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魔術師の婚約者  作者: 鬼頭鬼灯
6章
31/41

記述試験

 試験会場にはわずか四十五の受け入れ枠に対し、三百は軽く超えた人々が集まっていた。清宗は驚いて会場を見渡す。巨大な会場だ。

「凄まじい人数だ。」

 二人は正面から三つ並んでいた校舎の中央の校舎に案内された。導諭はそこで別れる。付添い人は校舎の入り口までと決まっていた。青晶と清宗に案内状をそれぞれ渡し、街を散歩して待っている。終わった頃にもう一度来るらしい。

 入り口には女性と男性が立っていた。その二人が受験票を確認し、どこへ行けばいいか教えてくれる。見たところ受験会場は三塔に別れ、階数も数十桁単位の階数に分別されているようだ。驚いたことに、この二人は受験番号を見ただけでその人間が行くべき建物と階数を覚えていた。

 青晶と清宗は同じ中央塔の十九階だ。十九階までは一階に用意されていた陣の中に立って階数を言うと、瞬きの間に着く。目の前には既に教室があり、その中へ入ると巨大な受験会場が待っているという流れだ。

 青晶は自分の受験番号のついている机に向かいながら清宗を振り返る。

「ここで百いたとしても、数十階分が三塔もあるって言うことは……あまり参加人数は考えないほうが良いってことじゃないかしら。」

 清宗は青ざめて頷く。青晶は自分も緊張していたが、清宗の腕を軽く叩いた。清宗が眉を上げる。

「先生が言っていたでしょう。問題に対して正確に答えればいいだけだって。」

 清宗は笑った。

「そうだった。簡単なことだ、問題に正確に答えればいいだけじゃないか。……てよく言っていた。」

 いつもの清宗の顔に戻る。青晶も一緒に笑い、落ち着きを取り戻した。

 青晶と清宗は同じ神学からの受験者だからか席も近かった。清宗は斜め前の席だ。席についてしばらくすると、黒衣をまとった男が現れた。若い顔つきの男は会場の最前列にある教卓の前に立ち、全体を見渡す。その眼差しは冷静だ。浮き足立った会場の雰囲気が一変した。静まり返った教室に緊張が満ちるまでいくらもかからない。

 黒衣には龍が描かれていた。青晶を助けた賢という官吏と同じだ。この試験を国が担っているのだと改めて実感する。

 国が優秀な人材を育成し、官吏に育てるために用意した学校だと。

 尋が卒業し魔術師を選択した学校だった。

「受験番号を確認し、机に貼っている受験番号と照合してください。」

 無機質な声だ。一拍置いて顔を上げた。

「誤った席についていませんか?……では、これより席を立つことを禁止いたします。用件のある方は挙手をしてください。試験監督が許可をするまで席を立ってはいけません。私語は厳禁。不正行為は即刻退室を命じます。よろしいですか?」

 全員が無言で男を見つめている。それを同意と受け取り、男は頷いた。

「試験監督は私です。では、ただ今より試験を開始いたします。」

 その言葉と同時に前方の両端の扉と、青晶達が入ってきた後ろの扉が音を立てて開く。黒衣をまとった人が四人、前方と後方に並ぶ。試験監督が右手を上げると四人は杖を振り、手に持っていた大量の紙が教室を舞った。

「──開始。」

 試験監督が言い放つと、問題と解答用紙が目の前に机と平行に並んでいた。

 まるで儀式だ。青晶はそう思った後、試験に没頭する。何者の音も耳に入らなかった。

 試験は二回に分けて行われた。一回目は呪術に関する設問。二回目は国の歴史とその歴史的観点から今後の経済の動向を理論的に最も可能性の高いものから可能な限り論述せよ。というものだ。

 どちらもできるだけ書いた。一回目の問題は全部で五百問ある。時間がいくらあっても足りないのではないかと不安だったが、最後の回答を書き終わると同時に終了の合図が鳴った。回答時間まで完璧に計算しつくされた問題だ。

 試験が終わると次は面接だが、この人数全員を面接するわけではないと説明された。面接は試験の結果及第点を出した者にのみ実施すると、無機質な声の試験管は言い放つ。

「試験結果は本日追って伝えます。皆さん机に貼っている受験番号を剥がし持ち帰るように。面接者には受験番号にその旨を表示します。無くさないように。二次発行はございません。」

 厳しいものだ。青晶は自分の受験番号を剥がそうと指をかける。受験番号は目の前で板に変わり、かたりと小さな音を立てて机の上に転がった。

「……すごい。」

 板を持って清宗を探す。清宗はもう席を立ち青晶の方へ向かっていた。あちこちで驚嘆の声が上がっている。試験監督は面白くもなさそうに、無表情のまま教室を出て行った。

「行こう、青晶。多分早く出たほうがいい。」

「え?」

 早く出たほうがいい理由を考える間を与えず、清宗は青晶の手首を引く。

「受験番号の札持っている?」

「あ、うん。」

 青晶は握り締めている板を見せた。清宗は頷いて皆出口へ向かおうとしている中、いち早く扉を開けて外へ出た。外には上ってきた時と同じく陣が描かれているが、その数はわずか四。一気にこちらへ向かっている学生の数に対し、即座に対応するには数が少なすぎる。

「ほらね。」

 清宗は正解だと笑って陣の中に青晶と一緒に立った。


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