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森の中のホテルに監禁された私。しかも、部屋にもう一人女の子がいる。  作者: 宮野ひの


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第35話 LOVEでス





「ねぇ。ウチさ、ここの脱出方法知ってるんだ〜」


「へっ?」


 トレーニングルームで鬼ちゃんと二人、並んでそれぞれヨガマットの上に横たわっていた。

 前にテレビで見たポーズを見よう見まねでやっていたら早々に飽きてしまった。その時、彼女がそっと耳打ちをしてきた。


 ルカは今日もルームランナーで熱心に走っている。

 アイリスは私たちをじっと見ているけど何も言わない。特におかしな行動とは、思っていないのだろう。


 鬼ちゃんは私の驚きぶりをみると、したり顔で笑った。


 ——本当かな。


「ナギちゃん、知りたい?」


 鬼ちゃんは耳をくすぐるように囁く。


 長年、このホテルにいる彼女のことだ。きっと自然と知ってしまったのかもしれない。


 懺悔部屋の鍵をくすねて、私に差し入れするくらいの度胸がある鬼ちゃん。

 本当に脱出方法を知っているような気がした。


 彼女があえてその行動を取らないのは、きっと大地と離れるのが嫌だからだろう。


「う、うん!」


「教えてあげなーーい!」


 きゃっきゃっと足をバタバタさせる。ふっと肩の力が抜けた。何それ。


「なんか、お腹減っちゃったなー! ねぇ。アイちゃーん♪」


 鬼ちゃんがお腹をさすりながら、アイリスを呼ぶ。


「はイ。なんでしょうカ?」


「部屋に、朝残したバナナがあったはずなんだー。取ってきてもいいかなー?」


 てっきりアイリスは、「それはできませン」とか「ワタシもついていきまス」とか、言うと思っていた。

 だけど、軽やかに「どうゾ」とだけ言ったのに、心底驚いてしまった。


 鬼ちゃんは無邪気に「はーい!」と言う。

 その後、ご機嫌そうな足取りで、自分の部屋に戻っていった。


「……いいの?」


「はイ?」


 アイリスは首を傾げた。


「私とルカがこのトレーニングルームまで来る時は、いつもアイリスが一緒じゃん。——鬼ちゃんのことは、追わなくていいの?」


 彼女はロミオを連れてくることもしない。


「はイ。いいんでス」


 アイリスが無機質に言った。完全に鬼ちゃんは特別扱いされていることがわかった。


「はぁはぁ。おまたせー!」


 程なくして、鬼ちゃんが戻ってきた。手にはバナナを一本だけ持っている。


「ごめんね。ナギちゃん達の分はないんだー。お腹すいたから食べちゃうねぇ」


 私の返答を聞く前に、鬼ちゃんはバナナにパクついた。もぐもぐと咀嚼して美味しそうだ。


「……」


 私はふと、あることを思いついた。


「ねぇ。アイリス。私も部屋に、昨日食べそびれたチョコチップクッキーがあったはずなんだけど……。お腹空いたから取りに行ってもいい?」


 一つの賭けだった。

 空気が重くなるのを肌で感じた。


「……ワタシもついていきまス」


 アイリスは私とルカから監視の目を離さない。

 それどころか、ついにはロミオまで呼び出した。


「皆さン。こんにちハ」


 ロミオは今日もひまわりの髪飾りを頭に付けていた。


「では、ロミオあとはお願いしまス。織川さン。早速、一緒に取りに戻りましょウ」


 アイリスが先にトレーニングルームを出た。


「……」


 言い出した手前、やっぱり良いと断るのも変だった。

 だから仕方なくついて行くことにする。


「ナギちゃん! アイちゃん! 行ってらっしゃーい!」


 鬼ちゃんは私たちを快く送り出してくれた。

 ルカはチラッとこちらを一瞥したけど、特に何も言わなかった。


 二人で長い廊下を歩く。無言の間が重々しかった。

 アイリスの背中は無防備だった。


「——ねぇ。アイリスは鬼ちゃんのことが好きなの?」


 なんでそんなことを言ってしまったんだろう。手持ち無沙汰だからかな。

 今となってみればわからない。


「——はイ」


 アイリスが静かにそう言った。背筋をぴんと伸ばして、一種の誇りのようなものを感じた。

 息を呑んでしまう。


「——ワタシは、鬼原真里さんのことが好きでス」


 アイリスが丁寧に復唱してくれた。

 そんなまさか……。本当にそういうことがあるのだろうか。


 自分で言ったことだけど、信じられなかった。私に冗談めいた気持ちがあったからだろう。


「そ、それはLIKEとして?」


「いいエ。LOVEでス」


 アイリスは前を向いたまま、淡々と喋る。


「……いつから?」


「わかりませン」


「鬼ちゃんのどこを好きになったの?」


「……織川さん、グイグイ来ますネ」


 鋭く指摘されてしまった。

 だって、気になるから。


「——放っておけないところですかネ」


 アイリスは少し時間を置いてから答えてくれた。


「確かに。鬼ちゃんって危なかっしいところあるもんね!」


「はイ。まさかワタシに内緒で、懺悔部屋の鍵を開けるとは思いませんでしたヨ」


 アイリスが首をぐるんと回して、こちらを見た。

 私は目を丸くして、固まってしまった。

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