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第三十一話 俺は何時も通り

帰ってきました。

いやぁ、茨城行ったはいいんですけど、泊ったところがネット環境が整ってないというね……いいところでしたが。





「さて、集まってくれた冒険者にその他諸君! 君たちに知らせなければならない事がある。つい先ほど、とある職員からの報告で周辺の様子を確認したところ、二種類の魔物の群れがこのセントノールに向かっていることが判明した。方角は北から、ここまで真っ直ぐだ。そこで我々は迎撃態勢をとることにした。ぜひ、諸君らの力を貸して欲しい」


 ギルド長に収集された私たちは、突然聞かされた話に動揺を隠せなかった。

 皆一様にドヨドヨと騒ぎだし、不安の声を上げる。それはすぐに広まってしまい、落ち着きがなくなる。それを見かねたギルド長が、喝を入れようと口を開くと、それを遮るかの様に一人の女性が段に上がった。

 それは私もよく知る人物であり、敵だ。なんと言おうと敵なんです。

 しかし、彼女がこういう状況に置いて最高に頼りになる存在であることは間違いない。

 群を抜いたスタイルに、珍しい黒髪の女性。


「はぁーい、皆さん落ち着いてくださぁ~い」


 間延びした声が室内に響きわたる。

 それは大した音量でもないくせに、人をひきつける。

 

「……アミル、それでは気が抜けるだろうが」


「えぇ~? これでもハッキリと言ってるんですよぉ?」


 何故この街にいるか分からない、Sランク冒険者のアミル・ラーニングがそこにいた。

 魔性の女です。先輩を付け狙う不貞の輩です。


「まぁそういうわけだ。今回は偶然(・・)来ていたSランクが手伝ってくれる。もし参加しないと言うのであれば、住民同様避難してくれて構わない。だが、もし協力してくれるものがいるならば、ギルド内に残って欲しい」


 ギルド長の言葉を聞き、大体ランクがB以下の冒険者が去っていく。だが、それを責めるものはいない。

 仕方がないことだと思います。実力がなければ確実に死んでしまう戦いですから。……私としてはそれよりも、偶然という言い訳が酷く気になります。どうせ先輩絡みで来てたに違いありません。


「そうか、これだけの冒険者が残ってくれたか。感謝する。では、これから担当の地区を決めたいと思う。時間が無いため一度しか言わないからよく聞いておいてくれ。アミル、お前は魔物の侵攻してくる北部を頼む」


「分かりましたぁ。それじゃあ先に行ってますねぇ?」


 瞬間、バリッとアミル・ラーニングは姿を消した。

 アレが彼女のスキルですか。やはり異常に能力が高いですね。あのスピード、魔法使いには相性抜群じゃないですか。


「では他のものだが、コンル――――――――ライン、ミトも北部を担当してくれ。では次、残る外部三箇所と内の守りだが―――」


 ドンドンと役割が割り振られていく。そう言えば、先輩の姿が見えない。まさか、すでに一人で囮なんてやっているんじゃ……いえ、流石にありませんね。もしかしたら、工作隊に混じって奮闘してくれているかもしれません。

 ……先輩は心配してくれているのでしょうか。いえ、愚問ですか。きっと先輩は、私含め知り合い全員の無事を祈っているに決まってる。きっと、普通の人以上に。 


「以上だ。では、各々担当の場所に移動してくれ。ああ、支給品が僅かだが用意されているから受け取っていってくれ。すまないが、私もまだやることがあるので補佐に後は任せる。何かあれば補佐に言ってくれ」


 それだけ言ってギルド長は踵を返して移動する。

 ちなみに私は内の守りを担当することとなった。ダネンさんが指揮をとるらしいので一安心だ。ダネンさんは騎士団にも顔がきくからきっとやりやすい。この短時間で個人の特性を理解し割り振るギルド長の手腕、敵ながらあっぱれとしか言いようがなかった。

