第六話 結果発表を待つ
トントンと肩を叩かれる感覚で目を覚ます。
「ん……、二時間経ったのか?」
起こしてくれたネルに訪ねながら、体の調子を確認する。
どうやらもう酔いは残っておらず、頭痛も体のだるさも無くなっている。
…………サイフの中身も無くなったままだがな!
「そろそろ試験結果の発表が終わります。恐らく、それからすぐに此処に駆け込んでくる人もいるはずです」
「そうだな……よし!」
立ち上がりそのまま外へ。
場所は何時もの訓練場。
後ろからネルも歩いてくる。
「おーい、ダネンの爺さんとコンル! そろそろ時間らしいぞ!」
俺の先、訓練場の中心で打ち合っている二人に声をかける。
「む、もうそんな時間か」
「どうした、ついにボケが始まったのか?」
「は、ほざけアホウめ」
軽いジャブを交わしてから持ってきていたタオルを二人な投げ渡す。
「お、ありがとうアウェル。ついでに水もあると嬉しいな」
「残念。ネルにでも頼め」
「お望みでしたら、出して差し上げますよ? …………ウォーターレーザー」
「あっはは、自分で取りに行ってくるよ……」
すごすごと室内に戻ろうとするコンル。
俺はそれを引き止める。
「ん? どうかしたの?」
「言ったろ? もう来る、水を飲みに行っている時間はないぞ……ほれ」
俺は隠し持っていた水の入った瓶をコンルとダネンの爺さんに。
コンルは、やっぱり持ってたじゃないかと言い、ダネンの爺さんはギロリと視線で訴えられた。
そうして十分くらい経過した頃、ワイワイと人の騒ぐ声が聞こえてくる。
恐らく合格したであろう訓練生たちだ。
「あ、教官たちがいる」
「きょうかーん! 俺たち全員受かり―――――ふぐぅ!?」
「待つ。それは皆揃っていうこと」
やがて訓練生たちは全員俺達の前にやってくる。
人数は…………全員?
もしかしてこれは――――――――
「――――――――全員落ちたか?」
「先輩、流石にないと思います」
しかし、全員合格なんて今まで一度もなかった訳で……。
いや、生徒を疑うのはいけないな、うん。
「えーでは、僕が代表して全体の結果をお知らせしたいと思います」
そう言いながら前に出てきたのは、ライン・ブライトという少年だった。
彼は実力はあったのだが、傲慢さがアダとなり一度試験に落ちた。
その後ここに流れてきたのをみっちりしごいたら、何時の間にか爽やか系へと変化していた。
今ではこの訓練生たちの代表的立場にいる。
「僕たち、第156回ギルド認定試験訓練生十四名はっ!」
ラインは一度皆を見渡したあと、ここに全員がいることが誇りだとでも言うように、
「ついに、認定試験Aランク、Bランクに合格を果たすことができましたっ!!」
そう宣言した。
待て、待て待て待て待てぇい!
今、Bランク合格と言ったのは分かる。だが、ラインの奴は何と言った?
Aランク合格だと? つまり、試験で圧倒的戦績を残したためにCかBランクから始まるところをAランクから始めると?
嘘だろ、とネル、ダネン、コンルをちらりと一瞥すると三人もまた驚いていた。
正直、俺は驚愕のあまり硬直してしまっている。
「のち内分けですが……ソロAランク合格、僕、ライン・ブライトとミト・ハルトム二名!
続いて、パーティーAランク合格、エイミ・スラム、エフズ・エルトミア――――――――……ミナト・カンザキの八名です!
