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森の中のホテルに監禁された私。しかも、部屋にもう一人女の子がいる。  作者: 宮野ひの


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第39話 ウチの夢





「ナギちゃん、見てみて。ウチ、20kgのダンベルを持ち上げられるようになったの!」


「本当だ。すごいね」


 トレーニングルームに入ると、鬼ちゃんが意気揚々とダンベルを両手持ちしていた。

 額には汗をかいており、無邪気に笑うと、口元で八重歯がきらりと光った。


 ルカはというと、床に寝っ転がって腹筋をしている。服からちらりと見えるお腹が、当初よりもたくましく筋肉が付いているのがわかった。


「凪沙、おかえり」


「んっ。ただいま」


 なんとなく、ルカの顔が見れなかった。彼女は動きを止めて、タオルで汗を拭う。


「ねぇ。何かあった?」


「えっ?」


 ルカが鋭く指摘をする。私をまっすぐに見て離さない。相変わらず、きれいな瞳だと思った。


「……な、何もないよ」


「そう? ならいいけど」


 彼女は近くにあったミネラルウォーターを手に取り、一口飲むと、再び腹筋をし始めた。


「——ちょっと、いい?」


 私は声を抑えて、鬼ちゃんに声をかけた。

 彼女は、どすんとダンベルを床に落とした後、くるりとこちらを振り向いた。


「んー。何?」


「話があるの」


 アイリスが部屋の外をそっと指差した。


「秘密の話ー!?」


 鬼ちゃんは、るんるんとスキップしながら、私たちについてきた。


 実はトレーニングルームに来る前、アイリスに了承を取っていた。

 "最後になるかもしれない"からと、鬼ちゃんともゆっくり話をしておきたかったのだ。


 ルカはロミオが見ていてくれるということだった。


「わたしは聞いちゃ駄目なの?」


 案の定、ルカが食いついてきた。


「ルカには後で言うから。今は待っていてほしいな」


「……わかった」


 彼女は物分かりが良かった。少し考え込んだ後、すくっと立ち上がり、ルームランナーに向かう。

 背筋が伸びた後ろ姿が、いつもに増して美しいと思った。


「早く行こー♪」


 鬼ちゃんの言葉を合図に、私たちはアイリスが用意してくれた個室へと足を運んだ。





 最初に思ったのは、私とルカが生活している部屋にそっくりだということだった。ダブルベッドと水色のソファーが目に入る。


 同じホテルの中だから、きっとそういう似た作りになっているのだろう。偶然ではない。


 早速、テーブルを挟んで鬼ちゃんと向かい合った。アイリスも横にいてくれた。


「何ー?」


 鬼ちゃんの頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいるように見えた。不思議そうな顔をしている。


 私は口を開こうとしたけど、喉がカラカラで、何も言葉が出てこなかった。


 私は何を鬼ちゃんに言うつもりだったんだろう。


 ——今日の夜、大地に抱かれる。


 そういうことを報告したかったのだろうか。


「ナギちゃん? どうしたのー。怖い顔してぇー」


 鬼ちゃんは呑気に言った。人差し指でほっぺたを触って「えがおー。えがおー」と言う。


「——ねぇ、アイリス。悪いけどお茶でも淹れてくれる?」


「かしこまりましタ」


 まずは喉を潤したかった。アイリスは部屋の奥に引っ込んで、電気ケトルを手にする。


 鬼ちゃんは鼻歌をうたい、膝でリズムを取っていた。——本当に自由人だ。


「鬼ちゃんはさ、ここでの暮らしは楽しい?」


「うん!!」


 間髪入れない返事だった。到底、嘘をついているようには思えない。

 バックに花が咲いているように見える。


「そっか……」


「ナギちゃん、何か悩み事? お姉さんが聞いてあげるのだー」


 彼女は両手をめいいっぱい広げてくれる。とってもいい子でもあるのだ。


「ありがとう。でも大丈夫だよ。——鬼ちゃんはさ、何か夢とかはある?」


 ルカのことが頭に浮かび、聞いたことだった。

 女優という夢のように、鬼ちゃんにもなりたいものがあれば、ここを出て行きたいと感じるきっかけになると思ったからだ。


「えっと……大くんのお嫁さんかなっ。恥ずかしい!」


 予想外だった。頭を銃で撃たれたような衝撃。

 じわりとした罪悪感を抱く。


「このホテルで二人で暮らして、幸せな未来を掴むのっ。あっ。もちろんアイリスもねっ! ずっと一緒にいてよねっ」


 鬼ちゃんはソファーから身を乗り出す。ティーカップを持ったアイリスは、パチクリと一度だけまばたきをした。


「あ、ありがとうございまス」


 明らかに照れているのがわかった。

 ——良かったね。アイリス。


「——ナギちゃんとルカちゃんは、いつか、ここを出ていっちゃうんでしょ?」


 鬼ちゃんがなんでもなく言うから、危うく聞き逃してしまうところだった。私は彼女に向き直る。


「なんでそう思うの?」


「うーん。理由はわからないけど……そんな気がしたの! だって、二人は別に大くんを好きなわけじゃないじゃん? えへへっ」


 目を細めて鬼ちゃんが語る。


「……」


 ルカとここを二人で抜け出せたら、どんなにいいだろうか。


「……あっ。ウチの夢。もう一つあったかも!」


「何? 聞かせて」


「ナギちゃんとルカちゃんが有名になること!」


 鬼ちゃんはとんでもないことを言う。

 何それ? 有名?


「ここにいる暮らしは楽しいけどさー! たまーに、退屈に感じる時があるんだよねん。最近はテレビばかり見てるからいいけどさー。知らない人ばかりだと眠くなるんだよねー。そんな"四角い箱"の中にさ、ナギちゃんとルカちゃんが出てたら、すっっっごく面白いと思うなぁ。だから、それがウチの夢かなっ」


 それは鬼ちゃんにとっての夢とは言わないだろう。——なんて野暮なことは口にはしなかった。


 彼女は、むふふと楽しそうに話した。


 それは私が明るい希望を持つような言葉だった。

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