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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

婚約破棄された公爵令嬢は、帝国皇女に「遅すぎます」と告げられた

作者: 雪乃
掲載日:2026/04/08

――中立地帯イルグノルド島、聖イリエルキア学園。

各国の王侯貴族や優秀な平民が集い、次代を見定められる場所。


卒業式の日。

在校生に見送られ、自国へ帰るためのお別れのパーティーは、晴れやかな空気に包まれていた。

その空気を引き裂くように、声が響く。


「サフィア・ド・ペドロ公爵令嬢!俺はお前との婚約を破棄する!」


パーティー会場の中央。聖女ヒカリを腕に抱きしめて、高らかに宣言するのはエウベル王国第二王子のユベール殿下。そして、わたくしサフィアの婚約者でもある。


「同時に聖女ヒカリに対する数々の悪業を、ここに告発する!」


ああ、殿下……どうして……どうして、踏みとどまってくださらなかったのです。


冷たい何かが、頬を伝った気がした。


________


あれから何日経っただろうか。今日も寮室の窓から、変わり映えしない外を眺める。わずかに反射した窓硝子に映る釣り目がちな蒼い目は、憂いに満ちて心なしか目尻が下がっている。


あの後、会場は騒然となった。エウベル王国第二王子が公衆の場で婚約破棄を宣言し、その婚約者が行ったとされる聖女ヒカリに対するいじめを告発したから……だけではない。

周りが止めず、元婚約者となったサフィアが何も言わないのをいい事に、尊大な言動が増していったからである。

そしてとうとう踏み越えた。

いいえ、婚約破棄を口にした時点で、既に越えていたのだ。

その先が地雷原だとも知らずに、殿下はなおも踏み込み続けた。


エウベル王国よりも歴史だけでなく、国力も格上の帝国皇女に、聖女ヒカリと一緒になって不敬な発言をした挙句に、悪意を持って侮辱したのだ。誰かが呼んできた学園長によってその場は解散となったが、出席していた者たちの顔は険しく、空気が重かったのを覚えている。

わたくしたちは別室に呼ばれ、事情聴取の後に寮室謹慎処分となった。ユベール殿下が入学してまだ1年も経っていないのに、この騒ぎ。幾ら中立地帯で、島内で起きた問題を対処する権限があっても、今回は学園内で収まらないだろう。そう考えただけで、憂鬱な気持ちとユベール殿下に対する失望だけでなく、現状に対する絶望感が押し寄せてくる。


「お嬢様、紅茶を入れました。お飲みになってひと息入れましょう?先程から、ずっとため息をついております」


「いつもありがとう、セシリー」


「いいえ、これぐらいしか出来ないので……」


「そんな事ありませんわ。貴女が傍にいてくれたお陰で、わたくしは崩れずに立っていられました。……それで、本国から連絡は来ましたか?」


「残念ながら、王家だけでなくペドロ公爵家からも連絡が来ておりません」


「困ったわ。現状、わたくしは謹慎処分が解除されていないから手紙しか書けないし……殿下方の様子は?」


「申し訳ありません。情報が入ってこないのです……」


本当に申し訳なさそうな顔で、こげ茶色の頭を下げる。長いこと私に仕えてきた、この優秀な侍女が情報を拾って来られないなら、情報統制されている可能性がある。ただこの学園は情報統制をしない代わりに、中立である事を認められているから、その線は薄いだろう。最も、学園では収まりきらない外交問題が起きた場合は……


チリリン


不意に、来客用のベル音が耳に入った。その音に、先程までの思考が途切れる。


「!」


「来客?お嬢様、見て参りますので少々お傍を離れます」


「ええ、お願いね」


「はい。失礼いたします」


居室から出ていく後ろ姿を見届け、もう一度考えを巡らせかけた。けれど、それも慌てて戻ってきたセシリーの様子に吹き飛ぶ。


「お嬢様、大変です!」


「落ち着いて、深呼吸して。来客はどなただったの?まさか、嫌な報せでも来た?」


「ち、違います!今、部屋の外にメアルシオン帝国のオウカ皇女殿下と皇女殿下付きの女官が、お見えになりました!」


「なんですって!?何をしているの!早くお通しして!」


「はい!」


なんてこと!?ユベール殿下が散々無礼を働いたお相手が、お見えになるなんて!でもなぜ、わたくしに?それに……いつもご婚約者のドラグニオン公子殿下と連れ添ってお出でなのに今日は一緒ではないの?

