第46話 リメイク
◇
学校では、また唯ちゃんと一緒に行動するようになった。
「私のこと、覚えてる?」
「もちろん」
第一声は、鼻につくものだったけど。
最初はみんな、腫れ物を扱うように距離を置いた。他のクラスから、私を見に来る人もいた。
だけど非日常とは、次第に慣れていくものだ。数週間もしたら、「おはよう」と挨拶が行き交うように、いつもの日常が戻ってきた。
「凪沙ちゃん、彼氏欲しいと思わないのー?」
「……」
「いつも私ばかり話してさー。凪沙ちゃんの恋愛話も聞きたいんだけどー」
そうしてまた、唯ちゃんは、上から目線で絡んでくるようになった。前よりはマイルドになったと思うけど。
人間って、早々すぐには変わらない。そんな私も、他の人と無理に一緒にいることはしなかった。単に友達が少ないからとも言えたけど、唯ちゃんの話を聞く立場も、悪くないと思えたからだ。心の余裕ができたというやつなのかもしれない。
そういえば、北村さんと五十嵐さんからは、黙って一万円札を渡されたことがある。二人とも気まずい顔をしながら、派手なネイルを施した手で、目の前に差し出してきた。
きっと三人で遊びに行った時、私が立て替えた分だろう。
「多いよ。悪いよ」
「……」
「……」
二人は無言を貫き通し、私が受け取る素振りがないとわかると、無理やりポケットにお札を突っ込んできた。足早にかけていく姿を、口を開けて見送ることしかできなかった。——それからは二人とは一切話をしていない。
◇
「——それじゃあ次は、文化祭の実行委員を決めたいと思います。はい。みんなシーンとしない! 誰かやってくれる人……責任感がある人がいいな。——おっ。織川さん! 立候補してくれるのね。ありがとう!」
私は背筋を伸ばして、手をピーンと挙げていた。担任の佐藤先生に指名を受けて、黒板に名が刻まれる。
他に誰も立候補者がいなかったから、クラスのみんなに拍手をされて、めでたく正式に文化祭の実行委員となった。
本来の自分だったら、進んで挙手したりはしないだろう。
学校に通えていない時期があったせいかな。失った時間を埋めるかのように、私は学校行事に率先して参加するようになった。
みんなの前に出るのは苦じゃない。そりゃ、恥ずかしいと思うことはある。
だけど、その時に自分に合った嘘のない演技をすれば良いのだ。
自信がなくても、自信があるような素振りをすれば、本当にそうなる。笑顔でいて、思いやりを持った行動を取ると、相手が好意的な感情を返してくれることもある。
どれもこれもルカから教えてもらったことだった。
今という時間に夢中になるほど、あのホテルの中で過ごしたひとときは、本当に夢だったように思えてくるから不思議だ。家族も普通に接してくれるから、私の身には何も起こっていないかのようだ。
でもたまに夢を見てしまう。あの真紅のドレスに身を包んだ、ルカが私を手招いている場面を——。
その手を取ろうとすると、いつも目が覚めてしまう。
嘘をついていたっていい。
私は彼女にとっても会いたかった——。
◇
季節は巡り、私は大学生になった。高校では、あの事件をきっかけにちょっとした有名人になっていたけど、地元から離れた大学を選んだら、誰も私を知らず心地よい新鮮さを感じた。
サークルも演技部に入った。バドミントン部と迷ったけど、大きな舞台で演じてみたい自分の気持ちに嘘はつけなかった。立ち稽古を通して、部長に筋が良いと褒められて嬉しかった。
念願だったバイトも始めてみた。居酒屋は思った以上に忙しくて、周りの人たちはみんな社交的で、毎日学ぶことが多い。
充実している大学生活。だけど、いつも心にぽっかりと穴が空いたように感じる。
サラサラの黒髪。大きな瞳。私を惑わすような唇。
——ふとした瞬間にルカのことを思い出してしまう。
最初こそ、憎らしいと思ったこともあった。だけど、時間が経つと嫌なことはすべて忘れてしまう。これは思い出が美化されるということだろうか。
「はぁ……」
「何ため息ついてるの?」
芹沢さんが話しかけてくる。彼はバイト先の先輩だ。
今日の居酒屋は人が少なめだ。空いている席が、いくつもある。
芹沢さんはビールを運び終わって、暇を持て余しているらしい。私のため息を目ざとく見つけて、だる絡みをしてくる。
芹沢さんの下の名前は——大地と言う。
初対面では思わず、"あの人"を思い出してしまったほどだ。
彼からは特に何をされたわけでもないけど、勝手に苦手意識を持って距離を置いていた。
「……あははっ。少し疲れちゃって」
適当に言い訳をする。
「"ナギっぺ"、まだ何もしてないでしょ。お酒も数回しか運んでないし」
「そうですよね」
芹沢さんは私のことをふざけたあだ名で呼ぶ。境界線を引くように、私は頑なに名字+さん付けで呼ぶことを徹底していた。
早くどこかに行ってほしかった。もう一度ため息をつくのは、さすがに感じが悪いよね。グッと堪えて、無心になっていた。
『——あの伝説のドラマ、あけぼのの恋がリメイク決定!』
隅にあるテレビから流れた声に、すべて意識が持っていかれた。




