ギルドに登録
ダンジョンコレクターズとアオハに連れられて、彼が辿り着いたのは探索者ギルド【チャンピオンズ渋谷】という施設だった。
「ここが俺たちが在籍してるギルドなんです。ギルスさんは、探索者ギルドに入ったことはありますか?」
「いえ」
「じゃあ俺が説明します。まずは入ってみましょう」
リーダーは気さくな男で、探索者ギルドの施設や、どういう場所であるかを丁寧に教えてくれた。
ギルドのカフェスペースと呼ばれる場所では、多くの老若男女が集い、熱心に探索についてを語り合っている。
(俺がいた世界でいう、酒場のようなものか)
ギルスがいた異世界では、探索者ギルドと呼ばれる場所はない。仲間を募集するのは大体の場合酒場だった。
異世界では村でも町でも、酒場は必ずある。血の気が多い連中が喧嘩していたり、旅に出る仲間を探していたり、騒ぎが絶えない場所だったことを覚えている。
(この世界の連中は、随分と穏やかだ)
彼からみて、ギルドに出入りする人々は実に落ち着いており、平和的に思えた。
でも日本の社会人からすれば、野蛮に映りかねない場所だ。
ユリカはふと、この話の流れに嫌なものを感じていた。
「もう紹介はこの辺で良いでしょう。さあギルスさん、私と一緒に」
「ってかさぁ、良かったら登録していかない?」
ダンジョンコレクターズの女メンバーが、せっかくだからと登録を誘ってきた。
実際のところ、これが彼らの狙いでもあった。たった一人で大型モンスター達を駆逐したギルスを、どうしても仲間にしたかったのである。
「今なら私たちの紹介で、登録料タダにできるよ。普段は数万くらいはかかっちゃうんだよね」
探索者ギルドにはいくつもの派閥があり、登録料も様々だ。チャンピオンズは大手のギルドであり、登録料が高い。
「月謝とかあるのか」
「ないよ。登録しちゃえば、あとはタダ! ね、それだけ今日はしておかない?」
「ダメですよ、みなさん」
ここでユリカが前に出る。流石に看過できないという様子がありありと出ていた。
「ギルスさんはまだ帰還したばかりです。最低でも半年は経過を見守る必要があるでしょう」
リーダーは彼女の発言を聞いて、明らかに驚いていた。
「いやいや、流石に半年は長いですよ。大抵の帰還者は、一ヶ月もすれば余裕でダンジョン潜ってる人が多いじゃないですか」
「でも……」
「登録だけで、すぐに潜りましょうと言ってるわけじゃないんです。後々本人がやりたいって思った時に、結構苦労すると思うんですよね。今やったほうが楽でしょ」
リーダーの反論に、ユリカはなかなか言い返せずにいる。
確かに、半年も経過を見るというのは長い。
ここまで個人に干渉しているダンジョン庁職員は、実のところユリカを含めてほんの数名程度しかいない。
「登録だけならやってみるか」
ギルスも別に、登録するだけで放置でよければ、特に気にすることもなく同意した。
この一部始終を、アオハは少し後ろからワクワクしながら見守っている。
(もしかして、未来のトップランカーの誕生を目にしてるのかも。これって超凄いことだよね!)
