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異世界召喚ですり抜け扱いされた俺が、実は魔王であることは誰にもバレていない  作者: コータ


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11/12

雑談配信

 ギルスはスーパーから購入してきた野菜や肉を、フライパンに放り込んでいた。


 今日はすき焼きを作っている。


 自炊についても、だいぶ腕を取り戻してきた気がする。転移した先の世界では、ほとんどすることがなくなっていた。


 かつての自分に徐々に近づいている。そんな気がして、この日は気分が良かった。


 だから料理の合間に、ふとスマホをいじることにも挑戦していた。


(これがUtubeのアプリ画面か。しかし、随分と細かいな)


 アオハに教えてもらったマイページを見てみたが、正直理解が難しい。だが分からないなりに、とりあえずいじってみる。


 そうしているうちに、彼はいつしか配信のボタンをタップしていたのだが、全く気づいていなかった。


(お、そろそろか)


 スマホをテーブルの上に置き、台所に戻る。そろそろ仕上げで良さそうだと納得していた。


(豆豆腐みたいにならなくて良かった。ん?)


 さて食事をしようかと思った時、ふとスマホ画面がいつもと違っていることに気づく。


 画面にはなぜか、ギルスと部屋が映っていた。


 さらには、少しずつではあるがコメントが書き込まれている。


:始まった?

:あれ

:……え

:ちょっと待って。このアカウントで合ってる?

:唐突過ぎるやろ

:雑談か?

:特定班が見つけたはずだけど……あれ?

:おーい

:こんばんは

:なんだなんだ

:きた! 始まって……ない?


「なんで俺が映ってるんだ?」


 スマホを手に取り、ミラーになっている自分を見つめた。チャットが徐々に増え、少しずつ加速している。


 ギルスにとっては、何がなんだか分からない。すき焼きを食いながら、この謎を解明しようと悩んでいた。


 すると、スマホの上部にLINのチャットが届いた。アオハからだ。


:雑談始まってる! いきなり同接五万ってレベチじゃないですか!


 ギルスはまたも理解ができなかったので、LINをタップし起動させ、いろいろ聞いてみることにした。


:どした? きゅうにおれがスマホにうつてるんだが

:あれ? もしかして間違って始めちゃった感じです?


 間違って始めた、ということに引っ掛かりを覚えていると、アオハから続けざまにチャットが送られてくる。


:今ギルスさんは、Utubeの配信を始めたんですよ

:配信ボタンを押しちゃったんだと思います

:せっかくだから、みんなと雑談しちゃいませんか

:適当に喋っちゃえばおけです

:ってか、もう同接十万!? ガチやば! 完全に見つかってる!


(配信ボタン……そういえばそれっぽいのを押した……ような気がする。配信というものを始めてしまったのか)


 みんなと雑談する、ということがまだ掴めていないうえに、アオハのチャットはところどころ意味不明だった。


 でもとにかくギルスは、スマホに向けて声をかけてみる。


「こんばんは」


 これで何か変わるのか?


 そう訝しく思っていた彼だったが、変化は明らかに起こっていた。


:喋った!

:やっと喋ったぁあああ

:時代に追いついてなさすぎて草

:ギルスさん、こんばんわ

:イケボじゃん

:みた感じふつーだなー

:最初の挨拶まで十分以上かかってるの初めて見たわ

:喋ったよぉおおおーーー

:クララが立ったみたい

:異世界のこと聞かせてください

:初めまして

:身長何センチくらい?

:ダンコレの配信でファンになりました

:見た目の割に落ち着いてる

:今何歳なんですか

:趣味は?

:初めて声を聞いた!

:日本語話せないのかと思ってた

:喋った!?


「お、おお。文字がどんどん流れていく」


 雪崩の如く押し寄せてくるチャットに、彼は驚いてしまう。


 しかし、雑談と言っても誰も声は発していない。困惑していると、アオハがLINメッセージで手助けをしてきた。


:その流れてる文字、全部画面の外にいる人なんです

:みんなは文字で、ギルスさんと交流したいって感じです


「へえ」


 徐々にだが、配信について理解できてきた。しかし、この後どうしていいのか分からないことを伝えると、アオハは「頑張って」と書いてあるスタンプと共に、こう伝えてきた。


:雑談なので、適当でおけです! 聞かれたことに答えたり、ご飯食べながら自己紹介したり、そんな感じでいきましょー


(適当でおけ……適当でオッケーという意味か。自己紹介でもするか)


 とりあえず晩飯を食べながら、ギルスは自らのことを伝えてみることにした。


「俺の名前はギルス。本当の名前はまだ思い出していない。元々地球で生まれ育って、異世界に転移して、やっとここに戻ってきた。記憶をだいぶ失ってしまって、パズルのピースを埋めるみたいに、少しずつ思い出しているところなんだ」


