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第二十六話 祭り前日

一話付け足しです。





 俺が目を覚ますと、もうそこはセントノールだった。

 ラインが言うには、起こすのが悪いと思うくらいに寝ていたらしい。そこまでグッスリと眠っていたのか俺は。

 悪い、と一言謝るとラインは苦笑いする。一体なんだと言うんだ。


「ま、まぁそれよりもギルドに行きましょう。以来完了の報告をして家に帰らないと」


「恋人が待ってると?」


「はい。遅れると不機嫌になっちゃって……」


 何気なく聞いてみたが、やはりラインとミトのカップル同棲してるのか。

 この世界の若いのは凄いな。いや、俺だってまだ二十歳前だけどさ。

 それから俺たちはギルドに向かう。ギルドはセントノール北部のあり、盾の様な看板に剣と斧に槍が交差したレリーフが目印となる。

 

「それにしても、やっぱり気になるな依頼主が」


「確かにそうですね。トルマリンと薬草……どっちかがオマケなら薬草でしょうし、トルマリンなんて一体なにに使うんでしょうね?」


「悪用はされないだろうが、電気、雷と聞くと嫌な予感しかしないんだよな俺」


 依頼書に書かれた内容は全てギルドに保存されており、その物品を使った犯罪があればそれを採ってくるよう依頼した人に聞き込みが入る。と言っても、それですぐに事件が解決するわけでもなく冤罪も起こりかねないから何とも言えない。

 それと電気、雷はアミルを連想させる。

 なんだかな、とぼやきながら歩き続けギルドへと到着する。木の扉を開け、依頼受付ではなく報告受付の方の窓口に行き依頼書と物品を提示する。


「はい、お預かりします……依頼通りの物品です。依頼完了を受領しました、お疲れ様でした。こちら報酬となりますのでお確かめ下さい」


 そう言って受付のおば――オネエサンは報酬の入った袋を二つ渡してくる。

 それをラインが受け取り、一度受付からギルド内の適当なテーブルにつく。


「報酬は銀貨80枚でしたから丁度ですね」


「ああ。俺は24枚だが56枚あったんだよな?」


 何故俺が24枚なのか。それは同行依頼の規則に乗っ取るからだ。

 同行依頼は、誘った者と同ランクだったり上のランクだった場合報酬は全体の30%となる。また、誘った者よりランクが低いと40%。まぁ下のランクを誘える奴なんてSランクとかしかいないがな。

 

「はい大丈夫です。アウェル教官、今日はありがとうございました」


「礼はいい。俺、特に何もしてないだろう。むしろ報酬なんて貰っていいのか迷ってるところだ」


「いえ、ぜひ受け取ってください。けじめです」


 なんのけじめ、とは聞きはしない。


「分かった。それじゃあもらっておく。これで俺は帰るが、ラインは――愚問だったな」


「はい。勿論僕も帰ります。今日はゆっくり休むつもりです」


 俺は分かった分かったと手を振り、惚気けられても困るとぼやく。

 そして軽く別れの挨拶をしてギルドの外へ。


「さて、今日は俺も休むとするか。彫刻はまた後でだな」


 帰り道、果実を数個買ってから家へと帰った。







 それから数時間休憩をとり、今日の予定を考える。


「そう言えば、ネルに頼んだ弁当の件は問題じゃなくなったな。ちょっとした収入あるし」


 銀貨20枚ちょっと。これでだけあれば三日位普通に食べることができる。

 だが、流石に弁当を断るのは悪い。だが、嘘をついたみたいで嫌な感じだ。


「まぁ、しょうがないか。ここで断ると氷漬けのビジョンが簡単に浮かぶしな」


 はははと乾いた笑みを浮かべた後、気分を変えようと買ってきた果実に手を出す。買ってきたのはリンゴが二つ、オレンジ三つ。この二つは安売りだったからで特に選んだ意味はない。

 齧ると程よい甘さと酸味が口の中に広がる。ここの世界に生まれてからと言うもの、ケーキやらは高くて食べる機会もなくオヤツや小腹がすいたと言ったら果物を食べていた。

 まぁ凄い美味しいんだけどさ。地球のと比べても数段上をいくだろう美味しさだ。

 そうしてあっというまにリンゴ一つを食べ終わる。


「さて、と。もう時間も余りないしさっさとしないとな」


 道具を手に持ち、再び削り始める。

 大体出来てきた全体像は、徐々に柔らかな人の形へと変わっていく。まぁそれも当然だ。なにせ魔力を使ってイメージ通りに削っているのだから。そもそも、銀を削って彫刻を作るなど、魔力がないと俺には出来ない。

 『観察眼』で全体像と俺のイメージを照らし合わせ、どこがどれだけおかしいかを算出、修正している。教官首になったら、彫刻家とかでもやっていけるかもしれない。


「後は顔と、胴体の服の部分か」


 ガリガリと削りつつ、完成後のギミックについて考える。

 ちょっと複雑な構造を彫刻内に刻み込むので結構魔力を使う予定だ。


「上手くいけばいいが……やってみないと分からないか」


 今まで使ったことのない技術を使うのだ、成功率は神のみぞ知る。

 失敗すれば、像が完全にはじけ飛ぶこと間違いなし。

 成功すれば、きっとギルド長に顔を驚愕で染められるはず。


「期待に添えるよう、頑張らないとな」


 俺は気合を入れ直し、作業に取り掛かった。

 ――残り日数約三日。






 残り二日。


「お邪魔しまぁす。貴方と女神アミルですよぉー」

 

