表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

大事件や大事故が起こると、日付を合わせて記憶に残るものがあると思います。

9.11テロ、2.26事件、また終戦の日、8.15。

ただ、現在の日本人にとっては、「3.11」が一番記憶に刻まれているかと思います。

そんな3月11日がもう少し早く歴史上に出ていたのなら、というお話を書いてみました。


初投稿なのでお手柔らかに。



 海岸線から少し離れた丘の上から、老人はその光景を見ていた。

「手加減ってものを知らないのか・・・」

 老人はそう思った。

 海が盛り上がり、こちらへ迫ってきた次の瞬間、海は陸を侵食し、次々と人やもの、全てのものを飲み込んだ。

 その力が弱まり侵食が終わると、今度はその飲み込んでいったものを陸地から洗い流した。その威力は凄まじいものであった。

 老人は、自身のそして人間の無力に対して苛立ちを見せた。

 そしてふと思い出した。

「あの日も、3月11日だったな・・・」

 2011年3月11日。未曾有の被害をもたらしたこの震災は、日本国民のみならず、世界中の人々の記憶に深く刻まれることになる。

 しかし「3月11日」には、もう一つの物語が存在していた。




 海岸線から少し離れた小さい丘の上から、若い少尉はその光景を見ていた。

「奴ら、手加減ってものを知らないのか!」

 彼自身は、独り言かつ、小声で発したつもりであった。

 しかし、そこにいる者全員に聞こえてしまっていた。

 その声は、怒りの感情である一方、何もできないということに対しての無力感に対しての苛立ちから発せられたものであり、そこにいる者全員の気持ちを代弁したものといっても良かった。

 彼らの目の前には、平坦な地面があり、その先には海岸が見えた。

 

 そこを遮るものは何もない。

 

 海岸線から、彼らのいる丘までは、家はもちろん、田畑も木々も何もない。もちろん、人の姿もなかった。更にここ数日の悪天候の影響か、地面のいたるところに泥の海が広がるのみであり、人が住んでいたということが、虚構に思えるほどであった。


 少尉の隣にいる、彼の補佐役である古参の軍曹は、同様にその光景を見ていた。苛立つ新任少尉を慰めるように、言葉を発した。

「少尉、今は我慢です。明けない夜はないというではありませんか」

 その言葉を聞いて、少尉は、少し驚いた。


「マクベス・・・。シェイクスピアですね」

 少尉といっても、学徒動員で入隊、速成教育で少尉となった学徒少尉であり、実戦経験もなかった。年齢も若く、彼ら学徒少尉の下につく部下たちのほとんどは年上であった。この部隊も例外なく、少尉が一番若かった。そのため、この少尉はどうしても命令口調に言葉を発することができなかった。


「はい、そうです」

一方の軍曹も年齢は下であるが、階級が上である学徒少尉に対して敬語で返答した。


少尉は、入隊前まで、大学の文学部で英文学を専攻しており、シェイクスピア文学も学んでいた。そのため『明けない夜はない』という言葉が、シェイクスピアの戯曲「マクベス」の一説に出てくることを知っていた。

 そんな言葉が、父親ほど離れている、古参軍曹の口から出るとは思っていなかった。

「ご存知なんですね」

 少尉は少し嬉しい気持ちで軍曹に質問をなげかけた。

「えぇ。実家が、神保町で古書店を営んでおりまして。外国語文学専門店なんですが。店番のついでに少し読んでおりました」

「そうですか」

 少尉は、返事をすると海岸線を見つめなおした。

 いつかこの軍曹と旨い酒を一緒に飲みながら、語り明かしたい。そう感じていた。


 ただ、そのためには、この状況をどうにかしなければならなかった。

「軍曹、私はこの状況を劇的に変えることは難しいと思っています。ですが、一方でこの国を滅ぼすようなことをしてはいけないとも考えています。」

 軍曹は、滅ぶという言葉を聞き、身が引き締まる思いをしていた。国が滅ぶようなことを想像したことがなかったが、現在の状況を考えると、途端に現実を帯びることだった実感していた。


「簡単なことではないですが、我々は、我々にできることを、やらなければならないそう思いませんか」

 少尉の言葉に、軍曹は心のそこから

「はい、同感です」

と返答した。

「私は、『日はまた昇る』ものだと信じています。」

 少尉の言葉に、軍曹は気がつき、少し笑みをこぼした。

「アーネスト・ヘミングウェイ」

 軍曹の返答に、少尉は頷いた。

「私はこの言葉どおりに実現させたいのです。今、この瞬間を生きている人のために、どんなことがあっても日本を沈ませるわけにはいきませんよ」


 50年後も100年後も、同じ思いの日本人がいれば、間違いなく何度でも立ち上がれるはず、少尉はそう感じていた。少尉だけではない。ここにいる部隊全員がその思いで配置についていた。



 時に1946年3月11日。九十九里浜の長い一日が始まった。連合国軍による「コロネット作戦」の発動されたのである。

お読みいただきありがとうございます。


コロネット作戦は、いわゆる日本本土上陸作戦の一つです。

史実においても、1946年3月に開始予定だったということもあり、ひょっとすると「3月11日」は、そんな日になっていたかもしれませんね。


現実と「もしも」が混在してわかりにくい部分があったかもしれませんが、次回以降、改善していこうと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