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魔術師の婚約者  作者: 鬼頭鬼灯
5章
27/41

清宗と魔術師 2

 彼は相変わらず白い着物に無数の装飾品をつけて雅だ。

「あなたは神出鬼没だな。」

「それが俺の主義だよ。」

 清宗は呆れて欄干に背を預けた。

「無理をさせてすまなかったね。青晶に怒られたよ。」

 ちっともすまないと思っていない顔で尋は肩を竦める。

「青晶と会ったのか。」

 どうやって会ったのだろうか。導諭が屋敷内に招き入れるとも思えない。娘を狙っている悪い虫を快く思わないはずだ。どうせとんでもない手段で捕まえたのだろう。あえて方法は聞かなかった。

 尋は口の端を上げる。

「すっかり色が変わってしまって、残念だ。」

「ああ……あの石か。あなたはあの石を見ただけでわかったのか?国家秘蔵の宝物だ。書物にしか載っていない。先生に渡された時は先生の色なんて見てもいなかったから分からないけれど、僕は自分の髪も違う色になっていたことには気づかなかった。青晶も気づいていなかったように思うけれど。」

 導諭に見せてもらった書物の中に紫幻華石も載っていたがその挿絵は青晶に渡したものとは似ても似つかない形と色だった。とても鮮やかな紫色で描かれ、ともすれば透き通っていそうな絵だ。本物は黒にしか見えない色だ。透き通るどころか光を通さない。

「当然知っている。……お前は青晶と違って色が濃いから一見変化に気づきにくいのだよ。青晶の髪は色素が薄いから鮮やかな紫になるが、お前は黒に近い紫になる。だから青晶も気づかなかった。あんな石、宝物だかなんだか知らないが、探そうと思えば手に入るよ。数が少ないというだけで、金剛山にでも行けばみつかるさ。」

 清宗は眉を下げた。金剛山は世界で最も険しい山で、気候も常に雷が落ち続けているような状態だ。土に含まれる石は宝石の原石ばかりだが、土自体が石のように硬く人にはとてもじゃないが掘り返せない。おまけに国が保護指定をしている山だから、みだりに入ることも出来ない。余程のことが無い限り誰も近づかない山だ。

「そう……。」

 常識をこの魔術師に説くことは無駄だ。清宗はただ相槌を返した。

 尋は眉根を寄せて空を仰ぐ。

「先生があの石をお前に渡した時は、絶望だったよ。あの美しい色が隠されてしまうのだからね。」

「青晶にはいいはずだ。あなたは青晶が好きなのだろう?彼女のことを第一に考えればいいじゃないか。」

 尋は心外だと言わんばかりに眉を上げた。

「何を言っているのだい?彼女のことを考えているからこそ、石を渡す邪魔をしなかったのだよ。彼女が美しいばっかりに、男に言い寄られるのは御免だしね。」

「……ふうん。」

 それはどうだろう。清宗は穏やかに眠っていた青晶の顔を思い出す。紫色の髪は艶やかで、風が吹けば弧を描く。顔立ちは幼い頃から整っていた。彼女の目が灰色だということで誰も彼女の容姿については言及しなかったし、気にも留めなかっただろうが─これからは違う。

青い髪と違い紫色の髪は乱獲される対象ではないが、よくある色でもない。大体が黒や茶、金、銀、白だ。瞳にいたると翠や橙、赤など無数にあるが、それでも紫の瞳と髪がそろっている人を清宗は見た覚えが無かった。町を訪れた楽団の中に一人、髪が紫色の人がいたが珍しくて目を引いた。