兎に角、これ以上のご無礼がないよう、努めなければ!


近くに掛けてあった鏡で軽く身だしなみを確認する。普段緩くうねる金の髪は、綺麗に編み込まれて纏まっている。ドレスも皺ひとつなく、汚れもない。完璧とまではいかないものの、出迎えるには十分だと思いたい。

ほどなくして、セシリーがオウカ皇女殿下であろう人を連れて入ってくる。


「ようこそ、おいでくださいました。オウカ皇女殿下。エウベル王国のペドロ公爵家の娘、サフィア・ド・ペドロと申します。謹慎中の身ゆえ、十分なおもてなしが出来ませんが、どうかご容赦くださいますよう」


「丁寧なお出迎えをありがとう存じます。メアルシオン帝国の皇女、オウカ・レギナ・メアルシオンと申します。頭をあげてくださいませ。」


「はい」


下げていた頭を、言われたとおりに上げる。

遠目にお見かけしたことは何度かあった。けれど、こうして間近にすると受ける印象はまるで違う。

艶やかな黒髪、すべてを見透かすような黒い瞳、整いすぎるほど整ったお顔立ち。

そして何より目を惹くのは、年齢よりもはるかに幼く見えるそのお姿だった。

メアルシオン帝国の皇女にして、創世神冠天より生まれながらに加護を受ける神子――オウカ・レギナ・メアルシオン皇女殿下。

そんな尊きお方が、今、わたくしの目の前にいる。


「まず、先触れもなしに来たことを謝罪いたします」


「滅相もございません!むしろ、我が国の第二王子が不敬をいたしましたことを、ここに謝罪させていただきたく……」


「その件もあって伺いました」


「……っ。本当に申し訳ございません」


「今、謝罪は必要ありません。お尋ねしたいことと、通達があってここにいます」


「つう……たつ?」


「お嬢様、席をお勧めに」


「重ねて、失礼いたしました!遅くなりましたがどうぞ、席にお座りくださいませ」


皇女殿下の言葉に、疑問で立ち尽くしそうになった。そんなわたくしに気付いたセシリーが、小声で耳打ちしてくれた。ペドロ公爵令嬢たるもの、いかな急な来客とはいえ、相手に席を勧めないなどありえない失態。セシリーには感謝してもしきれないわ。

皇女殿下が座ったのを見てから着席する。すかさずセシリーが紅茶を入れ直してそれぞれの前に置いてくれた。改めて、皇女殿下の方を見る。後ろには殿下付きの女官が斜め後ろに佇んでいる。噂によれば、準皇族であるらしいその方は、どことなく皇女殿下と似ていらっしゃる。


「よい紅茶ですね。この香りはエウベル産の茶葉ですか」


「お分かりになりますか?我が領で生産されているお茶ですの」


「そうなのですね」


長い睫毛がわずかに伏せられる。

幼い姿をしていても、指先まで洗練された所作に揺らぎはない。

神子は成長が著しく遅くなると聞いてはいたけれど、実際に目の当たりにすると頭が混乱しそうになる。

――いえ、今はそれどころではありません。頭を振りそうなるのを咄嗟に抑える。それに、お姿の事をあまり気にしては、幼い姿を揶揄して嘲笑ったヒカリ様の同類とみなされてしまいます。


「あ、あの……お尋ねしたいことと、通達とは、何のことでしょうか」


しまった。もっと言いようがあったでしょうに。後悔に気が沈みそうになる。そんなわたくしを、しばらく見つめた皇女殿下はゆっくり口を開いた。これから、何を言われるのかと身構えてしまう。


