第二十三話 少し残念な結果
ギルド長からインゴットを渡された翌日。
俺は報告がまだな生徒たちの結果を待ちながら、どういうものを作るか構想を練っていた。
ちなみにセントノール祭とは、この街が誕生した日に行われる祭りだ。確か開催期間は年によって違い、今年は二日だった気がする。
この俺に渡されたインゴットの大きさは縦一メートル、横三十センチ。奥行もまた三十センチ。作るものはなんでもいいらしいが、この大きさでは彫像でも作らなければ勿体ない。
額に手を当て考えていると、念の為に仕掛けておいた対ファウスト用の罠が発動したことを感知した。ちなみにファウスト対策とは、ファウストの魔力がそこを通り抜けたときに鳴る鈴の様なもの。
それにかかったと言うことは、魔力を放ちながらここに向かっているということに他ならない。
故に俺は迎撃の準備に入る。ドアに小さな板を設置し、その上にバケツを置く。中身は空だ。そしてドアに一番近いコンルの席に隠れながらファウストがくるのを待った。
多分、ファウストが来たと言うことはハーレも一緒だろう。災難だな、ハーレよ。
そして遂に――
「今度こそ下克上ですわ!!」
と叫びながらファウストが入ってくる。既に手には中々の密度の炎弾が存在し、俺を発見したら速攻で放つつもりだったのだろう。だがそうはいかない。そんなファウストの頭の上に、設置されたバケツが落ちる。
すると今度は、それからファウストを庇いバケツの下から離脱するハーレの姿が。二人は二、三回転がってから状況を立て直そうとするが、その位置は不味かったな。わざわざ近づいてきてくれるとは。二人は転がる際、コンルの机の方に来てくれたのだ。
「せい!」
俺はわざわざやってきてくれた二人の頭にチョップを繰り出す。
二人は突然の事に反応出来ずアイタ!? と言いながら頭を抑える。まぁちょっと魔力込めたから威力はあったからな。だが正当防衛だから俺は悪くないはずだ。
「さて、今回も失敗したわけだが?」
「きぃぃぃ!! またですの!? 何で襲撃がバレてますの!? ま、まさかハーレ貴方!!」
「ち、違うよ!? ボクは何もしてないよ!?」
「ハーレは本当のことを言っている。俺がお前らの襲撃を察知出来たのは罠の一種を仕掛けておいたからだ。人となりを知っていれば、罠を仕掛けるタイミングも分かるってな」
ギン! と強烈な視線を向けてくるファウストだが、もう慣れたものだ。
ハーレは相変わらずオロオロしている。お前はそろそろ慣れておかないと大変だと思うぞ?
口には出さないがそう思いながら、対照的な二人を見て苦笑した。
「さて、それで試験はどうだった?」
「ふん! そんなの聞くまでもありませんでしょう? 勿論、合格しましたわ!」
「ファウストさんの言うとおり、何とかAランクパーティーの資格をゲットしました」
「そうか、おめでとう。これでお役目御免だな」
だが、少し引っかかる。合格したのは嬉しいのだが、一体何が気になるというのか……ああ、そうか。ハーレは今、Aランクパーティーの資格と言ったのだ。
てっきりファウストの事だ。Aランクソロでも取っているかと思ったんだが。
するとファウスト、俺の言いたいことが分かったのか少々照れくさそうにしながら言う。
「わ、わたくしにだって夢がありますの。どうせ目指すのなら、今からの方がいいでしょう? というか、誰がどうこう言おうとそれでいいのですわ!!」
何故か最後、怒鳴り散らすように言うファウスト。もうすでに誰かに何か言われた後だったか。それにしても、夢のためにAランクパーティーになったか。どんな夢なのか聞いてみたいが野暮かもしれない
「そう言えば、キースはどうした?」
「ああ、ウェルストンでしたら合格してましたわ。今ごろコンル教官に切りかかってると思いますわ」
成程、コンルも俺と同じ目にあっていたか。ま、コンルの事だから嬉々として応戦してるだろうな。
「まぁわたくしも諦めた訳ではありませんの。何時、何処で襲われるか覚悟しておいてくださいまし?」
「なぁハーレ。……期待してるぞ?」
「ああ! 難しい期待をされてしまった!? ボクには難しすぎますよッ!」
取り敢えず、この二人の報告を持って確認終了。どうやら、他の訓練生たちも前回落ちて此処にきた八名は合格はしているらしいので一安心だ。他にもキースが合格していることから、彼らのパーティーにファウストとハーレ他二名のパーティーも合格している。恐らく、貴族二人がソロを受けずパーティーを受けた事が大きいのだろう。俺はきっと、貴族二人はソロしかとらないと思っていたが実際はその逆だった。逆にソロを取らずパーティーのみを取ったらしい。ファウストなんかは夢の為に。