彼女の強い好奇心は、ギルスの背中にずっと注がれている。彼にとって迷惑な視線だ。
アオハだけではない。ギルドにいる百人近い探索者達は、誰もが彼のことを気にかけていたのである。
探索者として登録がされれば、自分達もあの男を誘う権利が生まれる。
しかもダンコレの窮地を救い、一方的にモンスターの群れを討伐した実力者とのこと。注目されるのは当然だ。
ユリカとダンコレメンバーの言い合いは続いたが、結局のところ本人の意思により登録することになった。
「ギルスさん。本当に登録だけですよ。いいですね?」
「はい。まあやるにしても、ユリカさんのいうとおり、半年は控えようと思います」
この一言で、ギルスの担当である彼女はホッと胸を撫で下ろしていた。
そして受付で登録を始めたのだが、意外にも書類に書かなくてはいけないことが多々あり、面倒な作業が続く。
(やはり酒場とは違う)
かつての異世界で仲間を集めたことを思い出し、彼は嘆息した。
しかし、ダンコレリーダーと受付嬢が丁寧にサポートしてくれたおかげで、登録は滞りなく進み、そして完了した。
「おめでとうございます。今日からギルスさんは、ここチャンピオンズのメンバーになりました。最後に、アピールポイントを残しておきませんか」
「アピールポイント?」
受付嬢の言葉に首を傾げていると、彼女は個室の奥から奇妙な器具を運んできた。
「魔力を測っておきませんか。ちなみにですけど、魔力はランキング形式で、あちらに表示してるんです」
ギルドのカフェスペースには大型の壁テレビがあり、その横にもいくつかのモニターが置かれている。
モニターの一つには、様々なランキングを表示できる画面があり、上位五名がまず初めに映し出される仕組みだ。
「それに触れると、魔力が測れるんですか」
「はい。あ、ちなみにですけど。魔力は非開示にすることもできます」
魔力、という単語が地球でも普通に話されていることに、ギルスは少々驚いた。
魔力とは、魔法をはじめとした様々な力を発動させるために必要なエネルギーであり、異世界では誰がも当たり前のように持っている。
彼の記憶では、地球人は誰も手にしたことはなかったはず。また一つ過去を思い出した。
だが、ダンジョンに潜るようになり、なぜか地球の人々も少しずつ超自然的なエネルギーを手に入れることが可能となっていた。
魔力を測定できる器具は、見たところ上腕式の血圧測定器に似ている。
というより、実際に腕を通すところは一緒である。その後、腕に幾つもの光エネルギーが当てられ、全体の魔力を図ることができるという。
「先に、私がお手本を見せてあげよっか」
ダンコレの女メンバーが、まずは自分がと腕を通してみせる。
「じゃあ測定しますね」
「ほーい」
言われるがまま、彼女は瞳を閉じて測定が終わるのを待っていた。機械音と共に、腕に幾つもの電流が流されていることが目に見えて分かる。
細い極小の稲妻のようなそれが消え去った時、測定は終わっていた。
測定器の数値をじっと見つめていたアオハは、全てが表示された画面を見てあっと驚く。
「ガチですかこれ! 最大九百!? しかも最低でも五百……って。平均より二百も高いですよ」
魔力は最大数値と最低数値があり、調子の波で多少の上下が出る。
最大値九百は確かに上位クラスであった。
探索者ギルドにいた人々から、驚きの声が上がる。こういった反応を、ギルスは注意深く観察していた。
「やっぱこの前大変だったから、上がったのかもね」
「さすがはダンコレのメンバーさんですねえ。ではギルスさん、やってみましょうか」
「はい」
今度はギルスが受付嬢の前に立ち、左腕を測定用の穴に通した。
(数値なんてどうでもいいが、もし目立ったら面倒だ。抑えるとしよう)
彼は瞳を閉じると同時に、身体中の魔力の流れを緻密にイメージし、それらにロックをかける試みに出る。
こうした動きを魔力操作と呼ぶこともある。魔力の強弱を操ることは、戦いにおいても重要であった。
腕に微量の光が当たっている時、彼はひたすらに心を沈め、力という力が体から消え去ることを思い描いた。
そして数秒が経過し、電子音が流れたところで、測定は終了した。
「はい、終了です。ギルスさんの魔力は……」
ここで受付嬢の動きが止まる。目を丸くしていた。
「あれー? なんか機械が壊れちゃったかもしれません。全部化けちゃってます」
「えー! こんな時に!?」
少し後ろから見つめていたアオハが、残念そうに叫んだ。
どこかほっとしていたのはユリカで、他の人々は妙な偶然に驚いている様子だ。
(ばけというのはよく分からないが、多分成功したか)
魔力測定器は優先的に修理をすることになり、彼の力は計り損なったように思われた。
そしていくつかの話を終えた後、ようやく一同は解散することになる。
ギルドを出て、ダンジョンコレクターズのメンバーともひとまずお別れし、彼はユリカと共に帰ることになった。
ところが、
「あ、あのー」
と少しばかり申し訳なさげに、後ろから話しかけてくる少女がいた。
「あら? あなた、どうしたの?」
「えへへ! はい! 実はあたし、ギルスさんにお礼がしたいなって思ってたんです。あの……これ、受け取ってもらえませんか」
両手で差し出されたプレゼントに、ギルスはなぜか懐かしさを覚える。
四角い箱の中に入っているのは、まるでラジコンのような何かだったからだ。




