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第十二話 さぁ、折ろう








 さて、残るパーティーはファウストとウェルストンのニパーティーだけだ。

 ちなみに言っておくと、鼻をへし折る為の方針は精神的にボコボコにすると言う方向で行こうと思う。

 あの手の貴族たちは身体的にボコッても変に立ち直って復讐とかされかねないからな。まぁ俺はいいんだが、他のやつらにされても困るし。それに、俺自身にそんな派手に倒すような魔法なんて無いし。


 だから精神的にへし折ってやろう。

 馬鹿にしていた格下に、下克上される屈辱その他を味あわせてそれをダシに進めてく。

 

 

「よし、それじゃあ俺たちはファウストを狙う。気合入れ直して行こうか」


「分かりました。作戦と方針はどうしますか?」


 んー、と顎に手を当てて考える。

 恐らくファウストは愚直なまでに真っ直ぐ叩き潰そうとしてくるだろう。

 で、あれば搦め手でいこうか。どうせ、家庭教師たちも貴族相手じゃそんな手使ってこなかっただろうし。


「変更なしで行こう。また軽い妨害トラップを仕掛けて仕留める」


「…………作戦変更のタイミングと条件はどうしますか?」


「そうだな……二回。二回仕掛けてダメならば、俺が気を引くからその間にアレ(・・)を」


 ネルは了解と頷いて姿を隠し始める。

 俺はその方向を記憶しながら、目に付きにくいところに簡易式の罠を仕掛ける。

 ネルの探査魔法の結果では、俺から見て正面を歩いていると方角が分かっている事だしもう少し効果的な罠が欲しい。


「だが、これ以上効果的ってなるとな……」 


 流石に大怪我をする可能性がある。

 

「取り敢えずは足止め用のだけだな。追加でちょっとした落とし穴でも作っておくか……」


 深さ二十センチ半径三十センチの穴。

 ちょっと足を取られ転びかねない程度のものだ。

 俺一人であれば、もっと深くて確実なものにするが今回は高火力のネルがいる。

 

「後は、ファウストがこっちに来るのを待つだけだな」


 仕掛け終えた俺は、ネルのいる方向へと歩き、見つけようと思えば見つけられる場所に身を潜める。

 あえて隠れつつも見つけさせ、自分が有利だと思い込ませる。また、見つけられなければそのまま此方が有利になる。

 これは学校では習わないが、教科書自体には載っていることだ。


 基礎に忠実であれ


 基礎さえ守れれば、才能ある君たちなら生き残れるさ。




 そして俺は、万が一に備えていつでもスキルを使えるように心構えた。









 ボクはハーレ・ナトス。

 目の前を歩くのはかのファウスト家の令嬢らしいレイウ・ファウストさん。

 というか実は今、ボクたちのパーティーは二人しかいない。ボクと、ファウストさんの二人。

 まったく、どうしてこんなことになったんだろう。

 

「いや、原因は分かってるんだけどね……」


 ハッとして急いで口を押さえる。

 ああ、これじゃあボクが言ったとバレバレじゃないか。


「……………………」


 しかし、ファウストさんは気づいていないらしくボクは安堵する。

 


 この状況の原因、それはファウストさんだ。

 ファウストさんが他の二人を教官探索に出してしまった結果。

 確かにファウストさんの才能は凄いのかもしれないけど、油断しすぎだ。


「まったく、あの二人はまだ教官一人見つけられませんの?」


 ぶつぶつと呟き始めるファウストさん。

 大分我慢の限界が近いらしい。


「何をしてるの! 置いて行きますわよ!」


 ボクは慌てて後を追いかけつつ、この訓練所に来たのは正解だったのか考える。



 前回、ボクは圧倒的と思えるような意志と技術を持った人たちと共に試験を受けた。

 彼らは一人一人が強かった。無論、実力という点でもボクなんかより上だったけれど、それ以上に強かったのは心だ。



 試験官に倒され転がされ、時には魔物にキツイ一撃を入れられた。

 幾らテイマーが手懐けていようと、やはり魔物の一撃は辛い。

 

 ボクはあまりの痛みに涙さえ浮かべた。

 でも、彼らは違った。確かに涙を流す者もいたが必ず全員が立ち上がった。

 誰一人、折れることなく立ち上がったのだ。

 

 




 そして彼らは合格して行き、ボクは落ちた。

 結果発表の日、落ちたことで行き場のない感情がボクの中で暴れまわった。

 悔しくて、情けなくて、涙が出た。

 