性格に難アリの二人だが、その身に持つカリスマは本物だ。二人がいるだけで場の空気は和らぎ味方を安堵させ士気を上げる。
だが、やはり問題が浮かび上がったな。今まではこの人数で教官としてやっていけたが如何せん持てる授業時間が少なくなる。となれば教官の増員が必要だ。とはいえ、この間ギルド長が申請書出してたのは見たし早い内解決するかもしれない。
なんだかんだでギルド長も訓練生の事を考えてくれている。
こうして、今週は半数以上の合格の知らせを受け、ギルド試験に向けた訓練所の仕事はしばし休業。
悔しげな顔をして俺たちの所に来た訓練生の顔を思い浮かる。毎回あったことだが、やはり辛い。教えきれず、鍛えきれなかった罪悪感が胸に広がる。
「……大人って便利で、汚いなぁ」
どうしようもなかった、と割り切れもせず、他の理由を探しそれを理由としようとする。中途半端で実に醜い。
苦々しいものが体に染み渡るのを感じながら、仕事だと割り切ってシルバーアートに取り掛かることにした。
訓練所での業務を終えた俺は、インゴットを抱えて家へと戻った。実際重さがふざけていたのだが、台車に加え軽量化の印をギルド内でというか教官室に職員を呼んで裏に彫ってもらった。後は完成後これを消せば重量は元通りだ。
今だ残る苦々しさを無視しながら、ガラガラと台車をおして帰る俺だった。
そしてリビングのテーブルの上にインゴットを置き、彫刻にせよアクセサリーにせよ道具が必要だと思い帰りに買った道具を一式並べておく。
「さぁて、どうしたものかな」
前世でもそんな事をしたことがない俺はインゴットの扱いに困ってしまう。
やっぱりアクセサリーじゃなくて彫刻にするべきだと思うのだが、モデルもなにもあったものじゃない。ネルに頼む? いや、止めておこう。冷たい目で見られるかもしれない。じゃあコンル? 婚約者に狙われそうだから却下。後はアミルとダネンの爺さんとマルタさん。却下。アミルは宣伝にはいいかもしれないが作ったあとが面倒くさそうだ。他二人は絵的にダメ。
「……いるじゃないか。目をつむってもハッキリと脳裏に浮かび上がる人物が」
俺の恩人であるロリ上司。
胸を張ってふんぞり返っている姿なんて繊細すぎて笑えてくる。方針は決まりだな。後は削りだすだけだ。削るにせよ、上手く削ってインゴットの余りを貰ってもいいだろうか。魔力をよく通すし便利なんだよな。
「まぁそれは後でギルド長に申請するとして、今は作業に取り掛かろう」
作るからには普通のものでなく、他人にできない発想を取り入れたい。こんな時こそ、今まで役に立たなかった前世の記憶が役に立つんじゃないか。経済やら農業やらは知識としては今一過ぎて使い物にならなかったからな。
そうだな、前世には角度を変えてみるとそこに描かれているものが違うなにかに変わるようなものもあったし、そこまでいかなくともいいから近しいものを作ってみようか。
例えば、服の部分は形だけ整え、肌の部分を表面から少し削る。髪もまた肌より少し深く削り、正面から見ないとギルド長には見えないような彫刻とかどうだろう。
これなら使用する銀も三分の一程切り出して使えばいい。余った物が貰えるというならこれにしよう。
「だが、却下されたときの事も考えておくか」
もし、余りものは返せと言うのならいっそのこと全部スッキリ使ってしまおう。まぁギルド長のことだからくれそうな気もするが一応な。
さて、全部使うとなると、百八十度全部を削り取り人の形にする普通の彫刻にするべきだな。だが、そんな普通なものではつまらない。ギルド長が期待していると言っていたのだ、出来るだけ頑張りたいものだ。
そんな大したものが出来ずとも、努力や工夫の後が見られれば満足気に笑ってくれる人だからな。
「だがまぁ、たまには驚かせてから笑わせたいよな」
ホント、どうしたものか。
奇抜さを求めるとなると、『未来のギルド長』とかどうだろうか。……ダメだ、あの姿から成長したギルド長を想像できない。『回るギルド長』とか? 台座に仕掛けを作って、作動させるとクルクル回るとか。いっそのこと台座も自動で動くようにしてみようか。だが、ネジが動力源では今一足りない気がする。
なら『喋るギルド長』とか。声を魔道具で録音して、スイッチを押すと喋り出す。これだとギルド長信仰者共がぜひそれを我らがトレードマークに!! とか言って暴動を起こしかねないか。
「ぬぅ、一体どんなギミックを取り入れるべきか……」
俺は一晩中考え抜いた。
重量の問題が指摘されましたので、後付ながら修正しました。