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第十五話 本人知らぬところで一人増えた







 さて、なんとか勝ったぞ俺は。

 ドサリと倒れるファウストを横目に、魔法を解除するネルをチラリと一瞥する。

 いや、いつ見ても恐ろしいスキルだ。


「どうかしましたか?」


「いや、何でもない。それより、悪いな。攻撃を全て任せてしまって」


「いえ、大丈夫ですよ」


 何時も通り冷静なネル。

 ネルはこれでも、というかやはりスキル持ちだ。

 スキル名は『属性抗体』という。


 なんとこのスキル、属性の関係性を覆しかねない能力を秘めている。

 簡単な例を出すと、火は水に弱いだが、スキルを使うと、火は水にそこまで(・・・・)弱くないと変更できる。

 これだと、『属性抗体』より『属性耐性』の方がいいのかもしれないが既に『属性耐性』のスキル持ちが存在する上、効果が少し違うのだ。



 『属性耐性』はあくまで属性魔法に対して、自身に耐性がつくというもので自らが使う魔法には作用しない。

 それに対して、ネルの『属性抗体』は自身には作用しないが、ネルの魔力で発動した魔法に作用する。


 要は、ネルの魔力には苦手な属性に対して耐性を作り出す防衛機能の様なものがあると言うこと。

 

 このスキルがあれば、魔力量の差だけで属性の相性を覆すことだってできる。

 現に俺は一度体験させられている。まぁそれが凍結だったかなんだったかは伏せさせてもらうが。


 ……氷が攻めてきて寒いから火で暖まろうとしてるのに、問答無用で氷に押しつぶされるんだぜ?



 やはり、ネルのスキルは恐ろしい。




「まぁ、それはさておき向こうは終わったか?」


「少しまって下さい……」


 ネルがダネンの爺さんの魔力を探し始める。

 その間に、ボロボロになったファウストを担ぎ上げておく。

 


「にしても、やっぱり凄いな貴族。才能が半端じゃない」


「……珍しいですね、先輩がそんな事を言うなんて」


「まぁ、余り人の前では言わないようにしてきたからな。どうせファウストも今は寝てしまっているし」


「それは、私しかいないからと受け取っても?」


「ん? まぁ、そうだな。うん」


「そうですか」


 そう言いながら少し機嫌良さげにダネンの爺さんを探し始めるネル。

 俺は本格的に探し始めたのを確認し、辺りの警戒を始める。もしかしたら残りがいるかもしれない。


「……先輩、ダネンさんを発見しました。付近には数名の魔力も感知。全員気絶してるみたいですけど」


「あー、少しやりすぎたってところか?」


「そうみたいです。人数的に、全員倒されてから目を覚ましていないようです」


「はぁ、報告書に書かないとな……」


 ちなみに俺たちが倒した奴らは、ファウストを除いて全員目を覚まし自力で森の外へと出ている。

 ファウストを倒して少ししてから歩いてきたハーレは、少し足元が覚束無かったものの、


『自分の足で、帰れます。……それより、お願いします! ボクに、ボクに生き延びながらも誰かを守れるような、そんな力を下さい! 欲張りだとは思うけど、それでも欲しいんです!!』


 と言って縋り付いてきたので、


『悪いが、俺は力なんて与えてはやれない。ただ、そうだな―――――それに近しい技術ならある程度教えれる。俺だって、そこまで欲張りじゃ無かったから中途半端なんだよ。まぁ、この機会に少し欲張ってみるのもいいかもしれないな』


 そう伝えると何か噛み締めるように胸の前で握りこぶしを作り、意気揚々と帰っていった。

 ちなみにあの言葉は嘘ではない。今日の模擬戦で、スキルが使えなかったらどうする? という疑問が浮かび、その時用の対抗策を持っていないことに危機感を覚えた。今更かもしれないが、もう少し何かするべきかもしれない。

 まぁ、また少し歴史のノートに半ページ程追加記入されてしまったが、ファウストを庇ったときのアレを説得してでも修正する必要がなくなったのでイーブンとしよう。

 だって、説得とかしてたらまた教官スイッチ入りかねないからな。入ったら二、三ページは確実だ。


「あの、先輩、移動しないんですか?」


 ネルの言葉で意識が現実に戻る。

 ああ、しまった。すっかり警戒を怠っていた。ここがギルド所有の森じゃなければどうなっていたことか。


「すまん、少しぼうっとしてた。すぐに移動しよう」


 やっぱり、平和が一番なんだよなぁ。









 よろけて倒れかけるが、何とか踏ん張って体勢を立て直す。

 今のボクを支えるのは、アウェル教官の言葉だ。

 ファウストさんを庇い気絶。目を覚ましたときにファウストさんを背負って歩きだした教官に向けてボクは、


『いえ、自分の足で、帰れます。……それより、お願いします! ボクに、ボクに生き延びながらも誰かを守れるような、そんな力を下さい! 欲張りだとは思うけど、それでも欲しいんです!!』


