第2話:ぼろ負けしました
帽子を被っててマスクもしているし、メガネもかけているから顔の大半は隠れてるんだけど明らかに可愛い。
「こんにちは。よろしくお願いします」
最低限も最低限な返事だが、より高まった緊張感の中では精一杯な返事だった。
相手が席に着いて準備をしている間、視線を感じたのでなんとなく周りを見渡してみる。
対戦をしながらチラッ、チラッと目線だけをこちらに送っている人が数人いたので、それらが感じた視線の正体だろう。
正確には皆俺の対戦相手の方を見ている。
部屋の中に他に女の子がいないわけではないが、なんというかオーラが一人だけ違うせいだろう。
初めての場所での初対戦にこんな人と当たることもあるのか
驚きで更に緊張してきた。
視線を上げ顔を見る余裕など全く無いので、相手の手元を見ながら対戦前のルーティンを始めた。
「よろしくお願いします。シャッフルはしますか?」
質問しながら相手が手持ちのカードを差し出す。
「はい。私のもお願いします」
返事をしながら俺のカードも相手に差し出した。
受け取ったカードは適当に3つの山に分け、元と異なる順番で重なるように重ねた。
相手の方を見ると同じようにやっている。
見慣れた動作を見ることでほんの少しだけ緊張が和らいだ。
戻ってきたカードを所定の位置に置く。
あとは先攻後攻の順番を決めるだけだ。
この場所ではサイコロで決めるのが通例らしく、相手が手慣れた様子で机に置いてあるサイコロを振った。
俺は後攻か。
通常と同じルーティンが続くほど緊張は更に少しずつ和らいでいく。
自分の初回の手札を見つめる頃にはだいぶ平静を取り戻していた。
余裕ができたし、相手はまだ考え中のようなので少し視線を上げてみた。
……あれ?
思わず声が出そうだった。
なんとなく見覚えがある。
知人友人では無さそうだ。
だが、確実にどこが見たことがある。
思い出そうとしている間に相手がカードを出し、相手のターンの終了を宣言してきた。
次はこちらのターンだ。
自分のカードの山から新たに1枚取るが、頭の中は思い出すのに必死にだった。
カードを手札から数枚出し、早々にこちらのターンの終了を宣言する。
相手が考えている間に再度顔を見たいからだ。
堂々と見る勇気は持ち合わせていない。
自分の手札、場のカード、相手の手元と順に視線を動かしていき、そのままの流れで顔を見た。
わかってはいたが、メガネ越しの目元しか見えない。
この人は絶対可愛い、目元だけでわかる。
でも確かに見たことがある。
というかむしろよく知ってる感じだ。
この時点で知人や友人は完全に候補から消した。
こんなに可愛い雰囲気の人は残念ながら俺の周りにはいない。
これまでに見たアイドルを思い浮かべていく。
そんなに候補は多くないから、じっくりと考えていけばその内たどり着けるはずだ。
……考えごとしてたらぼろ負けしました。
気がついたときには勝敗が決まっていた。
どこがまずかったのすらわからない。
最有力候補は顔を見たことだ。
結局どこで見たのかも思い出せないままだし。
試合に負けて、勝負にも負けました。
「早く終わっちゃいましたね。もう一回やりますか?」
よっぽど手ごたえが無かったのか、理由はわからないが優しい言葉が飛んできた。
「はい、もう一度お願いします……」
テンションが下がりきった声で、絞り出すように伝えた。
次こそはまともな勝負をしなければ。
思い出せないのは嫌だが、可愛い子にクソ雑魚だと思われたまま終わるのも嫌だし。
「あ、ちょっと待ってくださいね」
何事かと顔を上げると、なにやら鞄をゴソゴソやっている。
水筒が出てきた。
“そんな小さい水筒存在するんだ“と思うほど小さかった。可愛い人は持っている物も俺の世界と違うらしい。
蓋を開け少し横を向き、マスクを下げた。
「……100点?」
◯
「……知っている天井だ」
気づいたら自分の部屋のベッドで寝ていた。
なぜだ?今日はフォロワーから聞いたデュエルスペースに行っていたはずだ。
体を起こし、外を見てみると夕方ぐらいの景色だった。
とりあえず体を見てみるが、傷やアザのようなものは見当たらない。
立ち上がり、適当に体を動かしてみるが痛い場所は無い。
怪我をして家に運ばれたとかではなさそうだった。
次に持って出かけた鞄の中を漁ってみる。
財布、カード、イヤホン、充電器。特に無くなった物も無さそうだし、財布の中身も特に変わった様子は無かった。
ますます意味がわからない。
出かけたことすら勘違いなのか?
家を出たあたりから、今日のことを順番に思い出していってみた。
段々と記憶を辿って行き、カードゲームで対戦を始めたところまで思い出したところで、一つ強烈な記憶がフラッシュバックした。
今日“100点“に会った……。
読んでいただきありがとうございます。
次話は明日の朝に投稿予定です。
ブックマーク、評価、感想をいただけると作者はとても喜びますので、ぜひぜひお願いいたします。
よかったら過去作も読んでください。
現実世界〔恋愛〕ジャンルです。
下の方にリンク貼ってます。よろしくお願いします。