 いえ、今はそんな事を考えている場合ではありませんね。生き残りつつ、守り抜かないといけません。欲張りかもしれませんがきっと先輩だってそういうはずです。


「さぁ、全部凍らせましょう」


 その時、視界の端でダネンさんが蒼白になっているのを見逃す私ではなかった。










 俺はギルド長室にてギルド長を待っていた。

 今は残った冒険者たちの役割を分担していたので邪魔する訳にもいかないと思ったからだ。

 暫くすると、ドタドタと人の移動する足音が聞こえ、静まったと思ったらギルド長がやってきた。


「待たせたなアウェル。工作隊への連絡ご苦労。次に頼みたいことがある、もう分かるな?」


「ええ、何時も通り囮でしょう? でも、俺は多数向けじゃないですよ」


「そうだな、それは私も知っている。だからお前に頼むのは別の相手だ」


 別の相手? 群れの魔物たち以外にも何かいるのだろうか。

 それが一体なら、スキル全部使って何とかできるかもしれない。


「アウェル、相手は知ってのとおり群れだ。つまり中には長的な個体だっている」


 納得が言った。

 つまり俺に長クラスの魔物を押さえ込んで来いと言うのだろう。


「でも、流石に空は無理です。地上の魔物ならいけますが」


「ああ、それでいい。空はいずれアミルを向かわせる。もし一日で決着がつかなかったら、暗くなってから闇に紛れて帰還しろ。多分、そう早く解決はしないだろう」


「了解です。ああ、一応持てるだけ資材を持って言っても?」


「構わん。お前が生き残れるように持って行け」


 ギルド長はそう言って踵を返す。

 俺はそれを見てから、荷物を整えようとギルド長室を出る。

 が、ギルド長に止められた。


「本当なら他に数人付けてやりたいところだが、生憎空きがいない。ここに来て熟練者の不足が痛手になった。……今後の課題だな。それと、これが終わったら宴会だ。楽しめる程度に疲れて帰ってこい」


 一日じゃ終わらないとか言ってたのは誰だったか。

 ギルド長はギルド長なりに心配してくれているのだろう。適材適所だというのに。俺は一人じゃ戦えない。かと言って集団戦でも相手が多数ならば足手まといになるだけだろう。一撃で数を減らせない魔法なんて使いようがない。こう言った迎撃戦ではいかに素早く敵の数を減らせるかだ。

 罠は仕掛けた、迎撃の準備が出来た。なら俺に出来ることはあと一つ程度。

 指揮に妨害を加える事。恐らく護衛のような魔物が数体いるだろうが、小数ならばなんとかできる。


「じゃ行ってきますねギルド長」


 それだけ簡潔に伝え、俺は教官室へと移動する。

 中にある備え付けの資材庫からありったけのナイフを取り出しカバンに詰める。ついでに簡易式の遠征セット、更に無駄かもしれないが折りたたみの盾を一式持つ。魔物の種類によっては紙のように破られるだろうがないよりましだ。

 次に俺が行ったのはギルドの資材置き場。既に工作隊が幾つか持って行ったので残り少ないが使えるものはまだまだある。俺は幾つか網とロープ、それに加えて伸縮機能のついた鉄製の杭に廃棄予定の小さな魔石を幾つか貰って手に取りカバンの中に。


「もうカバンは限界、行くしかないな」


 俺は資材置き場を出てギルド出入口から外へ出ようとした。

 その時、偶然俺に視界に銀色の彫刻が目に入った。


「……使えるか?」


 使用用途が微妙なところだったが、もしかしたらと思い脇に抱えて走り出す。

 まぁ少し重いが、身体能力を少し強化しているので全力で投げたりしない限り問題はない。

 さて急ぐか。今の時間はお昼前。早いところ指揮系統を崩さないと意味がなくなる。

 魔物の長と言うものは、それなりに長生きし力を持ち、知性すら備えたものだ。流石に人間ほどとまではいかないが、統率するくらいならば難なくこなす。だからその長さえ足止めしてしまえば統率は崩れ幾分か迎撃しやすくなる。


「馬車……はダメか。道中で馬が暴走しそうだ。となれば走るしかない」


 遠征セットの中から携帯食料を取り出しかぶりつく。正直食欲があるわけでもないが、摂れる内にエネルギーを補給しておかないといけない。後は水を飲んで押し流す。

 走りながら、さらに魔力を体中に循環させて身体能力を僅かに上げる。強化魔法より効力はないが、その分防御力があがるし魔力の消費も少ない意外と便利な循環の使い方。

 以前ファウストと戦った時もこれを使った。循環故に外に魔力は殆ど放出されないから燃費が素晴らしいのだ。おまけに魔力の幕が出来るので障壁を使うまでもない。まぁ防げて下級レベルの魔法と普通の剣技一撃分だけだが。

 俺はその状態でセントノール北部へと駆ける。道中何人か知り合いを見かけたが、声をかけることなく門番の元へ。

 事情とギルドの資格書やら教官認定書なら見せて名前を控える。それを終えた俺は門から外へ出て北部へと向かう。


「少し逸れて近づくか」


 遠くに見える黒い帯のようなもの。恐らくあれが魔物の群れだろう。彼らは一直線にコチラに向かっているから、俺が正面から行くわけにはいかない。一秒で死ぬと思うきっと。

 俺は横から攻めるように魔物たちの群れから少し逸れつつ走る。恐らく長クラスは群れの真ん中か、後ろから特殊な方法で意志を伝えているはず。長クラスの魔物は総じて知能が高いからな。


「真ん中にいられると厄介だな。挑発しても十体ちょっと一緒に連れていかなきゃならない」


 後ろにいるならば上手い具合におびき寄せられるが、真ん中だと確実に他の魔物も気づいてついてくる。

 

「ま、その時は役立ってもらおうじゃないか」

 

 ポンポンと脇に抱えた物体を叩く。

 それは、幼女の形をして銀に光り輝いていた。





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