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第三十話 祭り二日目……ではなく


 街が蹂躙されていく。

 祭りの騒ぎはベクトルを変え、純粋な恐怖からくる悲鳴へと変わってしまった。

 人は必死に走り逃げる。転び、踏まれ、喰われ。

 人とは違う形のモノが外から、空からやってきている。

 それは、普段冒険者が敵とし収入とする魔物たち。

 街が燃えている、喰われた家族の仇に復讐の心も燃えている。

 今から対応しようと動く者がいるがもう遅い。

 魔物は既に街の中。建物を粉砕し全てを無に帰していく。

 殺してもまた出てくる。殺しても数が減らない。殺しても、復讐心はおさまらない。

 当然だ、幾らだっているのだから。

 殺しても後ろの群れから、殺しても多すぎて減ったようには見えず、殺しきれていないからまだ殺したいと願う。

 友人たちが戦っている。傷ついていく。そしていずれ、何処にも姿が見えなくなる。


「――! ――――!」


 声が出ない。

 力もない。

 何も出来ない。

 ()は事前の用意がなければ、何も出来ない。

 そして最後に、視界全てが黒で埋まった。










 祭り二日目、疲れて家に帰りグッスリと寝ていた俺だが、ふと感じた嫌な感覚に怖気を感じ跳ね起きた。何か嫌な夢でも見ていた気がするが思い出せない。

 だが、嫌な夢であった事は断言できる。何せ体はどこか震え、意識は少し朦朧としているのだから。起きたばかり故、覚醒していないだけだと思いたいが違う気がしてならない。

 しかしなんだと言うのだろうか。体を起こした今でも、何処か頭の中で警報がなっている。

 窓から外を見てみると、すでに祭りは始まっており耳をすませば人々の話し声がガヤガヤを聞こえてくる。至って普通だ。昨日となんらかわりはしない。変わりはしないが……


「なんだ、この嫌な感じ。これに似たのを何処かで――!?」


 思い出した。

 アミルと初めて遭遇した日だ。

 寝起きではなかったが、道を進むに連れてこれに似た感覚が強くなり、結局Sランクの魔物に襲われる羽目になった。


「そうだ、あの感覚だ。でも、前より遥かに不快感と言うか怖気が強い?」


 これは『脱兎のごとく』の恩恵。

 満月か、もしくは満月が近くなると稀に起こる生き残る本能強化の結果。

 逃走用のスキルを持つ俺が警戒しないといけないほどの危機が迫っているとでも言うのだろうか。それが本当だとすると相当ではないか? 何より、一回分しか残っていないハズのスキルからここまで警告されるのが異常だ。

 それに、満月は後四日後くらいにしかならないはず。近いと言えば近いが、そこまでではない。やっぱりおかしい。


「取り敢えずギルド長に報告か。万が一があっても嫌だしな」


 俺は一応教官服に着替え、軽く装備を整えてからギルドへと向かう。

 この嫌な感覚は時間が経つ事に強くなっている。知らず知らず歩く速度は早くなり、いずれ駆け足へと変わる。すると何時もの看板が見えてくる。今は準備中なのか催し物はなくガラガラだ。恐らくギルド長は中にいるだろう。俺の予想がただの勘違いであって欲しいと願いながらも、その願いは叶わないと冷静な自分が否定する。

 らしくもなく扉は乱暴に開け、ギルド長室に入る。


「ど、どうしたアウェル。顔面蒼白だぞ、一体何が……」


「ギルド長、ドッペルを四方向に一体ずつ派遣してみてくれませんか? それか偵察ができるなら他のだってなんでもいいです。兎に角何か偵察が可能なものを!」


「何があったか知らないが、分かった。お前がそこまで焦るとは、相当なことがあったらしい」


 椅子に座ってお茶を飲んでいたギルド長は、パチンと指を鳴らす。

 すると陽炎が現れ、あっという間にギルド長の形へと変わる。それが八体。


「偵察で方向を完全に指定しないと言うことは、何処に何があるか不明と言うことだろう? ならば四方向ではなく八方向にすべきだ」


 ギルド長は冷静にドッペルたちを各々の方向へと送り込む。

 俺はそれを見て少し安堵のため息をもらしてしまう。


「さて、一体なにがあったアウェル?」


 問われれば答えるべきなのだが、唯の勘だと伝えるべきかいなか少し迷う。が、それで人が死んではやりきれない。ここは全て簡潔に伝えるべきだと判断し、今朝の出来事に加え過去のケースも説明内にいれて伝えた。

 ギルド長はふむと顎に手を当て考え込む。


「ま、勘違いだったら、それこそ明日の夜時間を貰おうじゃないか」


「ギルド長……ありがとうございます」


 思わぬ優しさに先程の怖気やらが軽くなる。

 幾分か落ち着いてきたため、深呼吸をしてから通常モードへと戻ろうと気を引き締める。

 俺は何時も使わせてもらっているコップを手に取り紅茶をポットから注ぎ飲む。どうやら少し煮出しすぎたのか渋みが強いが、今の俺には丁度いい。

 それから無言の時が過ぎる。時間が経つにつれて俺とギルド長の間にあった緊張感は薄れゆき、やっぱり勘違いだったのではと思ったその時だった。


「はは、喜べアウェル」


「分かりましたよ、明日の夜でしたよね?」


 まぁいいさ。勘違いだと分かったのだから。

 だが、どうもギルド長の勝ち誇った顔がおかしい。何処か焦っているような感じだ。


「いいや、明日の夜は自由だ。だがまぁ、くつろぐことが出来るかはこれからの対応によるがな」


 まさか、とギルド長を見つめると、タラリと冷や汗が顎へと流れた。


「第一級警戒、いや第一級迎撃態勢だ。魔物、最低でもAランクレベルの群れが来る。今ドッペルを常駐騎士団に加え街の入口を守っている警備にも派遣している。アウェル、お前は出来るだけ多くの冒険者に呼びかけてくれ。なるべくならばAランクパーティー以上、最悪Bでも構わない」


 ギルド長の言葉に愕然としてしまう。

 まさか、本当に当たりだったとでも言うのか?


