ずっと 一緒。
途中スカートを教科書で仰がれたが、スカートの下にはくものなど、私にはたいした関心もない。
風になびくスカートもおさえずに颯爽と歩いていると、「ぴ、ピンクかよ!?」と驚きの声を上げ、男子達は一斉に廊下からいなくなった。
スカートの下の布など見て、何が楽しいのだろうか。
その布切れを必死に隠そうとする女子も、その布切れに興奮する男子も、私には理解しがたい。
しかし、毎日人のスカートを仰いで、よく飽きないものだ。
私の動じなさに感心している人もいるらしいが、むしろこちらが彼らに感心したい。
今日も私はアイツを見ていた。
授業中寝ていたり、頬に痕がついてたり、勉強にむしゃくしゃしてたり、男子と仲良く話してたり、女子にも仲良かったり……お弁当は必ず教室で食べてたり、とにかく、私しかしらないアイツは沢山いる。
今はそれだけでいい。
「あ、渋木くぅん!!」
甘ったるいちょっと鼻にかかったような耳につく声が聞こえた。
この声に聞き覚えがある。
これは……「あれ、奥田先輩じゃないですか。」やっぱりかと思った。
何の用事でアイツに莉里先輩は声をかけたのだろう。
あまりアイツと女子が話しているのを見ると、相手を抹殺したくなるのだが……。
「牧波さんなら今いないみたいですよ。他を当たったほうが……。」
「こんかいはぁ、君に用事があるのだぁ!!」
そう言うと無理やりアイツを連行していってしまった。
「ねぇ、渋木君ってよくゆいちかタンに声かけるよねぇ?あれってゆいちかタンのこと、好きだからなの~?」
何気なく何を言うのかと噴出しそうになるのをこらえてじっと二人を影から見守っていた。
「え……?やだなぁ、そんなわけないじゃないですか。大体、俺なんか相手にされるわけないじゃないですか。彼女、才色兼備だし。」
「そっかぁ、じゃあゆいちかタンのこと、すきって訳じゃないのね……?」
「そうですけど……。」
「よかったぁ……じつはぁ、莉里、渋木君のこと、ちょっといいなって思ってたの!!」
目の前が真っ白になった。
……え……?
は……莉里先輩が、好き……?
いやいや、渋木はあれだよな、照れて素直に私のことがすきって言えなかっただけで、断る……よな……?
「それでぇ、もしぃ、良かったらなんだけどぉ……莉里と付き合ってくれない……?」
体をこわばらせた。
私も、アイツも。
「……考えさせてください。」
考えさせて……ください……?
その瞬間に、ブチンと何かが壊れた音がした。
背景があっという間にモノクロに変わり、気づけば私は何事もなかったかのように教室にいて、座っていた。
でも、なんだろう?妙なこの、何かを思いっきり叩いたような手の痛み。
それと、首筋に走る激しい痛み。
「かえろぉ~!ゆいちかタンとお胸たち!!」
そういって何事もなかったかのように私の谷間に顔をうずめたのは莉里先輩だった。
「……莉里……先輩。」
彼女は相変わらず元気そうだ。
あれ?でも、なんだろう。
何かが引っかかっている。
何故、彼女は元気なのか?
何かが思い出せない。
告白して、考えさせてください……その先は……?
バッと私から不思議そうな顔をしている彼女を引き剥がした。
私は、そのきょとんとした顔に何故か殺意がわいて、彼女の肩をわしづかみにしていた。
「いたいよぉ!ゆいちかタン!!」
彼女は苦笑していたが、それはどうもうそ臭い。
いや、彼女の存在自体が最初からうそ臭い。
本当に楽しそうな顔を見たことがない気がする。
そう思いながら肩を鷲掴みにしたまま話さないでいると、彼女はにやりと口が裂けたかのような笑みを見せた。
それはそれは……ニヒルな笑みだった。
「なんだぁ、ゆいちかタン鈍いからもっと遊べるかと思ったのにさぁ……。」
「り……り……。」
私が言葉を失っている間に彼女は「そうだよ。ゆいちかタンの考えてる通り。渋木君?だっけ?あの子、ゆいちかタンから取り上げたら、どんなに面白いゆいちかタンが見れるかなって思ったの。」と言った。
気づいたら私は木刀を振り回し、彼女に向かって振り下ろしていた。
「貴様ぁぁぁあああああ!!!」
彼女はそれをひょいひょいと交わし、「だから、それじゃ莉里タンにはかなわないの。成績はいいのに、ゆいちかタンってば、頭悪いの……?」と笑って走り去りながらこちらを振り返り、「また明日ねぇ!」と手を振ってきた。
翌朝、私は何事もなかったかのようにベッドから這い出すと、木刀でかなわないなら、この体を武器にすることにした。
初めて、自分のよう容姿を気にした。
そして、この容姿に感謝した。
ニヒルに緩んだ口元を手の甲で隠すと、いつもの無表情に戻った。
家を出て、しばらくすると、いつもの出来事が起こった。
「おっはよぉ!!ゆいちかタン!!」
莉里が私の谷間に顔をうずめてきたのだ。
まるで昨日、何事もなかったかのように。
「おはようございます。莉里……そして、さようなら。永久に……。」
私は彼女をきつく、きつく抱きしめた。
すると彼女は全身の力が抜けていくようにずるずると下に落ちていく。
「……んん?……やってくれたなぁ……まさか、こんなところに、毒を……。」
「ああ、私もまさか自ら飛び込んできてくれるとは思ってもいませんでしたよ。」
もうダメだ。
限界。
にやけるのをおさえていられない。
眠って抵抗ができなくなった彼女をばらすのは簡単なことだった。
少しおくに引きずり込んで刃物も、血も、丁寧に洗い流して、遺体に土をかけてやった。
にやける顔を手の甲で口元を隠しながら冷静を装った。
「おはよう!牧波さん!あれ?今日は奥田先輩は……いないんだね。まぁ、いないほうがイイのかも……いても気まずいし……。」
それをきいて私は噴出しそうになった。
奥田莉里はもういない。
存在しない。
私が排除したからだ。
「ん?なんか嬉しそうだね。牧波さん。いいことあった?」
「いや、何もないが……。」
「そっか。そういえば俺、今日ちょっと遅刻したんだけど、牧波さんがいるってことはまだ大丈夫ってことなのかな?」
「……どうだろうか……私も今日は少しばかり野暮用があったから……。」
「そうなんだ?じゃあ少し走ろうか。」
「え……ああ、うん。」
本当はこのままでもいい。そういいかけた声をおしとどめた。
学校についてからはアイツに話しかける女子が全員憎く見えた。
莉里のような輩もいる。
アイツは……渋木は……私が守ってみせる。
有害なのは近づけさせない。
どうやったら彼だけを守れるだろうか。
部屋に閉じ込めるのはどうだろう?