「ペドロ公爵令嬢、あなたはいつ自分の役目を自覚いたしました?」


「え……」


「途中から、エウベル第二王子殿下を諫めるのをやめたでしょう?いつ、あなたは、自分の本来の役目を、自覚いたしました?」


後ろからセシリーの息をのむ音が聞こえる。わたくしも言われた言葉を理解して呼吸が止まりそうになった。自覚……わたくしは、自覚をしたのではない。父に叱咤され、諭された。そこで自分の考え違いを知った。でも、自分の役目を知っても、殿下から距離を置かなければならない状況に心が痛かった。


「わたくしは、あなたの立場を考えると気の毒に思います。ですが、気の毒だと思うのと、評価するのとでは違います。この学園が何のためにあるのかはご存じですね?」


「……各国の次代を担う若者を見定め、その情報をもとに国がお互い距離を置くか、友好を結ぶかを決めるための場です」


「ええ、そうです。この学園に入学する者は、平民でさえ国が後ろ盾になって送り出す。生徒は、階級関係なしに国の代表者と見做される。だから送り出す国は、事前に礼儀作法や規定水準の教養を身に付かせます。王侯貴族ともなると、余計に神経を尖らせて教育が厳しくなるでしょう。なぜなら、王侯貴族だけでなく平民ですら、個人ではなく、その後ろにいる国を見る。ここはそういう場所です」


「……」


知っている。痛いほど知っている。殿下と聖女は、学園が中立地帯だから、みんな平等だと思い込んでいた。だけど現実は違う。少しの間違いが、自国の評価につながる。失敗の許されない場所。現に、殿下たちが問題を起こすたび、在学生から各国に報告が飛んでいた。学園はその行動を、止める権利は持っていない。小さな外交の場、それがこの学園の本質。


「わたくしは最初、あなたを責任感があり、我慢強い令嬢だと思っておりました。気ままに振るう婚約者と聖女を必死に諫めようとする健気なお方だと」


まさかそんな風に見られていたなんて夢にも思っていなくて、伏せがちになっていた顔を思わず勢いよくあげる。そんなわたくしの様子に気にも留めず、皇女殿下は言葉を進める。


「失礼ながらあなた方の事を調べさせました。」


その一言に全身が硬直する。知られている。わたくしの過ちを。わたくしの考え違いを。


「驚きましたわ。あなた方の様子から見て、ペドロ公爵家の方がエウベル王家を慮る立場にある、とばかり思っていましたのに……。ふたを開けてみれば、揺らいでいる王権を補強するため、王家側が中立派筆頭のペドロ公爵家に政略結婚を打診したというではありませんか。あまりの衝撃にわたくし、危うく報告書を落としかけたのですよ。」


ふふと、優雅に笑いながら皇女殿下は茶器に口を付ける。その動作すら嫌になるほど美しかった。だけど、その内容はわたくしの心を冷やすのに十分だった。


「王家の後ろ盾。中立派閥筆頭家の令嬢。」


「何をおっしゃりたいのですか?」


「そうですね。単刀直入に申し上げます。あなたは、公爵令嬢としても、王家の後ろ盾としても、あまりに手ぬるい。耐えて諫めることに終始しておられるのでは足りません。耐えることは美徳でも、国を支えることとは別です。普通の令嬢でしたら許されたのでしょう。ですが、あなたは違う。ご自身の言動が、公爵家だけでなく派閥をも巻き込むという自覚が、あまりに足りませんでした」


胸の奥を、冷たい刃で静かに抉られたような心地がした。

反論したいのに、何ひとつ間違っていないからこそ、言葉が出ない。


「それは!」


「お黙りくださいませ。まだ話している最中です。」


その言葉に反射的に口を閉ざす。何を言われようと、隔絶された身分差がそこにある。他国とはいえ、公爵令嬢が皇女の話を遮るのは不敬に当たる。学園は中立地帯だが、身分平等の校則は存在しない。そんな校則を作ってしまっては、儀礼法が出来ているかの見定めが出来ないと考えられたからだ。


