第三話 ……逃げられない
俺はギルド長に呼び出されてギルドの中に。
ちなみにギルドの裏が訓練所、俺の職場だ。
「うむ、来たようだな」
どこか人を見下したような喋り方だが、実際には不快感はない。ただ、そういう喋り方なだけなんだと聞けば分かる。
何せ、落ちこぼれだった俺を雇用してくれている人なのだから。
「呼ばれたので来ましたが……何用です?」
俺は自分より頭二つ三つ低い辺りに声をかける。
ギルド長は、見ためが幼女なのだ。身長130いくかいかないかの瀬戸際。
ちなみにこれを指摘すると思いっきり脛を蹴り抜かれる。
「……少しカチンとくる視線を感じた。まぁ、いい。それよりも呼んだ理由についてが先だ」
あ、逃がしてはくれないようだ。
なんと言う失態だ。これで俺のサイフが寂しくなり二日酔いになるのは確定だ。
「実はお前に同行依頼が出ている。ギルド職員として断る訳にはいくまい?」
同行依頼? 何故そんな物騒な物が俺あてに?
この同行依頼と言うのは、一定ランク以上の難易度の依頼の時のみ出すことのできる依頼だ。
基本、Bランクの冒険者がどうしても倒せない魔物がいるか、自分達の手に余る魔物が出現するかもしれないと言うときにAランクの冒険者に頼むもので、ギルド職員に出ることはまず無いのだが……。
「確かに、断るに断れないですけど……よりにもよって俺なんですか?」
「ああそうだ。剣技普通、魔力普通、生存能力Sランクのお前にきている」
「……それってつまるところ囮要員じゃ?」
「……………………はっはっは」
ちょっと!? その乾いた笑いはなんですか!?
くそぅ、前に無傷で生き残ったのがアダとなったか!
「まぁ兎に角頼んだぞ。依頼主ももう到着している」
「……その前に一つ聞かせていただいても?」
「ん? 構わんが?」
「……難易度ランクは?」
「S」
「帰ります。オツカレサマデシタ」
「はっはっはっ…………確保ォ!」
瞬間、ドタドタと現れるギルド職員たち。
俺はあっという間に捕縛されてしまう。
ごろりと簀巻きにされ転がされた状態からギルド長に訴えかける。
「いや、よりにもよって囮要員でSランクですよ? 俺、余裕で死にますよね」
「なに、ここのギルド職員誰もがお前を信じている。……どうせ無傷で帰ってくるんだろうなぁー、とな」
「なんだか呆れが含まれてる気がしますね」
「気のせいだろう」
「気のせいですか」
俺は簀巻きにされたまま笑う。
ギルド長も笑う、職員たちも笑う。
「……給料、何割か増しといてくださいよ?」
「分かっている。武運を祈っているぞ」
小さな手で敬礼してくるギルド長。
俺は敬礼し返そうとも思ったが、縛られているので無理だと悟り縄を解いてもらう。
「……隙あり!」
「!? ちぃ! しまった、追え!」
俺は解いてもらった瞬間走り出す。
無論、職場に向けて。あそこまでいけばきっと皆が庇ってくれるだろう。
……まぁ庇ってくれなければ俺の道閉ざされるんだけどな。
「く、無駄に逃げ足の早い!」
「生存能力Sなもので」
そのまま裏口に辿り着き、逃げるぞと一歩踏み出し扉のドアノブに手をかけた瞬間――――――――
「ッ!?」
微弱な電気が走った。
嫌な予感がした俺は直ぐ様手を離して後ずさる。
「……あの、ギルド長。もう逃げないのでもう一つ聞いても?」
俺はトタトタとやってきたギルド長に降参の意を伝えながら訊ねる。
「もしかして依頼主って……これまたSランク冒険者からの依頼で?」
「ああ。それもお前をよく知っている人物だよ。現に、逃げるのを見越されて封鎖されているようだな」
ギルド長がそう言いながらドアノブに目を向ける。
そう、このドアノブ金属性で電気をよく通すのだ。恐らく依頼主がこの扉の向こうにいて電流を流しているのだろう。