また、この八名はソロBランク合格も果たしています! そして、エルドア・ミレイ、ダダ・コンスト、ワドル・エム、カイト・コノエの四名はパーティーBランクに合格しました!」
……しかもソロまでいるときた。
基本、ギルド試験はソロとパーティー試験がある。
その内両方を受け、ソロはソロ、パーティーはパーティーで結果が出る。
難易度的にはソロの方が難しく、ソロのランク以下であればパーティーの依頼も受けることができる。
例えばラインの場合、Aランクソロの資格を得たため、Aランク以上の依頼に一人で行ける。無論、パーティーでAランク依頼を受けることもできる。
ただし、Aランクパーティーの資格であれば、Aランクの依頼にパーティーで行くことはできるが、ソロでは行けない。自分の合格したソロのランクまでが限度となる。
ちなみに、Sランクの依頼はAランクであってもギルド長に功績を認められていれば受けることは可能だ。
さて、実はこのAランク、世界的にも二百人はいるのだが皆、C、B、Aと階段を登っているのだ。
試験から直でAランクになった者はその半分もいない。
それをここの数人はやってのけた。その内二人はソロでもAランクだ。
この二人の場合、二十人程しかできなかった偉業を達したことになる。
更に、他のメンバーも誰一人落ちることなく合格してのけたのだ。
「……これも、教官方のご指導があったからこそです! 本当に、ありがとうござました!!」
「「「ありがとうございました!!」」」
俺は自慢のスルースキルを発動して頭の中を空っぽにして立ち直る。
「……そうか、予想以上の成果だったな。だが、君たちは少し勘違いをしている」
そう、勘違いをしている。
それと、いずれお前達は俺たちのせいと言うようになるかもしれないぞ?
「君たちは確かに合格した。しかし、それはあくまで試験、実戦ではない」
「「「!!」」」
「君たちも経験したはずだな? 俺たちが確かに教え込んだはずだ……基礎をな」
体験したはずだ、実戦の空気を、状況を。
あれでもまだ生ぬるい。リアルはもっと血なまぐさく泥まみれになる。
「あれで良いとこBランクの短期依頼くらいしかない。それがAランク長期依頼になると…………想像出来るか?」
「「「できません!!」」」
「素直でよろしい。そうだ、君たちはまだ一歩前に進み出したに過ぎない。……浮かれるな? その慢心が失敗を呼ぶことを、理解している奴もいるはずだ」
ラインは顔を伏せる。
「気を緩めるな。今が一番堕落しやすい時、失敗を犯す時だ。……現実は、もっと厳しいぞ?」
そこで一度、言葉を区切る。
そして少し言いすぎたかなぁとも思い、
「まぁ、なんだ。結局説教になってしまったな。……君たちがよく、俺を怒鳴らせるから癖になってしまったようだ」
すると少し和らぐ空気。
もう一押しだな。
なんにせよ、頑張り報われたのが事実。
「さて、勘違いと俺は言ったが……先程俺が言ったとおり、君たちが慢心に溺れている! など思っていない。俺の言いたい勘違いとは別の事だ」
キョトンとしている訓練生、否、元訓練生を置いて話を続ける。
っておい、何故お前達教官三人まで固まっているか!
「いいか、確かに俺たちは君たちが合格できるよう鍛え上げた。しかし、それが仕事だからだ。報酬を貰い、当然のことをしたまで。……ここまで登りつめたのは君たちの執念あってこそだ! 俺たちはただそれを手伝っただけ、胸を張れ! だが驕るな! 今までどおり、どこまで進もうと足掻くことを忘れるな!」
そう、足掻けば落ちこぼれから教官にだってなれる。……言ってしまうと、初対面のギルド長に教官としてスカウトされた理由は分からないんだがな。
教官はいいぞ、戦わなくて済むから。俺の攻撃力の無さを見せつけなくて済むから。
回避だけならスキル使って何とか出来るんだけどな。……月三回だけだが。
すると、訓練生たちは全員俯き…………
「「「お……」」」
お?
「「「おお……」」」
おお?
「「「オオオオオオオオォォォォォォオ!!」」」
何故か涙を流し、片腕を空へと突き出し上空に魔法を――――――――
ってアホ! やめんか! 水魔法なんて打ち出したらご近所の洗濯物濡れちまうだろうが!
こらそこ! 土魔法もアウトだ! 砂で洗濯物が汚れるー!!
これから来るだろう苦情処理の担当が俺だと知っての狼藉かッ!?
おいそこでボケッとしてる三人! 止めるの手伝えよ!!