 鍵をかけたハズなのに無かったかのように入ってくる黒髪の女性。

 それを見てため息を一つつき、


「疫病神の間違いだろうが」


「まぁ失礼ですぅ。折角遊びに来たのに帰っちゃいますよぉ?」


 帰ってください。


「……無言で入口見つめないでくださいよぅ」


「見てのとおり、セントノール祭に向けて仕事中だ、構ってる暇はない」


「むぅ~、分かりましたよぅ。邪魔せずにくつろがせてもらいますねぇ」


 どこが分かったのか説明して欲しい。

 家にいられるだけで十分集中力が奪われ邪魔なのだが。

 だが、ここで素直に出ていくような奴だろうか、いや、ない。どうやって入ってきたか知らないが、入られてしまったならば放置するのが一番いいのか。


「何でこんな時に……」


「うふふふふ~」


 俺はヒシヒシと視線を感じながらも、何とか彫刻を完成へと近づけた。






 残り一日。


 ようやく彫刻自体は出来た。会心の出来だと自負している。

 ちなみに表情はドヤ顔で、服装はいつぞやのゴスロリスタイル黒バージョン。完璧である。ゴスロリ姿はよく見たが、黒はあまり見ないクセにインパクトが強かったので鮮明に思い出せる。


「後は台座と彫刻本体だけだな。台座は売ってたのをちょこっと改造するだけでいいし、となると軽量化の印は消さないで貰ったほうがいいか。問題は彫刻本――「邪魔するぞアウェル」――体じゃなくて本人きちゃったよオイ」


 玄関から聞こえた声はまさしく彫刻のモデルであるギルド長。不味いと思った俺は急いで彫刻を下に敷いた布ごとくるみテーブルの下へ。ミシっと音が聞こえたが聞こえない。


「ああ、そこにいたかアウェル」


「どうやって鍵うんぬんはもういいとして、一体なんの用です?」


「それだがな。実はちょっかいをだしにきただけだ」


「鬼か!!」


 このロリ上司め。自分で任せといて妨害たぁどういう了見だ。

 ギルド長は俺の反応を見て楽しそうにして、


「うむ、満足だ。最近お前をからかっていないことを思い出してな。やはりからかうならアウェルに限る」


「他の教官で遊んでください。俺はいいので」


「はっはっは。では私は帰る。その彫刻、完成させろよ?」


「!?」


 そう言って帰っていくギルド長。

 本当に観察力と言うか、余計な事に気がつく人だ。テーブルの下、しかも俺以外からだと死角になる位置だというのに。まぁ、包んでいたからどんなものかまでは分かっていないだろう。


「……邪魔が入らないうちにさっさと完成させるか」


 俺はテーブルの上に彫刻を置いて包みを解こうと手をかけると、


「下克上ですわ! そしてお邪魔しますの!!」


「すみませんすみません! それとお邪魔します!」


 ほほぅ、今日の運勢は最悪と見た。

 というか貴様ら、出だしの言葉が逆だ。普通は先に「お邪魔します」だろうが。

 そう思いつつ、解こうとしていた彫刻をテーブルの下へと戻す。そして室内に入ってくるファウストとハーレを見て、


「お前らまで何の用だ。……と言いたが、まさか本当に下克上のために家まで押しかけてきたんじゃなかろうな?」


「? それ以外になにかありますの?」


 さも当然のように言われても。


「すみません、何故かファウストさんがどうしてもと言って。……止めたんですよ?」


「分かってる。大丈夫さハーレ、お前の事は信じてる」


 唯一の頼みの綱を嫌悪などするものか。むしろよくやってくれていると思っているぞ。ハーレがいなかったら、この家ごと燃やされていたかもしれない。発想が常人と違うのが天才だからな。


「取り敢えず、だ。静かにしとけよファウスト。俺は手を滑らせたくないんだ……」


 仕舞い忘れた彫刻の道具に視線をやりつつファウストに懇願する。

 頼むよ、これ以上徹夜のテンションである俺に負担をかけないでくれ。これ以上つつかれると爆発しかねん。


「う、うぅ。仕方ありませんわ! また来ますの!! 次こそは覚悟しておいてくださいまし!」


「って、待ってファウストさん!? あ、えと、頑張ってください。ボクも頑張りますから!」


「ああ、ハーレ。お前だけなら何時でも来い歓迎するからな」


 はははと二人で笑い、ハーレは慌ててファウストを追っていった。 

 さて、やる気がそがれてしまった。であれば、今のうちに少し眠っておくか。どうせ今日も徹夜になるだろうし。


「明日だし、な」

 

 俺はリビングから離れ自室へと移動する。そしてベットに横になり、ほんの少し眠ることにした。


 明日はセントノール祭。





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