「……分かった、逃げないから電流流すのやめてくれ。ギルド長、依頼書下さい」
「ん、ほれ」
俺はギルド長から依頼書を受け取り、そこに魔力を込める。
すると俺の名前が刻みこまれ契約が完了する。
「契約完了。これでもう俺は逃げれない」
OK、というように電流がバチっと一瞬だけ輝いて消失する。
そして扉がギィっと開き一人の女性が姿を表す。
腰まである黒髪黒目、静電気のせいか髪は少しふわふわとしている、スタイルはとてもいい、そんな女性だ。
ちなみに見た目だけなら美人の部類だ。性格いれると反転するけど。
「ひどいじゃないですかぁー、折角お誘いしてるのに逃げようとするなんてぇー」
「……電流ながして感電するような罠を仕掛けるのと、どっちが酷いんだろうな?」
「てへ♪」
「……はぁ。Sランクってこんなのばっかりだからな……まともなのはいないのか?」
ギルド長は苦笑しながら自らの部屋へと戻っていく。他の職員も同様だ。
「……それで? なんでまた俺なんかを選ぶんだよ?」
「やだぁー、分かってるんでしょう? わたしたち、相性いいじゃないですかぁ」
「俺は囮になって逃げる、お前は的になった的を撃つ。……俺が囮じゃなければ相性いいって認めてもいいんだがな」
「それじゃあ相性は悪くなりますよぉ……」
つまりなんだ、コイツは俺を囮程度にしか考えていないと?
いや、分かってたことだけどさ。
「んふふ、冗談はこれくらいにしておいてぇ。わたしの依頼内容が気になりませんかぁ?」
それとこの間延びするような喋り方。
まどろっこしいのだが、聞いていて不快感がないのはなんでだろうな。
「そうだな、気にはなる。どれだけ俺が死にかけるか分かるからな」
「どうせ死なないくせにぃー。……それじゃぁ発表しまーす」
俺が先程サインいた依頼書は討伐用だった。
つまるところなにかを討伐に行くのだろう。……それが何かによって俺の生存率が著しく変化する訳だ。
「このわたし、アミル・ラーニングが受けた依頼なんですけどぉ…………最近付近の森の奥に住み始めた竜種の討伐ですぅー」
「…………竜種? ちなみになんて奴だ?」
「中型のロックドラゴンですぅ」
「…………それ、お前一人でいけないか?」
逃げ道を探す。
「相手はわたしの魔法が通じにくいですしぃー。ダメージを与えるには少し大きなのを使わないといけないんですよぉ」
逃げ道がなくなった。
「要は大きいの使うまで時間稼ぎをしろってことだな?」
「正解ですぅー。本当はわたし以外のSランクかAランクパーティーが行く予定だったんですけど、生憎全員いないみたいなんですよぉ。ですので助かりますぅ」
「……ついてないなぁ俺。それで、何時出発だよ」
「今日ですぅ。あ、荷物とかは殆どいらないですよぉ? 馬車に用意して貰いましたからぁ」
それは助かる。
消耗品は出費が痛いからな。
「それじゃあ行きましょうかぁアウェルさん」
「分かった。ただし、自分の武器ぐらい持っていかせてくれ」
そう言って俺は教官室に移動する。
アミルはギルド正面の広場で待っていると言うので武器を取ってからそこに移動だ。
すると中にはネルことネルウィル・アロンが机に向かっていた。
「…………武器を持って何処に行くんですか?」
彼女は俺に気づいたのか、武器を一瞥したからそう言う。
「同行依頼が来た。今から出発する」
「そう、ですか。……お気を付けて」
「ああ。俺も痛いのはゴメンだからな。他の奴らに俺のことを聞かれたら、同行依頼について行ったと伝えておいてくれ」
「分かりました」
俺はそれだけ言って踵を返して教官室を出る。
そのままギルドを迂回して中央広場へ。
「準備はできましたかぁ?」
「ああ、問題ない。早く言って早く帰ろう」
「うふふ、やる気満々ですねぇ~。それじゃあ、行きましょうかぁ」
そして俺は、命懸けの竜種討伐に赴いた。