 そんな時、一人の少年がボクに話しかけてきた。

 年齢はボクと変わらないが、片手には女の子がしがみついていた。……羨ましいと思ってしまったボクは悪くないと思う。

 

「もし、君がもう一度挑む、そして合格したいと言うならギルド裏の訓練所に行ってみてください。そこには、僕たちを変え、強くしてくれた人たちが先へ進もうと足掻いている人を待ってます」


「先、へ?」


「はい。僕たちも、そこから来たんです。落ちて、落ち込んで、あの訓練所に行った。少し失礼かもしれないですけど……足掻く意志はあるんですよね?」


 足掻く意志。

 何度地に伏せても立ち上がり、先を睨みつける意志。

 ……欲しい。ボクも、そんな強い意志を持ちたい。


「あります。ボクも、先に進みたい!」


 あの人たちを育て上げた場所。

 そこにいけば…… 


「では、自分の足で向かってください。大丈夫ですよ、皆さんいい人ですから。あ、でも一人変わった教官が……」


「変わった教官?」


「ええ、見ためから言えば普通、だけど強い。……これは実際に会えば分かると思います。それと、その教官の言葉には不思議な力があって……」


 そこで目の前の少年は言葉を区切る。


「やっぱり止めておきます。これも会えば分かることです」


 それじゃあ、と行って合格したからかテンションの高い集団の中に姿を消した。

 ボクに残ったのは不安と期待。





 そして考え抜いた翌日、ボクは訓練所に足を向けた。

 変われることを期待して。





「の、出だしがこれだから……」


「出だしのどこが悪かったと言う気ですの? 問題なんてありませんでしょう?」


 ぶっちゃけていいなら、貴方そのものが問題です。

 が、相手は貴族。今のボクでは―――――


「そ、そうですよね……すみません」


「分かればよろしいのです……あら?」


 ファウストさんは少し嬉しそうに、とある一箇所を凝視している。

 ボクもその視線を辿ってみると、その先の茂みが僅かに揺れていた。


「いますわね。それも、此方にあちらは気づいたものの、此方は気づいていないと思っているのでしょう」


「え、なんでそんなことが?」


「簡単な事でしょう? あの茂み、僅かに魔力が残っていますの。つまり、あそこからわたくしたちを観察していた。そして、一定以上近づいてきたので視認される前に撤退したと言う所でしょう。庶民の為にわかりやすく言うと……偵察隊がもし、敵と遭遇したらどうしますか?」


「勝てないから……逃げる、かな」


「そういうことですわ。これで、相手も絞れましたわね」


 ふふんと胸を張るファウストさん。

 ……態度はあれだけど、やっぱり凄い人なんだなぁ。


「……って、あれ。今ので教官が?」


「ええ。貴方も見ましたでしょう? コンル教官、確かに噂通りなら中々の実力をお持ちになる方でしょう。そしてダネン教官、一度チラリと見ただけですが歴戦の戦士といった風でした」


「………………………………」


 ボクは黙ってファウストさんの話を聞く。


「そしてネルウィル教官。彼女は魔法使いですから、先ず前線には出てくることがありません。であれば、残るは一人ですわ」


「残る一人……アウェル教官?」


「ええ! あの偉そうな口を叩いたあの男ですわ! ふふ、わたくしはついていますわね。最初の遭遇があの男だなんて!」


 偉そうな口を叩いたあの男。

 最初に挨拶をしていたあの教官だ。

 というか、男尊女卑は貴族ないだけの話なんだね。いや、分かっていたけれど。


「さぁ、行きますわよ!」


「え、あ、ちょ、ちょっと待って!?」


 この時、何故かあの少年の言葉が脳裏を横切った。


『変わった教官』『普通、だけど強い』『言葉には不思議な力』


 あの少年の言っていた教官。

 それがアウェル教官なのではないだろうか。


 見た限りでは特筆するような事はないのに、妙に視線を集め、挨拶の時の言葉が染み込むような感覚。 

 まだ確認出来ていないのは『普通、だけど強い』だ。もしこれが本当にアウェル教官のことだったら?



 言葉で貴族の感情を揺さぶり、冷静さを欠かせ、そしてその傲慢さを利用するような―――――



「い、いやいや……ない、よね?」



 誰も答えてくれる人はおらず、変わりに葉が擦れる音が一面にコダマする。ソレがやけに耳に残った。

 そしてボクは、全て手のひらの上で転がされているような、そんな悪寒を覚えた。







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