 その上容姿があれでは──どうなるだろうか。

 何故か彼女に恋心を抱かない自分が不思議なくらいだ。

 分っているのだろうかと反って心配になる。尋は首を傾げた。

「お前はあれに言い寄ってはいけないよ?」

「言い寄るはずがない。彼女は友人だ。」

 この男が周囲をうろついている限り、自分は青晶に恋心など抱かないだろう。尋は頷く。

「お前が友としてあれの傍にいれば、他の男は近づかないさ。」

「おいおい。勘違いさせろということか?僕はずっと独り者でいろと……?」

 酷い話しだ。尋は楽しそうに空の中で笑っている。

「術師学校へ行くのだろう?恋なんてしていられないさ。あそこは酷いところだからね。安心しろよ。」

「……青晶は大丈夫かな。」

 わずか十五の年齢で術師学校へ入学できるものなのか。導諭の勧めで自分と同年入学を考えているようだが、無理をしていないとは思えない。

「大丈夫さ。僕が永遠に彼女を見ている限りはね。」

「何の話だ?」

 蠱惑的な眼差しで、尋は青晶との会話をそのまま伝える。清宗は呆れ返るしかなかった。婚約だなどと、よく言うものだ。青晶の混乱ぶりが想像できる。婚約だろうと何だろうと尋が手に入れると決めた時点で、大差はないが。

 清宗は考えながら空を見上げた。

「……うん。しかしあなたが彼女を守るのであれば、僕もありがたい。僕では役不足だろうから。」

 導諭には友であると約束したが、友であり続けることと彼女を守りきれることは違う。

 尋ははは、と声を上げる。

「気にするなよ。先生も言っていただろう?守るということは、互いを必要とし失わないための行為だ。お前に彼女を守れと言っていたが、訂正するよ。お前は守るなんて考えないでいい。ただ共にあることが、真実の友なのだろう?」

「そんなものかな。」

「……術師学校へ進むのだろう。」

 尋は静かに呟いた。虫の音にかき消されそうな声だ。

「ああ。」

「ならば青晶など気にしてはいけない。」

 清宗は眉を上げる。尋がそんな台詞を吐くとは思わなかった。青晶が常に一番だと言っているような男が珍しい。

「あなたの言葉とは思えないな。」

「今はそんな時ではない。青晶も同じさ。互いに入学したいのであれば、互いを気遣っていてはその気遣っている間に別の人間に蹴落とされる。……お前たちが行こうとしているのは、そういう世界だよ。」

「……なるほど。必死になれと?」

 それもそうだ。術師学校の門は狭い。清宗とて入れるかどうか分らない。

尋は頷く。

「そ。死に物狂いでやっても落ちるのが当たり前。そういうところだよ。」

 そして背を向けると同時に消えた。清宗はぽかんと空を見上げた。

「突然来たと思ったら、いきなり消える。」

 それにしても、あの大魔術師からは書物に書いていないことをたくさん聞けそうだ。

「とりあえず、合格したらいろいろ教えてもらおう。」

 まずは試験内容を聞きたいところだが、術師学校の試験は例年同じ内容ではない。想像不可能。だから何度受けても合格しない人間は何度でも落ちるし、二回目であっさり合格する場合もある。

「僕は一回で合格しないといけない。」

 もう家族の手伝いも出来ずに勉学ばかりするわけにはいかない。家族が一人減るだけでその分生活が楽になる。農作業も手伝わないような息子は、早々に出て行ったほうがよほど親孝行だ。そして術師学校へ入学すれば、国から給付金が与えられる。国家へ勤めている扱いになるらしい。給付金が出れば家族の生活はかなり満たされるのだ。

 清宗は自分の心が穏やかになっていることに気づくと、肩を竦めて家屋の中へ戻る。尋はもしかすると、本当に清宗を気遣って現れただけかもしれなかった。青晶に会えたのならわざわざ清宗が目覚めた後にもう一度現れる必要は無い。

「真実の友ね……。」

 あの男が真実の友になると、何かと大変そうだ。神官と大魔術師は相容れぬもの。一方は国を守り、一方は国を脅かす。

 清宗は頭を掻いた。

「ま、何とかなるか。」

 あくまで楽天的に物事を考える。それが彼の長所だった。


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