 軽く伝えてはみたが、紹介できる内容はほぼ誰しもが知っていることだった。


 しかしこれだけでも、チャットの流れは格段に早くなる。一つ一つが画面の外にいる人だと知り、驚かずにはいられない。


 そんな中でも、彼はとにかく質問に答えながら、現代の交流に順応しようとした。


 特に気になった質問は、この二つだ。


:異世界はどんな感じの世界でしたか

:異世界でギルスは何をしてたの


「異世界は、この世界よりずっと荒れていて、化け物みたいな連中で溢れていた。世界中で戦争が起きていたが、俺がいなくなる少し前にようやく終わったんだ。俺自身はといえば、日雇いの力仕事で生活を凌いでいたな」


 最後は嘘である。ここで本当のことを語って、拡散されたら何があるか分からない。


 アオハもまた雑談配信に飛び、彼の一言一言を熱心に聞いていた。


:向こうの世界について、もっと教えて


 このチャットが目に入り、ギルスはできる限り丁寧にあちらの世界についてを語った。


 だがこの時も、自分についての内容はできる限り伏せている。


 チャット欄が盛り上がるにつれて、やはりギルス自身についての質問が増えた。


:ってか、あんな化け物クラスの魔物達を一人で倒すってどんだけヤバいんだよ


 このチャットを目にした時、彼はふと違和感を覚える。


「化け物クラスの魔物っていうのは、この前やったあいつらのことか。その表現は大袈裟だと思う。あの程度なら猫と一緒だ」


 ギルスは本心から口にしていた。この世界においては上位の化け物とされているが、異世界では大した相手ではない。


 永きに渡り異世界にいた彼は、地球にいた頃と比較して感覚が大きくズレている。


:え?

:ちょっと待って

:あれが猫と変わらない?

:ちょ、

:向こうの猫はどんだけデカいの??

:余裕ありまくりの発言

:やっぱこの人が化け物だわ

:は?

:猫と同じなわけないやろー!

:草

:無自覚すぎて草

:えええ……

:絶対只者じゃないなこの男

:マジで言ってます?

:あんな猫ばっかりいたら人類滅ぶわ

:次はいつダンジョン潜るの?

:修羅の世界すぎるって!

:ダンジョン配信みたい!

:ヤバい、この人ヤバい


(なんだこの反応は? 俺はおかしなことを言っただろうか)


 何気ない発言一つで、大騒ぎをされているような気がする。


 動体視力が尋常ではなく良い彼は、猛スピードで流れるチャット全てが目に映っており、困惑を余儀なくされていた。


 続いて目に留まったのは、ダンジョン探索についての質問だった。


「次はいつダンジョンに潜るか……か。あっちの世界とどれだけ違うのか、興味がある。近いうちに一度は潜ってみようと思っている」


:キターーーー!

:ダンジョン挑戦宣言!

:絶対潜ってくれ

:いつ頃? ねえいつ?

:これは絶対見逃せないやつ

:チャンネル登録しました

:応援してます

:ソロかな?

:いよいよ見れるぞおおお

:来週とか? 早くみたい

:いつになるかなーそわそわする

:パーティ組むのか気になる

:超楽しみだわ

:事前告知よろ

:おおおおおおおおおお

:普通に考えてパーティ組むだろ

:やったぜ

:まさかダンコレとコラボとか!?

:すげー楽しみっす!


(なぜこんなに盛り上がってるんだ?)


 ギルスはあまりに大きな反響が来たことで固まっていた。


 実はこの時、同接は二十万を超えていたが、そもそも同接が分かっていない彼は事態を把握していない。


 だが、好感触であることは伝わっていた。


「よく分かっていないが、楽しみにしてくれるのか。ダンジョンに行く日はもうすぐだ。半年後に向かう」


:……は?

:ちょ

:え

:半年後?

:おっそ!

:全然すぐじゃないよぉおおおおお!

:遠すぎて草

:時間感覚おかしくない?

:半年も待てません!

:草

:待たせすぎやろ!

:準備期間長すぎて草

:フットワーク重すぎ

:草

:ええええええ

:せめて一週間で頼む

:これだけは異世界帰りは

:無理無理無理無理待てない

:なが!

:早くぅ! もっともっと早く潜って!


 チャット欄はあっという間にツッコミの嵐になり、彼は首を傾げてしまう。


 だが、なんだかんだで雑談配信は成功に終わり、ギルスは大きな学びを得た気分になった。


 しかし、実は探索は半年後ではない。


 想像よりもずっと近く、そして意外な形で、ダンジョン配信は実現することになる。

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