ああ、それはいい。
常に私の監視下に置けばもっといい。
そうすればアイツも害されることはなく、私だけのアイツでいてくれる。
我ながらいい考えだ……。
学校?そんなものどうでもいい。
私は、私はアイツさえいてくれれば、それ以上、何も……いらないのだから。
「渋木……君。ちょっといいだろうか?」
「……うん?何?」
「今日、放課後って開いているのか……?」
「ああ、大丈夫だけど……でも、俺より牧波さん方が部活とかあるんじゃないの?」
「……それは、休むから問題ない。ならば、一緒に帰ってはくれないか?」
「え?うん、いいけど?」
「では、放課後。」
放課後が待ちきれなくなった私は、授業中もソワソワして、はたから見たらあからさまに変だっただろう。
だが、そんなことは関係ない。
ようやく手に入るのだ。
アイツが、渋木が……あぁ、それこそ、やっと……!
今まで幾度と無く邪魔されてきた。
二人きりになれるチャンスすら何度も失った。
一度は莉里にめちゃくちゃにされそうにまでなった。
「牧波さん、剣道部やってるみたいだけど、休んでよかったの?」
「……ああ、問題ない。そんなことより早く帰ろう、渋木君。」
「帰りに俺を誘った理由って、聞いてもいいのかな?」
「それはココでは話せない。後で話そう。とりあえず私の家まで来てくれないか?」
もう、逃がさない。
その声が何度も頭に響く。
ああ、分かてるよ。
ここで莉里見たいに「考えてみて?」なんて相手を泳がせて逃がすようなへま、私ならしない。
「牧波さんの家か~なんか、新鮮だな。」
のんびり私の後ろで話しているアイツの言葉に、私は返事を返さずにただ黙々と歩き続けた。
そして、とあるところまで来ると、家の倉庫の中にアイツを押し込めると、驚いた顔で私を見上げるアイツを見下ろした。
ここの倉庫は綺麗だし、何よりめったに人が入らない。
「さぁ、これでお前はもう……私のものだ。」
そっとアイツの顔に触れた。
アイツの顔はこわばり、私を払いのけようとしたが、つい反射的にそれをよけて、さらには殴りを入れて気絶させていた。
眠っている間に逃げられないように縄で縛っておくとしよう。
アイツが目が覚めたとき、私はアイツの……渋木の目の前にしゃがんで渋木を見ていた。
「……牧、波さん……?」
「なんだ?」
「これは、なんかの間違いだよ……な?」
「何が間違いなんだ?安心しろ!ここは防音してあり、それなりに綺麗だ。私が有害なものから君を守って見せるさ。」
「……守る……?これが?なんのために……。」
「莉里のことだ……アイツは君を……利用しようとした。有害だった。だから、排除した。」
「……排除……?」
「そう、こののこぎりで……。」
私が相手にのこぎりを見せ付けると、「ひ!」と声を上げて後ずさろうとした。
「ま、待ってくれよ……俺、牧波さんになんか嫌われるようなことした……?」
「嫌う?何馬鹿なこと言っているんだ。私は君が好きだから、だから守ると決めた。それだけのことなのに。」
のこぎりを持ったまま相手に近づくと、相手は縛られたまま必死に私から逃れようと体をうねらせた。
「や、やめてくれ……もう、来ないでくれ……。」
「あは……何、言ってるんだ?そんなにおびえてどうした?」
静かに愛しい彼へと近づいた。
「も、もう、勘弁してくれ!」
「勘弁してくれ?おかしなことをいう。私はお前を好きだといっただけだ。何故逃げる?」
「や、やめてくれ!!」
ひたすらにおびえる彼に近づき、ふと考え直した。
「そうだな、お前は悪くない……悪いのは、その、逃げようとする手足だな?」
にこりと笑ってもう逃げられないように太い釘で手足を打ち付ける。
「ぎゃぁぁああああああ!!!」
「大丈夫、恐れることはない!私はお前のすべてが好きだ。もちろん、悲鳴も、声も、何もかも……な?」
そっと顔によって、キスをする。
何故、震えている?
寒いのか?
「よし、そんなに寒いなら仕方あるまい!私の上着をかしてやろう!」
彼は、誰にも渡さない。
絶対に。
私だけのものだ。
何度も何度もキスを重ね、「ずっと一緒だからな?」とつぶやいた。