名をなんと言う?通り名で結構だ。」

「導諭師範です。」

 一同が身動きを止めた。そして笑い声が上がる。嘲笑ではなく、好意的な笑いだったことに青晶は安堵した。

 老人は笑いながら頷く。

「なるほど、なるほど。導諭先生のお弟子か。わかりました。私はもう良い。」

 他の面接官からもいくつか質問され、清宗の面接は終わった。全体的に好意的な結果になっている。

「では、次。」

 右の男が手を振ると、強い光が青晶を照らし出す。紫の髪と紫の目が珍しいことは承知だ。導諭との約束は破らない。

「よろしくお願いいたします。」

一度頭を下げ、真っ直ぐ正面を見据えた。絶対に負けない。


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