 と言って縋り付いた。

 あの時、アウェル教官の罠にハマリ窮地に陥ったボクは無意識に動いていた。

 あんな性格のファウストさんだ、別にいいじゃないか、そんな事だって思った。でも体は違った。

 必死に守ろうと抱きしめ、その身に冷気の弾丸を浴び続けた。幸い威力は加減されていたもののやはりキツイ。それでも、ボクはファウストさんを守ることができた。

 一歩、進めたと思っていた。

 ああ、ボクは逃げなかったんだ。少し、誇れるものができたと思っていた。


 でも、次に目を覚ましたとき、倒れるファウストさんを見てそれは間違いだったと知った。

 ファウストさんが倒れる姿に、心が傷んだ。知り合いが倒れるところを見て傷んだのだ。

 

 確かにボクは、ファウストさんを身体的には助けれたかもしれない。

 でも、庇い倒れるボクを見てファウストさんは罪悪感を感じなかったのか? いや、ボクは覚えている。もう意識もなく横たわる寸前に見えたファウストさんの申し訳なさそうな顔。まぁ、幻覚または妄想かもしれないけど。


 では、それが逆だったら? 唐突にそんな事が頭を過ぎる。


 ファウストさんに庇われ、ボロボロになったファウストさんを間近で見めることになる。

 正しいか? それは本当に正しいか? 誇れるか?

 いや、ボクは罪悪感で押しつぶされるだろう。

 

 ならどうする?  


 なら、全部守る。


 心も体も、全部。完璧に守ってみせる。

 庇ったあと、言葉を交わすだけで謝罪を済ませられるような、感謝を伝えられるようなそんな風に守りたい。


『大丈夫?』


『ええ、大丈夫ですわ。ごめんなさい、助かりましたわ』


 こんな会話。

 倒れる相手に、反応のない相手が起きるまで罪悪感を胸に秘める様なことなく。


 まぁ、そもそもそんな状況になるなと言われるのかもしれないけれど。

 それでも、漸く見つけた目標だから。間違っているのかもしれないけれど、先ず進む先が見えたから。

 間違えていれば、直せばいい。


 だからボクは、


『守る為に力を下さい!』


 ではなく、


『自分の足で、帰れます。……それより、お願いします! ボクに、ボクに生き延びながらも誰かを守れるような、そんな力を下さい! 欲張りだとは思うけど、それでも欲しいんです!!』


 にしたのだ。

 そして、教官が口を開いた。


『悪いが、俺は力なんて与えてはやれない。ただ、そうだな―――――それに近しい技術ならある程度教えれる。俺だって、そこまで欲張りじゃ無かったから中途半端なんだよ。まぁ、この機会に少し欲張ってみるのもいいかもしれないな』


 ガツンと殴られた様な気がした。

 『力は与えてやれない』とアウェル教官は言った、ああ、全くもってその通りだ。力は自分で得るものだ。スキルは生まれながらのものだから与えようが無いにしろ、魔法だってそうだ。

 『魔法と言う力』は与えられれば使えるものじゃなく、それを教えられ鍛えようやく使えるようになるものだ。

 剣だって、『剣という力』を与えられたからといって強くなれる訳ではない。師に教えを請いようやく形にできる。


 であれば、今のボクに必要なのは力ではなく、その後だ。

 ボクは剣という力も、魔法という力も持ってはいるが、大した力ではない。

 だから、今もつ力を最大限守ることに使えるように教えを請う。

 アウェル教官は、ボクの為に寄り道すらしてくれるらしいしね。


 ほら、


『俺だって、そこまで欲張りじゃ無かったから中途半端なんだよ。まぁ、この機会に少し欲張ってみるのもいいかもしれないな』


 と言ってくれている。

 教官は教官の道があるのに、ボクの為に少し寄り道をしてくれる。


「頑張りますから、ボク」


 本当でしたよ、彼女持ちさん。

 アウェル教官は、確かにそんなに強くなさそうだけど―――――


 『変わった教官』『普通、だけど強い』『言葉には不思議な力』全て揃ってました。


 訓練生の為に道を逸れて寄り道し、見ためは普通なのに何処か強くて、言葉は不思議とスルッと染み込む。




 この人の元ならばボクは今度こそ、足掻いて、泥まみれになってでも、一歩前に進めるかもしれない。







明日、明後日は更新できないかもしれません。


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