朝と雑誌と謀りと
朝っぱらから、僕は渋い顔をしていたと思う。教室に入ってきた友人が、僕の顔を見るなり言う。
「……どうした、頭抱えて」
「いや……ちょっとね」
「……?」
首を傾げる友人に、僕の机の上に置かれていた雑誌を見せてやる。
「お前こんなの読むのか」
「読まないよ! 誰かが置きっぱなしにしてたみたいなんだよね……はぁ」
ため息をついて、手の中のそれに目を落とす。大きな胸をこれでもかというほど主張するモデルの写真と、カラフルな文字で書かれたキャッチコピーが目に入った。
「セクシーな内側、ねぇ」
「……要る?」
「要らん」
「だよね」
苦笑しつつ相槌を打つ。僕だってこんなもの読まないし要らない。
「どうするんだ、そんなもん」
「捨てる」
「学校に?」
「……それは問題があるような」
「そうだな、教師に見つかったら集会が開かれそうだ」
いつもふざけたことばかり言う友人にしては、もっともな台詞だった。学校以外となると、どこだろう。考えて、思いついた場所を口にする。
「帰りがけにコンビニででも、捨てるよ」
「そうか。あぁ、そうだ、俺、今日は部活あるからな、待たなくていいぞ」
「了解。いつもなら今日は定休日のはずなのに、何かあったの?」
「記念すべき一冊目の部誌の発行だ」
言いながら、友人は携帯電話を取り出して操作を始める。
「ほら、これだ」
向けられた画面を覗き込むと、そこには事務的とは程遠い文体の業務連絡が書き連ねられていた。
「部誌って、作ったらどうするの?」
「文化祭で売るんだと。一冊100円とか200円とかで」
「へぇ、頑張ってね」
「おう。それよりお前、いつまでそれ持ってるつもりだ」
「え? ……あ」
彼の指差した方には、掴んだままのグラビア雑誌。くそ、これじゃ僕の持ち物みたいじゃないか!
「謀ったな!」
「何がだ。そうやって持ってるとお前が読んでるみたいだぞ」
「僕だってわかってるよ、わざわざ言わないで。心に刺さる」
「だからと言って鞄に入れようとするるな。ますますお前の持ち物みたいだ」
「じゃあどうすればいいんだよ!」
つい、声が大きくなる。周囲の目線が気になっったけれど、皆自分のことに夢中なのか、こちらに向けられる視線は感じられなかった。僕の言葉を受けた友人はは少し考えてから、人差し指をぴんと立てて、提案する。
「今日の3限目は体育、移動教室だ。人が居なくなったのを見計らって、他の誰かの机に隠してやれ」
「……うわぁ」
くすくすと笑う彼に、冷たい視線を向ける。最低だ、こいつ。もし間違えて女子の机に入れてしまった、なんてことになったらどうするんだ。
「幸いまだ朝で、来てる奴も少ない。お前がその雑誌を持ってたことまで知ってる人間はいないとみていいと思うぜ?」
「確かにそうだけどさぁ、人としてそれはさぁ」
「ま、どうするかはお前の勝手だ」
意地悪い笑みを浮かべてひらひらと手を振る友人を睨みつける。俺はもう関わらない、と言いたいんだろう。
僕は嘆息して、もう一度雑誌に視線を落とす。
あの、カラフルなキャッチコピーが目に入った。




