第二十二話 何故シルバーアート?
そしてやってくる試験の日。
今日は今月最後のギルド試験。
ここらで一度、ギルドについて話しておくべきかもしれない。
俺たちの街セントノールのギルドは、偶数月の第一週と第二週に試験を開催し冒険者を募る。昔は毎週やっていたらしいが、挑戦者も多い上、覚悟も大してない者が気楽に来たりした結果今の状態になっている。しかしギルド長はなんだか他にも理由がありそうな顔をしていたが、一体何なんだろうか。
まぁそれは置いておいて今は第二週。
今月最後のチャンスなのだ。
それが終わると、俺たち教官は大した仕事が無くなり暇になる。無論、出勤もするがあるのは簡単な書類整理だけ。まぁ俺の場合ギルド長と隣街のギルドやらに行って色々したりすることが多い。
それとこの世界のおけるギルドの立ち位置。
この世界においてギルドとは全ての中立を保つ機関だ。依頼は内容と依頼主を確認し問題がなければ何処からだって受けるし何処にだって支部がある。
依頼のルールは良くある物語の通りだ。お金、または素材を報酬として貰う。失敗すれば違約金が発生する。もし、依頼の最中で死亡してもギルドは一切の責任を負いません。まぁ依頼に違反があったりした場合は別。
俺の知っている事と言えばこのくらいだろうか。ランクは前に伝えたし……ああ、昇格試験についてはまだだったか。昇格試験は、それ用の会場があるからそこに行って申請。許可が出れば昇格試験を受けることが出来るようになる。
確か、自分のランクの依頼を十こなすか、それ以上のランクの依頼を五こなすかだったはず。ちなみに『それ以上のランク』とはAランクパーティーがSランクを受け、受諾された場合のみの条件になる。俺の場合同行依頼でSランク権限使って連れて行かれる事が多いので無駄にランクだけは上がっている。昇格試験を受けていないのに上がっている理由も恐らくSランク権限。
……そんな贔屓嬉しくねぇよ。教官と言う安全職選んだ意味がねぇよ!!
だから俺が自らギルドに行くことは少ない。
「さて、アイツらは大丈夫だろうか」
俺は一人、教官室の自分の席で資料をまとめながら呟いた。
今日が試験日、一応ファウストたちには教えれる事は教えたつもりだし、ハーレも自主トレと言うことで頼まれていたトレーニングも行なった。最初は他の生徒も来ていたが、最後まで残っていたのはハーレだけだ。
そのトレーニングの内容だが、ひたすら俺が攻撃し、ハーレが受け、避けを淡々と繰り返すと言うもの。やはり、効率のいい回避方法も、受身の取り方も実際体に叩き込むのがてっとり早いと思ったからだ。
結果、いい動きもするようになったしタフにもなった。俺もまた、見直す機会を得たことで効率の上昇に成功。生存率がさらに高まった。ファウストの相手も頼めるし、自分も成長できるし、ハーレさまさまである、今度何か奢ってやらねば。
すると、突然教官室のドアが開き、ちみっこい人影が室内に入ってくる。
「おおアウェル。丁度いいところに来たな」
「いやいや、来たのはギルド長ですから。……何のごようですか?」
入ってきたのはギルド長だった。
ギルド長は何か長方形の物体を脇に抱えて俺を見ている。
「なに、約一週間後はセントノール祭だろう? 毎年、我がギルドからも出し物をするだろう?」
「そう言えば、もうそんな時期でしたか。確か去年は焼きとうもろこし屋でしたよね?」
何を思ったのかギルド長が提案し、大多数が賛成した焼きとうもろこし屋。大盛況でした。
俺にはそこまで人気を得た理由が分からなかった。
「今年はちょっと趣向を変えることにしてな。今回は、これだ!」
そしてギルド長はドン!と長方形の物体を床に下ろす。
それは未だ布でくるまれていて何なのか判断にこまる。音的には中々の重量を持つインゴットみたいだが……一体なんだと言うのだろうか。まさか、鍛冶屋なんて言わないだろうな?
ちょっと不安を抱きながらも、さっさと聞かんか! と胸を張っているギルド長のお望み通りに聞いてみる。
「ギルド長、この長方形の物体は何ですか?」
「うむ、よくぞ聞いた。このインゴットはな純銀だ!」
銀ときたか。
一体その量の銀で何をしろというのだろうか。というか純銀?
「ギルド長、大丈夫なんですか?」
「ああ、まったく問題ない。他の職員数名にも配ってきたしな」
総額幾らになるのか考えたくもない。
簡単に俺の月給が吹き飛びそうだ。
「まぁ、それよりも、何を求められているのか知りたいんですけど」
「そうだな。今回は我らギルド、シルバーアート展覧会を開くことにした」
「…………………………」
なんで?
分からない、ギルド長の考えが分からない!!
「その顔、意味が分からないと言う顔だな? 仕方ない、少し説明してやろう。実はな――」
ゴクリ、とつばを飲み込んで、真剣な顔のギルド長を見つめ次の言葉を待つ。
さて、一体どんな理由でこの展覧会を開くことにしたのだろうか。
「――夢を、見たんだ」
「……ギルド長、寝ぼけてるんですよ。ほら、お昼寝の時間ですよ?」
丁度時計の針が指すのは一時過ぎ。暑すぎず丁度いい時間だろう。まったく、ギルド長はそのなりで大人ぶるからこうなるんだよ。補佐の奴らにも言っておかないと。昼寝は絶対させましょうって。
「布団引いときますから、ちょっと待ってくださいね?」
「……アレだなアウェル。お前はたま~に、真面目に私をけなすことがあるよな?」
「そんなことないですよ。貶すというか、諦めてるというか。まぁ尊敬はしてます。さ、寝床の準備完了です。あ、枕はギルド長室から持ってきま――ぐふっ!?」
俺は最後まで言葉を放つことは出来なかった。
気づくと、小さな拳が思いの外高い威力を持って腹部に突き出されたからだ。
「いいかアウェル。もう一度言う。――夢を、見たんだ」
そこからやり直すのか。
OK分かった、余計な事を言わずに付き合いましょうぞ。
「そ、それ、で? どんな内容、だったんですか?」
俺は腹部の痛みを我慢しながら、ギルド長の求めているであろう質問を投げかける。
ホント俺って、つくづくギルド長には甘いを思う。
「うむ、その夢と言うのがだな? 誰かが作り上げたシルバーアートが評価され、面白いイベントが起きると言うものだった。だが、そのシルバーアートを作り上げた者が分からなくてな。なら、器用な奴らに作らせてみようと思い至った訳だ」
もしかして、去年の焼きとうもろこし屋も夢で見たからとか言う落ちなのだろうか。いや、考えるのは止めよう。何だかドツボに嵌りそうで怖いから。
「と言うわけで、アウェル――」
ああ、もう次の言葉が分かった。
何時も通りの言葉。俺に期待をかけてはいるが、失敗したってそれはそれで面白いと、そんな言葉が裏にあるお決まりの言葉。
「――期待しているぞ?」
「了解です。できる限り頑張りますよ」
そして俺の、シルバーアートへの挑戦が始まった。
すみません、ここから投稿ペースが少し落ちます。