「途中でご自分の役目に気づいたのは結構。……いえ、ペドロ公爵様に諭されましたか。だとしても、動くのがあまりに遅い。致命的と申し上げても過言ではありません。帝国の中立派でしたら、ユベール殿下は入学前の時点で排除されていましてよ。表に出ることは一切なかったでしょう。幼少期から、後ろ盾であるあなたを蔑ろにしていた。その時点で、表に出してよい方ではないと判断できましたでしょうに」


排除。

あまりにも静かな口調で告げられたその一語に、背筋がぞくりと粟立つ。

口の中が乾くのを感じる。今、目の前にいる皇女は何を言っているのだろうか。理解しようにも、脳が拒否をする。


「上が荒れれば民が巻き込まれる。ええ、その通りです。けれど、他国を巻き込んだ時点で、もはや国内の揉め事では済みません。内乱で国が荒れた時の被害で終わるのであれば、まだ国内で傷を負うだけです。ですが、中立地帯で、しかも国外の王侯貴族と神子を相手に問題を起こした以上、被害はその程度では収まりません。あなたは公爵家に働きかけて、第二王子殿下は表に出せる存在ではないと両家に進言するべきでした。理解していますか?」


「……はい、今は理解しております」


「……あの!無礼を承知で申し上げます!確かに今回はユベール第二王子殿下方が不敬を働きました!ですが、あ、あまりにも越権行為ではありませんか!?」


項垂れるわたくしを庇う様にセシリーが一歩前に出る。思わずセシリーを見た視界の端に、皇女付きの女官が動きかけて、皇女殿下に手で制されたのが見えた。皇女殿下の冷ややかな目が、セシリーに突き刺さる。


「越権行為……ですか」


「そうです!エウベル王国の第二王子殿下の扱いや、お嬢様の動きに対する指摘、いかなメアルシオン帝国の皇女殿下であらせられようと、あまりにも踏み込みすぎです!エウベル王国は帝国の属国ではありません!なのでこれ以上、お嬢様を責めないでください!」


叫ぶようなセシリーの言葉に胸を打たれる。目が熱くなるのを感じる。許されるなら、セシリーに抱き着いて泣きたい。


「……なるほど。何も知らないのですね」


「え……?」


皇女殿下は、ほんのわずかも表情を変えなかった。


「エウベル王国は、滅びました」


何を言われたのか、分からなかった。

言葉としては聞こえたはずなのに、意味だけが理解できずに滑り落ちていく。


「卒業式の夜でした。第二王子殿下の件で王権が弱ったのを見て、ベルカイツ王国が侵略を開始。翌日には王城陥落。国王、王妃ともに崩御。ペドロ公爵家は……国と民を見捨てて亡命しようとしていたところを帝国の者が確保しました」


「うそ……」


目の前が真っ白になる。自分の呼吸が浅くなっていくのがわかる。愛した祖国が、誇っていたはずの祖国が既にない。それだけじゃない……家族が何も知らせずに、民を見捨てて亡命しようとしたなんて……信じたくなかった。受け入れがたい現実が突如として目の前に横たわった。


「残念ながら嘘ではありません。わたくしが冠天の神子であることは、ご存知かと思います。冠天様から神託を受け、ルーデンス元王太子殿下は保護いたしました。生きてお出でですからご安心してくださいな。第二王子殿下方も、学園内にいらしたので無事ですよ」


皇女が何かを言っている気がするが、酷い耳鳴りで頭に入ってこない。足元が崩れていくような……そんな感覚が襲ってくる。立っていられなくて、その場に膝をついた。いや、ひざを……あれ……?陸にいるはずなのに、溺れているかのように苦しい!叫びながら喉を搔きむしる。


「うそ!うそ!そんな!」


「お嬢様!お気を確かに!」


「……ペドロ様は錯乱して聞こえないようなので、今からお伝えすることをクリツルドラン様が覚えてくださいませ。残念ながらあなた方には、時間的猶予がありませんので。」


「……かしこまりました」


「よろしい。まだ帝国は、ベルカイツ王国兵を掃討中です。裏で糸を引く組織もいるようで、しばらくは時間がかかるでしょう。エウベル王国が無くなった以上、あなた方は学園にはいられません。以後、帝国預かりとなります。それから、先ほどの“属国ではない”というお言葉ですが、撤回を。」


