第十一話 VS貴族の前哨戦
「……と、言うわけで手伝ってくれ」
俺はコンル、ダネンの爺さん、ネルに向けて言う。
「俺はいいよ。そのウェルストンの次男と剣を交してみたいし」
「ワシも構わん。高飛車はそうやって鼻の頭をへし折るのが一番効果的だ」
「……こうなると、私もいいえ、とは言えませんね」
三人の返答に軽く安堵する。
この三人が了承してくれなければ、俺では彼らに勝てなかっただろう。
スキルの関係上、どうやっても大した魔法を使えない上、剣技も大したことのない俺では決定打がなさすぎる。
「じゃあ、俺たちもツーマンセルで行動しようか。……どう分ける?」
「そうだな……俺と…………」
コンルの言葉に、俺は少し思案する。
俺の特技……逃げ―――回避。
となると、俺が前に出て囮。隙をついて一撃入れれる奴がいいのだが……この場合コンルかネルだな。
「よし、それじゃあ俺とネル、コンルとダネンの爺さんで行こう」
正直、遠距離から援護し確実に多くの生徒を沈めてくれる方が俺的に安全だ。
「分かったよ。それじゃあ、早速行こうか」
「……アウェル。何でもありなのだろう?」
「ああ。何でもありだ」
ふっふっふ、とダネンの爺さんと少し人に見せられないような笑いを交わし目的地へと向かった。
そして俺たちは別れ、各々行動する。
「悪いなネル。俺一人だとどうにも出来なくてな」
「いえ、気にしてません」
俺は謝りつつ、適当な場所に機動力を奪う罠を仕掛けておく。
言ってしまえば、草の輪、付近の砂を集め表面をサラサラにしておく。
「……相変わらずいやらしい手口ですね」
「失礼だな、生きるための方法だよ。……あの貴族二人、このまま訓練所出ると早死する」
「………………断言ですか」
「おう、あれはダメだ。お嬢様は自分を頂点としその下の有能さを無視。お坊っちゃんの方はお嬢様以上に自己中心的で、特技より好きな方を選んでる」
そう、キースは剣より魔法を使うが才能があるのは剣の方。
それを悪いとは言いたくないが、今のキースには良いとは言えない。
「どうせなら二つ使えればいいんだが……簡単にはいかないよな」
そんな器用な事が出来れば、もっと世渡り上手くできるだろうし。
「……もう訓練生の心配ですか?」
「あー……そう、だな。そうなるな。……我ながら気が早いか」
するとネル、クスクスを笑う。
「いいと、思います。それでこそ先輩なんだと思いますよ?」
「それでこそ、ね。褒め言葉なんだよな?」
「はい、褒め言葉です」
ハッキリ断言されると、少々気はずかしいなぁおい。
というわけで、俺は話を打ち切り思考する事に徹する。
『脱兎のごとく』、これが俺の命を守る最高のスキルだ。
……まぁ完全チキン用のスキルなんだけどさ。
この『脱兎のごとく』というスキルは、一度につき三十秒のみ使用できる。
そしてその使用時間内は、『逃げ』に関してだけ直感が鋭くなり身体能力も上がる。
ただし、『逃げ』から防御や攻撃に入ってしまうとその時点で効力は切れる。
つまり本当に逃げに徹することで真価を発揮するスキル。
これがあるから、俺は生き延びることがで出来た……のだが、実はこれ三回しか使えない。
それも一日、とかではないのだ。
一ヶ月に……三回なんだ。それも一回三十秒だから計一分半。
ちなみに、今月はもう一度使っているので残り一分だけだ。
それを今日使うから――――――――
…………アミルが来ない事を祈る。
さて、どうやら模擬戦が始まったようだ。
ああ、ちなみに私はギルド長だから、そこのところヨロシク。
なに、私くらいしか、アイツの根を理解する者はいないからな。
アイツがどれだけ落ちこぼれで、どれだけ弱くて、どれだけ優しいかを知っている。
また、どれだけ強いかを。まぁ、この強い、は人それぞれの捉え方にもよるが。
私がアイツを見つけたのは…………って、止めだ止め。
こんな時に話すようなことじゃないな。
今は、アイツの戦い方を観察する時だ。
無論、どこぞの勘違い共とは違い無用なフィルター取り除いてのな。
先ず、アウェルは足止め用のトラップやらをその場にあるもので作り上げていく。
コレは実戦経験ある者ならやることだし、別段珍しくもない。
だが、以前と比べて設置の速さが鍛えられたか。
そしてアウェルとネルウィルは痕跡を適度に隠しながら奥へと進む。
すると暫くして訓練生たちがやってきた。
人数は八人の二パーティーだ。
「ふむ、残念な事にあの貴族二人はいない……か」
つまらない。
恐らく、この生徒たちだけならばネルウィル一人で鎮圧できる。
アウェルが奥から姿を現し、訓練生たちに何か告げて煽る。
そして突っ込んでいた訓練生は……ほら、罠にかかって体勢を崩した瞬間ネルウィルの魔力球に額を撃ち抜かれた。
そしてあっと言う間に八人脱落。
さて、ここでアウェルがしたのは唯の挑発。まぁなんと言っていたかまでは知らないが。
…………なんでだろうな、あの八人がネルウィルだけでなくアウェルにまで畏怖の念を送っているのは。
やはり、アイツはなにか余計な事を言ったのだろうか。
最早才能だろう、アレは。
そんな事があり、コンルたちの方も三パーティー倒したようなので残り四パーティー。
当然、その中にはまだ貴族たちが残っている。
その後もちゃくちゃくと減り続けるパーティー。
そして、残るは貴族のいる二組みのパーティーだけだ。
「さてさて、あの元落ちこぼれはなにをするのかな?」
大体予想は付いているクセにそんな事を呟く自分に苦笑し、この件の行き先に目を凝らした。