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第七話 帰れない、だと?







 さて、場所は変わり食堂。

 あの後、飛んできたギルド長に叱り飛ばされ騒ぎは鎮圧。

 俺は苦情に対応した後、あの阿保共を連れてここに来たのだ。


「なぁアウェル? 何で俺たちまでなのかな?」


 隣に座り、訝しげに聞いてくるコンル。

 更にその隣ではネルとダネンの爺さんがいる。


「だって言っただろ? 合格したら俺たち教官全員で飯を奢るって」


「まさかのマジだった!?」


「当たり前だ。それと、あの騒ぎを俺とギルド長だけに鎮圧させた罰だと思え。……教官が四人いたのに、実質動いていたのは一人とはどういうことだ」


 これくらいの愚痴は許されると思う。


「……それに関してはなにも反論できないなぁー」


「……う、同じくです」


「………………………………」


 ダネンの爺さんなんかは口を閉ざしている。


「……ま、アイツらはアイツらで楽しんでるみたいだからこっちもこっちで飲ませてもらおう。な、ダネンの爺さん?」 


「ぬぅ……そうだな、飲むとするか」


 ふ、ちょろいものだ。

 こうして俺たち教官と、元訓練生との飲み会? が始まった。












「それでは、僕たちはこれで。教官、もう一度だけ言わせてください……本当にありがとうございました!」


 ラインは酔ってダウンしたミト(ソロAランク)に肩を貸しながら言う。

 まったく、あの傲慢チキがこうも素直になるとは思ってもいなかった。

 だが、いい変化であるのは間違いない。素直に祝福するさ。


「ライン、お前の傲慢さが抜けてからと言うもの目を見張るものがあった。まさか、ここまで行くとは……思ってなかったぞ?」


「っ、教官……」


「だが、お前はそこまで登りつめたんだ。過去は過去、今は今。過去の自分は反面教師にするため何時までも覚えておけ。このまま過度な傲慢さが再発しなければ、きっとその上にだって行ける」


 ……ダメだ、恥ずかしい事を言っている気がする。

 く、ほろ酔いのせいで思考がきちんと回らないのか?


「……少し酔っているみたいだ。まったく、柄にもないことを言った気がするな」


「いえ! とても、とても励みになります!」


「ライン、少し声を抑えてやれ。ミトが起きるぞ?」


「あー、そうでした……」


「…………さて、俺もあの酔いつぶれてる教官陣を連れて帰るか。あんな様、他の奴らに見せるわけにはいかない」


「あはは、そういえばダネンさんの話、本当でしたね」


「だろう? ダネンの爺さんはそういう人だ」


 ダネンの爺さんの話。

 つまるところ酔うと本音をポロポロ零すようになる、そういう話だ。


「ダネンの爺さんはこのままこの店に放置するとして…………コンルは婚約者が迎えに来る。となると?」


 残る一人。

 グテンと机に突っ伏すネルが残っている。


「ネルか。家は知っているが…………」


 流石に酔って正常な判断ができない女の部屋には入りたくない。

 軽いトラウマがあるのだ。


「そう言えば、ネル教官はアウェル教官の事を『先輩』って呼びますよね。もしかして旧知の仲ですか?」


「ん、まぁそうだな。学校の先輩後輩だった」


「えー、つまり今も尚、ネルさんに対しての感情は職場での先輩後輩?」


「それ以外になにがある?」


 途端にがっかりするような表情になるライン。

 なんだ、その余裕は。


「成程……そう言えば教官。教官は誰か想いびととかはいないんですか?」


「想いびと……つまり好きな人か。……お前はどうなんだ?」


「僕ですか? 僕はもうミトと付き合ってますよ?」


 な、なん、だと?