「私は今から職員と話し合う。すぐに鐘を鳴らすから冒険者は集まると思うが念のためだ――うむ、やはり招集はいい。それよりも工作隊に連絡して街外部に大型の罠を仕掛けろ。集中すべき方角は北だ。資材はギルドから好きなだけ持って行け。魔物の種類は中型地上歩行の種と、中型の飛行種だ。その後お前は私の元の来てくれ。では任せたぞ」


「……了解。工作隊に連絡し外部に罠を仕掛けさせます」


 俺は混乱を理性で押し込め、早足にギルド長室から出て外へと向かう。

 するとギルド長が、


「ああ。それとアウェル」


「なんです?」


「お前の勘と……運か? も役に立つ。助かったぞ、誇っていい。御陰で被害を出さず収拾できるかもしれん」


「っ!」


 それだけ言ってギルド長は奥へと引っ込んでいった。


「く、不意打ちだなぁオイ。大丈夫か俺?」


 こんなみっともないスキルを褒めてくれるとは、どうして中々良いところをついてくるのかね。

 取り敢えず、動き出そう。手遅れになる前に、出来るだけ魔物の数を減らせるように。最悪、俺も出ることになるのだろうか。ネルは? コンルは? ダネンの爺さんは? ついでに、ラインやミトや俺の元生徒たち。


「……勘弁してくれ」


 止めたいという気持ちでいっぱいだ。戦うな、戦線に出るなと言ってしまいたい。だが、俺に止める権利なんざないだろう。俺は冒険者として生きることを肯定した人間なんだから。

 かと言って、俺が頑張るとしても大した事はできやしない。大多数対一なんて状況では俺の逃げスキルもあまり意味をなさなくなる。アレはあくまで身体能力等が上がるだけで、360度囲まれ同時攻撃されれば逃げ場がないのだから。というかそれ以前に発動時間が切れる。

 出来るとすれば、それこそ俺の特性を発揮できるであろう囮役。それも群れの長などの単一の大物に対して。一対一か多対一、または同数での戦いでこそ俺のスキルは輝くのだから。


「兎に角、工作隊に連絡をいれないとな」

 

 ゴーンゴーンと緊急事態を知らせる鐘が鳴り響く。

 マズイと思い、俺は工作隊の待機する一室に入る。

 何事だと室内の人員が俺を睨んでくるが気にしている場合じゃない。

 迎撃態勢時に許される馬車の使用数などを思い返しながら告げる。


「ギルド長から連絡係を仰せつかってきましたアウェル・ヴェレンです。現在このセントノールに魔物の群れが襲来します。敵の数は不明ですが、地上歩行の中型種と、飛行可能な中型種が標的になります。今から十分後、馬車を二十台用意し、その内四台に出来るだけの資材を詰め込み四方向へ移動。第一斑は北へ資材を詰め込んだ馬車を引き連れて妨害工作を。第二班は同じく様に東へ、第三版第四班も各々南と西をお願いします。ただ、メイン北になりますのである程度仕掛け終わったら北に集結し罠を強化してください」


 すると一番階級が上だと思われる盗賊面の男性が返事ついでに聞いてくる。


「おうよ、分かった。……ところでアンタ、アウェルって言ったよな?」


「ええ、それがどうかしましたか?」


「いや、最近よく聞くから気になってたんだ。罠に関して詳しいと聞いていた。アンタは今回、どんな罠を使用すべきだと思う?」


 いきなりの事に少々戸惑うが、考えを整理して口に出す。


「中型種には足止め系は無駄かと。基本中型は力が強いですし、使うなら落とし穴。それも中に杭や槍を設置しておけばより効果的かと。最悪、槍などの効果が無くとも、落ちてしまえば味方であったハズの魔物に踏みつけられ死亡するでしょうし。魔物がが自分たちの仲間を踏み台にすることも踏まえて何段階かにも分けた方がいいかもしれません」


「ほぅ、いいな。だが、問題は飛行種だ。空を飛んでるんだろ?」


 確かにそこがネックだ。 

 地上は地面という罠を作りやすいパーツがあるのだが、空にはそんな物が一つもない。それこそ魔法使いが遠距離攻撃を放ち撃墜するほかないのだ。


「……ソッチは捨ててもいいかもしれませんね。高台はどうせ他の部隊が作るでしょうし、対空用の資材もないですから。できて良いとこ、進路制限用の障害を作って魔法使いに撃たせやすくするくらいでしょうかね」


「ははっ、捨てるときたか! だが、俺も同意だ。ここには空に罠を作るだけの材料が揃ってねぇ。罠とはちょいと違うが、進路を制限する補助を作るか。ついでにその補助に槍をつけておいてもいいかもしれねぇな……よし、行くぞお前ら!」


 男性の声に、全員が気合の入った声で返事をする。

 それが終わると直ぐ様動き出し、各々道具を持って移動を始める。


「よし、コッチは任せとけ。お前も上手くやれよ?」


「ええ、まぁ何をさせられるかわかってないですけどね」


 彼はそりゃあ災難だ! と笑いながら部屋を出ていった。

 さて、では俺もギルド長の所に向かうとしよう。





ゴールデンウィーク、ちょっと旅行に行ってきます(´ー`)/~~

ですので更新出来るかどうか……

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