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森の中のホテルに監禁された私。しかも、部屋にもう一人女の子がいる。  作者: 宮野ひの


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第46話 リメイク





 学校では、また唯ちゃんと一緒に行動するようになった。


「私のこと、覚えてる?」


「もちろん」


 第一声は、鼻につくものだったけど。


 最初はみんな、腫れ物を扱うように距離を置いた。他のクラスから、私を見に来る人もいた。


 だけど非日常とは、次第に慣れていくものだ。数週間もしたら、「おはよう」と挨拶が行き交うように、いつもの日常が戻ってきた。


「凪沙ちゃん、彼氏欲しいと思わないのー?」


「……」


「いつも私ばかり話してさー。凪沙ちゃんの恋愛話も聞きたいんだけどー」


 そうしてまた、唯ちゃんは、上から目線で絡んでくるようになった。前よりはマイルドになったと思うけど。


 人間って、早々すぐには変わらない。そんな私も、他の人と無理に一緒にいることはしなかった。単に友達が少ないからとも言えたけど、唯ちゃんの話を聞く立場も、悪くないと思えたからだ。心の余裕ができたというやつなのかもしれない。


 そういえば、北村さんと五十嵐さんからは、黙って一万円札を渡されたことがある。二人とも気まずい顔をしながら、派手なネイルを施した手で、目の前に差し出してきた。


 きっと三人で遊びに行った時、私が立て替えた分だろう。


「多いよ。悪いよ」


「……」


「……」


 二人は無言を貫き通し、私が受け取る素振りがないとわかると、無理やりポケットにお札を突っ込んできた。足早にかけていく姿を、口を開けて見送ることしかできなかった。——それからは二人とは一切話をしていない。





「——それじゃあ次は、文化祭の実行委員を決めたいと思います。はい。みんなシーンとしない! 誰かやってくれる人……責任感がある人がいいな。——おっ。織川さん! 立候補してくれるのね。ありがとう!」


 私は背筋を伸ばして、手をピーンと挙げていた。担任の佐藤先生に指名を受けて、黒板に名が刻まれる。


 他に誰も立候補者がいなかったから、クラスのみんなに拍手をされて、めでたく正式に文化祭の実行委員となった。


 本来の自分だったら、進んで挙手したりはしないだろう。

 学校に通えていない時期があったせいかな。失った時間を埋めるかのように、私は学校行事に率先して参加するようになった。


 みんなの前に出るのは苦じゃない。そりゃ、恥ずかしいと思うことはある。

 だけど、その時に自分に合った嘘のない演技をすれば良いのだ。


 自信がなくても、自信があるような素振りをすれば、本当にそうなる。笑顔でいて、思いやりを持った行動を取ると、相手が好意的な感情を返してくれることもある。


 どれもこれもルカから教えてもらったことだった。


 今という時間に夢中になるほど、あのホテルの中で過ごしたひとときは、本当に夢だったように思えてくるから不思議だ。家族も普通に接してくれるから、私の身には何も起こっていないかのようだ。


 でもたまに夢を見てしまう。あの真紅のドレスに身を包んだ、ルカが私を手招いている場面を——。


 その手を取ろうとすると、いつも目が覚めてしまう。


 嘘をついていたっていい。

 私は彼女にとっても会いたかった——。





 季節は巡り、私は大学生になった。高校では、あの事件をきっかけにちょっとした有名人になっていたけど、地元から離れた大学を選んだら、誰も私を知らず心地よい新鮮さを感じた。


 サークルも演技部に入った。バドミントン部と迷ったけど、大きな舞台で演じてみたい自分の気持ちに嘘はつけなかった。立ち稽古を通して、部長に筋が良いと褒められて嬉しかった。


 念願だったバイトも始めてみた。居酒屋は思った以上に忙しくて、周りの人たちはみんな社交的で、毎日学ぶことが多い。


 充実している大学生活。だけど、いつも心にぽっかりと穴が空いたように感じる。


 サラサラの黒髪。大きな瞳。私を惑わすような唇。

 ——ふとした瞬間にルカのことを思い出してしまう。


 最初こそ、憎らしいと思ったこともあった。だけど、時間が経つと嫌なことはすべて忘れてしまう。これは思い出が美化されるということだろうか。


「はぁ……」


「何ため息ついてるの?」


 芹沢さんが話しかけてくる。彼はバイト先の先輩だ。


 今日の居酒屋は人が少なめだ。空いている席が、いくつもある。


 芹沢さんはビールを運び終わって、暇を持て余しているらしい。私のため息を目ざとく見つけて、だる絡みをしてくる。


 芹沢さんの下の名前は——大地と言う。

 初対面では思わず、"あの人"を思い出してしまったほどだ。


 彼からは特に何をされたわけでもないけど、勝手に苦手意識を持って距離を置いていた。


「……あははっ。少し疲れちゃって」


 適当に言い訳をする。


「"ナギっぺ"、まだ何もしてないでしょ。お酒も数回しか運んでないし」


「そうですよね」


 芹沢さんは私のことをふざけたあだ名で呼ぶ。境界線を引くように、私は頑なに名字+さん付けで呼ぶことを徹底していた。


 早くどこかに行ってほしかった。もう一度ため息をつくのは、さすがに感じが悪いよね。グッと堪えて、無心になっていた。


『——あの伝説のドラマ、あけぼのの恋がリメイク決定!』


 隅にあるテレビから流れた声に、すべて意識が持っていかれた。

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ルカ出てこい!!
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