 確かに仲良くソロでAランク取ったなとは思っていたがまさかそこまでの関係とは。

 そう言えば何時だったか、ミトが弁当を持って恥ずかしそうにラインのところへ向かっていた場面を見たことがある。


「いいですよね、恋愛」


「ライン、それはアレか? 俺に喧嘩を売っているのか?」


「あ、い、いえそうではなくてですね! 教官も殺伐とした職場で癒やしがないでしょう!?」


「……確かにそうだな」


「コンル教官は婚約者との時間、ダネン教官は孫との触れ合いとお酒。ネル教官は…………まぁいいです。でも、アウェル教官にはないでしょう?」


 ……痛いところをつくなこの元生徒は。

 確かに、殺伐とした職場な為疲れる。

 恐らく、ラインはそこから恋愛に話を繋げようとしているのだろうが……そうはいかんよ。


「確かに俺には癒やしというものがない」


「じゃ、じゃあやっぱり恋あ―――――「だが」―――い、を?」


「だが、俺には肉体的疲労と精神的疲労を回復させる方法がある。だから今のところは恋愛はいらないな」


「な、何という鉄壁。これは苦労しそうですね……」


 実は恋愛怖い病だったりする俺。

 俺が被害にあった訳ではないが、学校で唯一いた友人が、想いびとに良いように利用された上に、見えないところで陰口をされていたことが判明。



 そいつはしばらく部屋に篭っていた。

 立ち直らせるのは苦労した。だが、立ち直ったあとすぐ旅に出る! とかいって消えてしまったので結果ボッチの誕生。

 



 はっ! 恋愛なんて、恋愛なんて! …………怖すぎる。




「ん、やはり俺にはまだ、恋愛はいらない」


「何だか壁を余計増やしてしまったような……ネル教官、すみません」


 何故かネルに謝るライン。

 俺は今だ泥酔するネルを一瞥し、ため息をつき、


「仕方がないから、ネルは俺が知人の家まで運ぶ。お前たちも今日は帰れよ? それと、前にも言ったようにいつでも来い。相談くらいなら乗ってやる」


「はい、あ、他の教官方にもありがとうございましたと伝えておいてください」


「分かった。それじゃあな」


 俺は軽く手を振り、ラインとミトを送り出す。

 店の中を見渡すと、すでにコンルは居なくなっていた。婚約者が迎えに来たのだろう。

 ダネンの爺さんは爆睡。片手に酒瓶もったままだ。


「……ちょっと失礼」


 俺はネルに一声かけてから背中におぶる。

 そのまま、皆から預かっていたお金で精算。店を出る。

 すでに辺りは明かりが失せ、満点の星空が見える。


「……これで酒臭くなければ最高なんだがな」


 ポツリと呟いてから視線を地上に。

 目的の場所に向かって足を進める。

 そこはまだ、明かりが少しだけ灯っていたのだが正面はカンヌキの様な鍵でガッチリと締められているので裏口にまわる。

 そして、


「……ギルド長、まだいるか?」


『その声は……少し待っていろ』 


 ガチャリと扉が開き、寝巻き姿のお子様―――――ギルド長が姿を表す。


「なんだ、こんな時間に」


「すみません、少し預かって欲しいのがいまして」


「いまして? それはつまり、その背中にいる奴の事か?」


 その反応からすると誰だか分かっていないようだ―――――って、あ、


「すみません、補足するとネルです」


 そう、背が低くて俺の背中の方まで見えないのだ。

 失念していた。


「…………捕捉ありがとう、とても嬉しいよ」


 ビキリと嫌な音がギルド長から聞こえたが、気にしない。


「……まぁいい。中に入れ。ああ、ネルは適当なソファの上にでものせておけ」


「分かりました」


 俺は許可をもらってから室内へ。

 そのままソファの前まで行ってネルを丁寧に下ろす。

 一応タオルもかけておくとしよう。


「さてと、これで俺の用事も終わりだ。…………それじゃあギルド長、俺も帰りま―――『ガチャリ』―――ガチャリ?」


「はっはっは、そのまま帰れるとでも思ったのか? それはいけないな。アウェル、お前は私に頼み事をした。私はそれを受け入れた。分かるな? こういうとき、何時もはどうしているか」


「いやいや、今の俺は酒臭いですし酔ってますよ?」


「構わんさ。ちょっと足りない分を補えればいいのだから。私も少し疲れていてな、丁度若いのが欲しかったのだよ」


 ペロリと唇を舐め、妖艶な雰囲気を醸し出し始めるギルド長。

 その幼い外見からは想像もできないだろう色っぽさだ。

 不思議だ、あのお子様パジャマが色っぽく見えるなんて。


「もう出口は塞いだ。逃げ場は、ない」


「いやいや、今ここ、ネルいるじゃないですか!」


「そうだな。…………で? 酔いつぶれて寝ているが? ああ、もしかして起こしたいのか? まぁ私は止めないがな?」


 あ、ダメだ。

 もう逃げられない。本気の目だコレ。


「は、はは。まさかこんなことになるとは。ライン、女性は見かけにはよらないもの―――――ちょ!?」




 俺の口はそれ以上言葉を放つことは無かった。




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