1.少年の始まり1
その少年は、毎日が不安だった。生活に息苦しさを感じていた。
少年は少し人から同情される家庭環境にある以外は至って普通(?)の、どこにでもいるようでいそうにない十五歳の少年だった。
両親はいなかったけれど、少年は不幸ではなかった。
彼には愛する兄姉がいた。
彼にとって親代わりでもある年の離れた兄と姉。
二人に養われている生活は心苦しかったものの、それでも少年は幸福だった。
心の中は一点の曇りもなく、不安などなかった。
そんな彼が不安を感じるようになったのは、つい最近のことだ。
一年前の彼の誕生日前日、彼の兄姉が姿を消した。
少年に何の一言もなく、二人が消えたことなど初めてだった。
少年は勿論のこと誕生日どころではなく、必死に心当たりを当たり、一日中探し回った。
学校も休んで街中を走り回っていた。
眠れぬ夜は、五日間続くこととなる。
そして六日目の朝、少年の待つ家に二人は帰ってきたのだ。
更に二人の、同伴者を連れて。
珍しそうに家の中を見回す二人は、少年の知らない人間だった。
綺麗な顔をした自慢の兄と姉。
その隣にいて少しも見劣りしない人間など、見たのは初めてだった。
見知らぬ二人は親しげに、少年へ笑みを向けてくる。
まるで少年のことをよく知っているとでもいうような笑顔。
二人は、少年の義理の兄と姉になったのだという。
――巫山戯るなと、少年は思った。
人が五日もの間、どれほど心配し、探し回り、どれほど悲しみや苦しみ、不安や寂しさに振り回されたことかと。
それなのに少年の兄と姉は、今まで一言も少年に話したことのない交際相手を・・・それも結婚したという相手を連れて笑顔で戻ってきたのだ。あれほどの怒りや悲しみを感じたのは初めてだと、少年が思っても仕方のない話だと誰もが思うだろう。何しろ、相談すらなかったのだから。
そしてその日から六週間もの間、少年は一言も口をきかずに生活した。
本気の怒りで拗ねた少年は一月以上怒り続けた。
しかし怒りもいつしか冷めていくもので、やがて少年は義兄や義姉と打ち解ける。
だが彼の心に、少し黒いものが残ったのだ。
真白なシーツについた一点の黒い染みのように心に残ったもの・・・それは自分が兄姉の邪魔にならないかという不安だった。
その不安は日に日に大きく育っていき、抱えているのが苦しいほどに、辛くて泣いてしまいそうなほどに少年を悩ませる。
彼がその不安に耐え難くなってきた頃、彼はその本を見つけた。
素材が何か分からない黒革の装丁に、白い文様が書き連ねてある不思議な本。
見ただけで年代物と解るその本を、何気なく少年は手に取った。
少年は、祖父の遺品であるソレが開いてはならない本だと知らずに・・・開いてしまったのだ。
本を開いた少年の前に・・・見知らぬ世界が開かれる。
少年の名前は、如月銀河といった。