皇女殿下の声が一段と低くなる。威圧をされていないのに、空気がさっきより重い。


「我が父、トウマ皇帝陛下は、属国化を条件としてエウベル王国の再建を全面的に支援することを決定いたしました。ルーデンス元王太子殿下には、帝国の公女を王妃として迎えていただきます。ペドロ公爵家は……亡命を図った罪により、二階級降爵。本来なら剥奪相当ですが、貴族が減りすぎました」


そこで一度、皇女殿下は睫毛を伏せた。


「なぜ、内乱など起こしたのやら」


内乱の一言に、正気に戻る。一体どういうことか。喉を掻きむしる手をつかんでいたセシリーが、安堵の息をついたが、気にもならなかった。それほど、その一言が信じ難かったから。


「内乱って……どういうことですか?」


「言葉の通りですよ。貴族派が王族派を急襲して、内乱していたところをベルカイツ王国が侵攻したようです。なので、ベルカイツ王国兵によって亡くなられた方より、内乱で命を落とした貴族の方が多いようですね」


貴族派による内乱。それは王家と父が危惧していたこと。そして、中立派が後ろ盾になることで抑えられていた。それが現実になった。改めて自分の罪深さを自覚して、心の奥を抉った。何も言えず顔を覆って泣くことしかできない。


「う、うぅ……」


「お嬢様……」


「お覚悟くださいませ、ペドロ様。あなたには、再教育を受けていただきます。亡命を図ったあなたの兄君では貴族当主を任せられません。新しい婚約者も、帝国で用意します。……丁重にお連れして」


「はっ!ご令嬢方、こちらへ」


いつ入ってきたのかわからない数人の帝国騎士が、わたくしたち二人に部屋から出るよう促す。あまりの展開に逆らう気も起きず、重い気持ちで先導してくれている騎士に着いていく。


「ああ、忘れていました。クリツルドラン子爵家も無事保護しておりますので帝国でお会いできると思います。」


セシリーの足が一瞬止まりそうになる。クリツルドラン子爵家は、セシリーの生家だったはず。よかった、セシリーの家族は無事だったのね。そして、わたくしの家族もきっとそこにいる……。

ほんの少しの安堵と、亡命を図ったという家族への複雑な気持ちと、これからどうなるのかという不安に駆られながらも、さっきよりはしっかりとした足取りで歩きだす。


「……せめて、帝国で少しでもあなたがたの心が安らぎますよう、願っております」


そんなわたくしたちの背中に微かに聞こえた言葉。

ああ……厳しいことを言っていたけど、皇女殿下も酷い方ではないのだろう。そう、感じた。


________



「ペドロ公爵家の名前に恥じぬ娘として、ユベール殿下の婚約者となれ」


そう父に言われた時、期待されていることが、幼いながらも嬉しかったのを覚えている。

その期待に応えるため、王子の横暴に耐え、時には諫めもした。

けれど――ああ、わたくしは何もかも見誤っていたのですね。


後悔しても、もう遅い。エウベル王国は滅び、帝国の属国として再建されることになった。

わたくしは今、再教育という名の厳しい領主教育を受けている。

それなのに。いいえ、だからこそなのでしょうか。前よりも、生きている心地がするのです。


それに、婚約者も決まりました。

祖国のこともペドロ家の罪も、わたくし自身の過ちも知ったうえで、なお尊重し、支えてくださる方です。

あとでこっそり伺ったのですが、オウカ皇女殿下直々の推薦だったのだとか。彼ならわたくしを蔑ろにせず、かといって甘やかしすぎることもないだろう、と。

……皇女殿下らしい、と思わず少し笑ってしまったのは、ここだけの話です。


わたくしは今日も学びます。

ペドロ公爵令嬢ではなく、ペドロ女伯爵として立つために。

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